家飲み会のオープニングに変化をつけたいとき、おすすめのイタリアの特殊なワイン

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが、在住していたヴェネツィアをはじめ、イタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、ちょっと個性的なワイン、シチリア島産のマルサーラについてご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
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イタリアで知ったマルサーラのアペリティフとしての使い方

会の始まりの飲み物に、ワンパターンを感じている人が多いと聞く。そんな方のために、今回紹介したいイタリアのアペリティフ(食前酒)がある。シチリア島産の「マルサーラ(il Marsala)」である。

この「マルサーラ」はワインの一種だが、アルコール度が17~18%程度とやや高く、独特の臭みがある。そのため、イタリアでも食前よりは、食後の一杯として、デザートなどと一緒に飲まれることが多い酒だ。

しかし実は、「マルサーラ」にもいろんな種類がある。選び方によっては食前酒としても活用できるというわけだ。そこでおすすめなのが、Fine secco[フィーネ セッコ]というカテゴリーだ。Fineは「アルコール17%」と比較的低く、「熟成期間1年」と最短であることを意味する。通常のワインでいえば「若飲み」だ。そのため、一般的に知られている「マルサーラ」のコクがあって、甘め、という味わいからすれば、スッキリとキレがある。seccoは「辛口」という意味だ。

ただ、あの燻されたような臭みは確かに残る。この風味のせいで、通常の食事とは合わせにくく、日本でもやや敬遠されがちなのだが、そこは考えようだ。その臭みに対抗できるほど臭いつまみを合わせればいいのだ。「毒をもって毒を制す」ならぬ「マルサーラをもって、臭いつまみを制す」というわけだ。

そこで私がイタリアで経験した、マルサーラに合うつまみをいくつかご紹介しよう。

  • パルミジャーノ=レッジャーノ(パルメザンチーズ)を始めとするハードタイプのチーズ。チーズの強い酸味がマルサーラによって洗い流されるよう。
  • ゴルコンゾーラを始めとする青カビチーズ。カビ独特の臭みが、マルサーラによって中和され、むしろ甘みに変わるほどの融合をうむ。
  • ピアチェンティーヌ・エンネーゼ。サフランと黒胡椒が入った生羊乳チーズ。日本ではあまり馴染みのないチーズだが、羊乳チーズ独特の香りとスパイスのピリ辛さが一体となっており、ちょっと複雑な味わいがある。そこにマルサーラの深みが加わると、まるでフォアグラを連想させるまろやかで濃厚な風味に。このチーズもマルサーラもシチリア産。
  • フォアグラ。またはレバーペースト。フォアグラは高級食材だが、日本の居酒屋メニューの串焼きのレバーでも遜色なし。様々なレバー系のつまみに、マルサーラは好相性をみせてくれる。
  • スモークサーモンを始め、燻製した魚のおつまみ。燻製ものとマルサーラは好相性だ。イタリアではニシンの燻製もつまみに出てくる。日本では、イワシの丸干しやあたりめなんかもいい。まだ試してないが「くさや」などはマルサーラのいい結婚(マリアージュ)相手だろう。
ひとまず、5パターンを紹介させていただいた。これらのつまみの例から大体の感じをつかんでもらえたら、あとは自分なりの組み合わせや創作でマルサーラ用のつまみが生み出せると思う。こうしたつまみを一品、一口サイズにして盛り、小ぶりのグラスにマルサーラを注げば、いつもと違った雰囲気のオープニングが演出できるだろう。

特にこれからの秋から冬への季節。夜などはかなり寒くなり、冷えたビールやスパークリング・ワインでの乾杯は、ちょっとキツイかなという時期。この人肌を感じるマルサーラは、舌触りもやわらかく、あったまる〜という感覚がするのだ。そこにまったりしたチーズや、暖かみのある燻製系のつまみは、落ち着いた気分にしてくれる。これでいつもの「家飲み」も、ガラリと空気を変えるはずだ。

意外と多いマルサーラの種類を選ぶコツ

さて、今回紹介した「マルサーラ」は、一般に日本では「マルサラ酒」と呼ばれているが、これは歴としたワインである。が、詳しくは「酒精強化ワイン」という種類である。「酒精強化」とはちょっとスゴそうな名前であるが、ワインの製造過程でアルコール(酒精)を加えるのでそう呼ばれる。このとき追加されるのは主にブランデーだ。ブランデーはブドウから造られる蒸留酒であるから相性がいい。すると、普通のワインよりアルコール度が高くなり、さらにブランデー特有の風味も加わる。それが先述の「臭み」のもとになる。アルコールが強くなれば、通常のワインよりも劣化が緩やかになり、長距離輸送も容易に可能になる。そのため、かつては航海に出る人々に支持され、そこから一気に世界中に広まったという歴史がある。ほかに有名な酒精強化ワインといえば、スペインのシェリー、ポルトガルのポルト、マデイラなど。どれも港に近い場所で作られている。

さて、そんなイタリアを代表する酒精強化ワインの「マルサーラ」だが、その独特の風味から、日本では、

「養命酒みたいだ」

という人がいたり、また、その独特の味わいゆえ、

「飲むタイミングがわからない」

という人もいたりして、隅に追いやられている感がある。やはりあの癖のある味わいは、日本の食卓に上がるものと合わせるのが難しい点もあるだろう。

そして、日本ではどちらかというと、この酒は料理の隠し味として知られている。ティラミスを始めとするケーキに混ぜたり、「マルサラソース」という肉料理の風味づけに使われていたりする。もちろん、イタリアでも料理酒として使われる局面は多いが、やはりワインとしての味わいが好まれている。そこで最後に、「マルサーラ」の色々なカテゴリーをご紹介しておこう。TPOに合わせ、また好みのつまみに合わせ、合うものを選ぶ楽しみが広がるだろう。

まず、基本の分類はこうだ。

Fine[フィーネ] (アルコール17%, 熟成期間1年)

Superiore[スペリオーレ] (アルコール18%, 熟成期間2年)

Riserva[リゼルヴァ] (熟成期間4年以上)

Vergine Soleras[ヴェルジネ ソレーラス] (熟成期間5年以上)

Stravecchi[ストラヴェッキ] (熟成期間10年以上)

ご覧のように、熟成期間によって分類され、長期になればなるほどコクや風味が強くなる。

またそれぞれに味のカテゴリーがある。

Dolce[ドルチェ]甘口

Semisecco[セミセッコ]中辛口

Secco[セッコ]辛口

例えば、「甘口」は苦味の強いチョコレートなど、食後のデザートに合わせたりする。「辛口」は食前、食後いずれでも、生で飲むことが多い。料理酒にもよく用いられるのもこの種類だ。「中辛口」はその中間。「辛口」を飲んでみて苦手だった方はこちらを試すとよい。さらには、赤ワインから作るか、白ワインから作るかでも細分化されるのだが、まずは上記の分類を、選択の基準に好みの1本を選んでいただければと思う。


※記事の情報は2017年9月19日時点のものです。
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