旬到来! 枝豆とビールの根拠ある合わせ方を真剣に考えてみた

枝豆とビールという、定番中の定番の組み合わせ。それがどうして生まれたかどうかはさておき、日本でも楽しめるようになったさまざまな特徴を持つビールとの合わせ方を、ビールと料理の組み合わせのプロ「ビアコーディネイター」セミナーの講師である筆者が観察してみた。

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎
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5段階の★でおすすめ度を紹介します

枝豆、それは、ここ日本ではビールとともに提供されるのがあまりにもありふれている食べ物だ。さらに居酒屋のお通しとしてもありふれているし、筆者は学生時代、飲み代を安く上げようと思って食べ物は枝豆だけをひたすら注文するということもしたことがある。

旬は6月から9月なので、今まさに食べごろがやって来たということだ。まさに夏が中心で、冷やしたビールと一緒にぜひ味わいたいものだが、季語としては秋。十五夜の月見に供えることから「月見豆」と呼ばれるようにもなった。十五夜は旧暦の8月15日に当たり、現在の暦では2018年は9月24日になる。旧暦で8月は秋、さらにその中でも3分割中の2番目の仲秋に当たる(7月は孟秋、9月は季秋)。だから十五夜は「仲秋の名月」と呼ばれるし、季語は旧暦に則るので、そのときに供えられる枝豆は秋の季語になるというわけだ。

だから、現代的感覚でもって、夏にふさわしい軽めのピルスナーと合わせるのも、もちろんいい。しかしそれを「もはや文化と言えるほど定着した組み合わせ」として検証しないままにしておかず、さまざまなスタイルの銘柄を合わせてみよう。そこで、大昔から培ってきたそのときどきの季節を愛でる感覚でこの食べ物を秋のものととらえ、「味覚の秋」の精神でもって、さまざまなビールと合わせみた。コンビニエンスストアやチェーン展開している高級スーパーなどで入手しやすい銘柄を選んだつもりだ。そして0から4個の星の数という5段階で、おすすめの程度も示した。
星なし あえて試す必要はないだろう

★ そのビールの銘柄が好きなら試す価値あり

★★ 美味しさか変化具合のどちらかが優れている

★★★ 美味しさと変化具合ともに優れている

★★★★ 美味しさ、変化具合ともに最高

淡色ラガー(サッポロ エビスビール) ★

淡色ラガー(サッポロ エビスビール)
2016年のリニューアルでアルコール度数が5.5%から5%に下がったことが主たる要因なのか、ボディーが軽くなった。しかし大手メーカーの主力商品の中では、サントリーのプレミアムモルツと並んでまだボディーが強い。また以前は淡色ラガーらしく、クリームコーンや温野菜のような香りを感じる頻度が高かったが、特にリニューアル後はほとんど感じなくなった。

淡色ラガーといえども、温野菜のような香りはあってもわずかに抑えられるべきだが、それはあくまでも製造の現場や流通過程での品質管理の話であり、我々消費者は特に料理と合わせて美味しくいただければ、幸福感の獲得という目的を達成できる。温野菜も、好物とする人がいるはずの料理である。これを美味しくしてしまうためには、枝豆に振る塩を少し多めにしてみよう。温野菜の味付けにするのだ。

そして実際にこのビールと枝豆と合わせると、香りは感知できないが基になる成分は存在するのだろう、温野菜らしい香りが高まる。さらに、ビールの苦味で豆のうま味が強まる。また枝豆の色から想像できる植物の青々とした香りは、ホップの香りと高まり合う。とはいえ、全体的には食べ慣れた味に感じて、安心できる美味しさとも言えるが、驚きや意外性はなかった。

