夏のスタミナ源に合わせて飲みたいイタリアワイン

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが在住していたヴェネツィアをはじめイタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、イタリアのうなぎ事情と、日本のうなぎ料理に合うイタリアワインについてご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:夏のスタミナ源に合わせて飲みたいイタリアワイン

イタリアのうなぎは冬の風物詩

日本の夏のスタミナ源といえば「うなぎ」だ。イタリアにも「うなぎ料理」がある。ただイタリアの場合、うなぎ(anguilla[アングイッラ]という)は日本のように全国的な食材ではなく、ある地方の、どちらかといえば特殊な料理だ。しかも、夏に食べるものではない…。

中でも、エミリア=ロマーニャ州、アドリア海をのぞむ小さな港町コマッキオは、イタリア随一のうなぎの産地として有名だ。ここでは毎年「うなぎ祭り(Sagra dell’anquilla)」が開催されており、うなぎ好きがここまで食べにやってくる。しかし、その開催時期は夏ではない。毎年9月末から10月中旬。そしてイタリアのうなぎのピークは冬であり、うなぎはクリスマスのご馳走として知られている。

さて今回は、そんなうなぎに、イタリア人はどんなワインを合わせるのかをご紹介したい。この厳しい暑さを元気に乗り切るため、栄養価の高い「うなぎ」に、相性のよいワインが見つかれば、鬼に金棒だ。

イタリア人が考えるうなぎとワインの相性

しかしうなぎとワインの組み合わせには、実はイタリアの専門家も頭を悩ませている。


「淡水魚のなかでも、うなぎは近づきにくい(ワインを合わせにくい)魚の一種だ」

ミラノの大手出版社「モンダドーリ」が主宰する、人気の料理レシピサイト”Giallo Zafferano”[ジャッロ ザッフェラーノ]のワインコラムにそんな記事を見つけた。

簡単には結論づけられないようだが、次のような見解を打ち出している。

「ローストして、皮を取った場合には、白ワインとのマリアージュが可能だろう。だが煮込み料理にした場合は、軽い赤ワインが最適だろう」

(引用サイト: http://blog.giallozafferano.it/aciascunoilsuo/vino-rosso-e-pesce/

白もよし、赤もよし。そのような表現になるのは、食べ方にバリエーションがあるからだ。先のコマッキオでは、人気の食べ方に、代表的なものが2つある。

  • うなぎの網焼き(Anguilla ai ferri)[アングイッラ アイ フェッリ]
  • うなぎの煮込み(Anguilla in umido)[アングイッラ イヌーミド]
はうなぎを丸ごと開きにし、網焼きにする。頭をつけたままの一本焼きは、日本の蒲焼きに比べるとかなり豪快だ。塩とレモン汁の味つけで、頭から尻尾まで丸ごと食べる。

はトマトソースで煮込む。トマトソースにはタマネギ、ニンニク、パセリなども入る。煮込むうなぎは丸のままブツ切り。皮もついたまま。煮込むと身はやや硬くなり、コリコリとした食感になる。

ほかに、フリット(揚げ物), マリネ、リゾットなどの食べ方もあるが、何れにしてもおもしろいのは、うなぎは赤ワインにも合わせられる魚だということだ。1の網焼きでは、かなり強い焦げ目ができるものの、白身魚としての淡白さが際立つので白ワインの方が合いそうだ。だが2のトマト煮込みにすると、身が硬くなって肉の感覚になり、さらにうなぎの脂分とトマト汁が合わさって、赤との相性が良くなるということだろう。引用サイトにはうなぎをはじめ、いくつかの魚料理に合う赤ワインが挙げられている。興味深いのでリストにしてみよう。

日本のうなぎにもおすすめのイタリアワイン

Bardolino Veneto[バルドリーノ ヴェーネト] (品種:コルヴィーナ )
Marzemino trentino[マルツェミーノ トレンティーノ] (品種:マルツェミーノ)
Grignolino del Monferrato[グリニョリーノ デル モンフェッラート] (品種:グリニョリーノ)
Barbera[バルベーラ] (品種:バルベーラ)
Bonarda[ボナルダ](品種:ボナルダ)
Croatina dell’Oltrepò Pavese[クロアティーナ デッロルトレポ パヴェーゼ](品種:クロアティーナ)
Gutturnio dei Colli Piacentini[グットゥルニオ デイ コッリ ピアチェンティーニ] (品種:バルベーラ, ボナルダ)
Piedirosso Campano[ペディロッソ カンパーノ](品種:ピエディロッソ)
Rossese di Dolceacqua[ロッセーゼ ディ ドルチェアックァ](品種:ロッセーゼ)
Lacrima di Morro d’Alba marchigiano[ラクリマ ディ モッロ ダルヴァ マルキジャーノ](品種:ラクリマ)
Freisa[フレイザ](品種:フレイザ)
Lambrusco[ランブルスコ](品種:ランブルスコ)

いずれもライトボディかミディアムボディで、若飲みタイプの赤だ。なかでも、私が注目したいのは、最後のFreisaとLambruscoである。これらは「赤のスパークリング」だ。この発想は、我々のうなぎにワインを合わせるときのヒントになるだろう。やはり日本の夏の「うなぎ」と言えば「蒲焼き」だ。醤油ダレにつけて、炭焼きした「うなぎ」は、ちょうどイタリアの「うなぎ」の食べ方の中間とも言える。白身だが脂が乗り、滲み出て、さらに焼き目が香ばしく、それらがタレとからまってこってりしている。ちょうど網焼き(グリル)の要素と煮込みの要素が合間った感じなのだ。ワインなら白と赤の中間が欲しくなる。そんなとき赤のスパークリング、特に微発泡ならば絶妙だ。こってりした脂は流しつつ、繊細なうなぎの風味は損なわずに、むしろ軽みを与えてくれる。特にLambruscoは、かなり日本でも手に入りやすくなった。「うなぎの蒲焼に赤の微発泡」。これが定番となれば、夏の家飲みの幅も広がり、暑さを乗り切るスタミナもチャージできるというものだ。


※記事の情報は2017年8月1日時点のものです。
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