ワイン消費大国のイタリアで飲まれている最安値ワイン事情

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが在住していたヴェネツィアをはじめイタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回はイタリアの家庭での驚くべきワイン消費量とスタイルについてご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:ワイン消費大国のイタリアで飲まれている最安値ワイン事情

イタリア人が年間に消費するワインの量とは!?

イタリアは「ワイン消費大国」である。

2015年の統計によれば、イタリア人の一人当たりの年間ワイン消費量は約33リットルである。これは、750ミリリットルのボトルに換算すると、約44本。フランスに続く、世界第2位の数字である。世界全体のワイン消費量を見ると、1位はアメリカ、2位がフランスで、ドイツと並ぶ第3位にイタリアが入る。

参考:http://www.inumeridelvino.it/2016/10/i-consumi-di-vino-totali-e-pro-capite-2015-aggiornamento-oiv.html

そんな「ワイン消費大国」のイタリア人は、普段どんなワインを飲んでいるのだろう。家飲みワイン愛好家としては気になるところだ。そこで、毎日の食卓にワインは欠かさないという、ローマ在住の仕事仲間、ロッサーナ・バッコさんに、
「家飲み代として、年間どれぐらいかかる?」
と聞いてみた。少し考えて、
「家で飲む分だと、250ユーロぐらいかしら」
約3万円だ。先の統計にあった「年間一人当たり44本」を基準にすると、彼女の飲むワインは1本約5,6ユーロ、約740円である。

この数字だけを見ると妥当なワイン代と言えるのだが、彼女の飲みっぷりを知っている私には、これが逆に疑問になった。3万円そこそこでは済むはずがないと思うのだ。
「ボトルにすると、年間何本ぐらい飲む?」
問いただすように私が言うと、平然と彼女は、
「家族も飲むから、200本ぐらいね」
すげえ、とソファーにのけぞってしまった。その答えに圧倒されてすぐに頭が動かなかったが、後でざっと計算すると、やはり金額が合わない気がする。だって、250ユーロで200本ならば、1本1,2ユーロ, 約162円である。そんなワイン、あるの? そこで、ローマの最も大衆的なスーパーマーケットを調査してみることにした。

そこにある最安値ワインは一体いくらなのか?

すると、次のような商品を発見した。
最安値白ワイン:1ユーロ39 (約180円)
最安値赤ワイン:1ユーロ65 (約215円)
しかも、いずれもイタリア産ワインだ。そのコスト・パフォーマンスの良さに驚かされるとともに、
「うちはトラックで大量購入しているわ」
というロッサーナの言葉も思い出した。現実に2ユーロを切るボトルが棚に並んでいるのだから、それを箱買い、大量購入できる仕組みがあれば、1本当たりの価格はさらに下がるだろう。やはり彼女の話は現実味があったのだ。

良質なワインを安く買える環境こそワイン消費大国の強み

さらに驚くのは、その最安値ワインがそれほど質の劣ったものではないということだ。例えば、写真にある最安値白ワインの”Lapillo”の生産元は、地元ローマの南東部、かつて火山地帯であった丘陵地コッリ・アルバーニ(Colli Albani)を拠点としており、そこで生産される上級ワイン「コッリ・アルバーニD. O. C.」は国の保証付である。それに使われるブドウは、土着のマルヴァジーア・ディ・カンディア(Malvasia di Candia)を主力としており、おそらくこの”Lapillo”はその弟分、土着ブドウをベースにしたテーブルワインだと思われる。つまり、このワイナリーは、地元の堅実な、安定した質のワインを供給できる優良な生産者であるという印象なのだ。

参考資料:http://www.fontanadipapa.it/lapillo-it.htm

写真の値段タグを見てもらいたい。そこには26パーセントの割引がされている。すると定価は5,3ユーロ、約700円である。同じ棚のほかの値引きのないワインと比べてみれば、テーブルワインとしてはむしろ高い方であることがわかるだろう。
「質の良いワインを、安く飲める環境があるんだな」
トボトボと歩きながら、私は感心するやら、羨ましいやら。
良質なワインを安く買える環境こそワイン消費大国の強み01
良質なワインを安く買える環境こそワイン消費大国の強み02
ふと足を止めた。ヴァチカンのサン・ピエトロ広場がブルーのイルミネーションで華やいでいた。そうか。と、自分の思いつきに、私の頬が緩んだ。間もなく、クリスマスだ。そんな祝いの日に、地元の良いワインを、限界まで安く。これぞ地元ワイン蔵の心意気、と勝手に思い、私は心のなかで乾杯をしたのだった。


※記事の情報は2017年4月25日時点のものです。
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