ロブストポーター(ヤッホーブルーイング 東京ブラック) ★★

ロブストポーター(ヤッホーブルーイング 東京ブラック)
焦げ香ばしさを特徴とするが、ギネスのようなドライスタウトと比べると甘味やフルーティーな香りも感じられる。それに伴ってボディーも強く感じる。枝豆と合わせると、焦げ香ばしさによって豆のうま味が強調される。普通、調理だけで焦げ香ばしさを付けるには、高温で加熱するしかない。そうすると、多かれ少なかれ、水分が飛んで食材が硬くなる。当然、みずみずしさも失われる。しかしビールという液体で焦げ香ばしさを足せば、食材のみずみずしさは損なわれず、むしろ増す。食べる前から想像できる結果であり、驚きはないが、美味しくいただける。

アメリカンペールエール(ヤッホーブルーイング よなよなエール) ★★★

アメリカンペールエール(ヤッホーブルーイング よなよなエール)
米国品種のホップをきかせることによって柑橘類などの華やかな香りと、はっきりした苦味を特徴とする、淡色の(ペール)エール。このレモンのようなホップの香りで、枝豆の温野菜らしい香りが隠れた。すると良い意味で豆一粒ごとの香りが弱まり、どんどん口に運べて食べやすくなった。さらにビールの苦味でうま味が強まった。ちなみに、この苦味でうま味が強まるという法則があるからこそ、うま味を大事にする和食と、苦味を特徴とするビールという飲み物を合わせて大成功させられる可能性を感じている。

全体印象として強いて言えば、枝豆らしい香りは弱まるので、物足りないと言う人がいるかもしれないが、この変化の面白さはぜひ味わっていただきたい。

ベルジャンゴールデンエール(レフ ブロンド) ★★

ベルジャンゴールデンエール(レフ ブロンド)
この銘柄はスパイスやフルーツが混ざった複雑な香りがして、麦芽由来の甘味がはっきりと感じられる。枝豆と合わせると、枝豆の温野菜らしい香りが隠れた。そして豆の甘味、塩味と合わさってビールの甘味がさらに強くなった。甘い物が好きな人にはおすすめする。

フルーツランビック(カンティヨン フランボワーズ・ロゼ・ド・ガンブリヌス)

フルーツランビック(カンティヨン フランボワーズ・ロゼ・ド・ガンブリヌス)
ベルギーでつくられる酸味のきいたビールに、サクランボと木イチゴを漬け込んだもの。酸味が勝った甘酸っぱさと、フルーツの味わいが広がる。さらに渋味も重要な特徴である。枝豆を合わせると、ビールの渋味が枝豆の青い香りと相まってお茶のような、青海苔のような感じをつくり出す。うま味を強めるということだ。またビールの酸味は枝豆の塩味を適度に和らげて調和をもたらす。まさに「美味しい大変化」が起きるので、ぜひ試してみてほしい。

セゾン(ベアードブルーイング セゾンさゆり) ★★★★

セゾン(ベアードブルーイング セゾンさゆり)
幅広いスタイルなので特徴を一概に言うことは難しいが、セゾン酵母を用いてフルーティーな香りのほか、土、カビ、馬小屋など一風変わった香りを持つ銘柄もある。ホップの香りと苦味ともに強さの幅は広い。この銘柄にはミカン、カボス、キンカン、ユズの果汁および皮が用いられてもちろんフルーティーなのだが、コリアンダーのようなスパイスの感じもある(コリアンダーはオレンジのような香りに例えられるので、当たり前なのだが)。

枝豆と合わせると、コリアンダーや陳皮を想像させるスパイスの香りがうまく枝豆に乗り、創作料理店で出てきそうな「スパイシー枝豆」のようになり、うま味を強める。またはっきり感じられる苦味もまたうま味を強める。枝豆の良さを保ちつつも、香りという彩りがうまく加わって、これも「美味し大変化」である。

枝豆は青果店で枝付きを買って家でゆでて簡単に食べられるし(ぜひ「塩ずり」をやってみよう)、コンビニでは既にゆでてあるものの冷蔵や冷凍が売っていて、電子レンジにかけてすぐに食べられる、手軽な食べ物だ。つまみの準備で節約された手間と時間は、ビール選びのために使おう!


※記事の情報は2018年6月18日時点のものです。
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