冬に飲みたくなるイタリアの白ワイン

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが、在住していたヴェネツィアをはじめ、イタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、冷え込む冬においしい「白ワイン」についてお話します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:冬に飲みたくなるイタリアの白ワイン

冬におすすめしたい生産量イタリア一の白ワイン

太陽がまぶしい暑い日には「白」、風の冷たい寒い日には「赤」、というのがワイン選びの定番であろう。イタリアでも一般的にはそうである。だが、冷え込む冬の日でも飲みたくなる「白」がある。今回は、イタリア的な冬の白ワイン選びを、1つご紹介したい。

まずは、単刀直入におすすめを1つ。

Trebbiano Rubicone[トレッビアーノ ルビコーネ]

Trebbianoはブドウの品種名である。が、ワインの銘柄にもなるものだ。いくつか例を挙げよう。


Trebbiano D’Abruzzo [トレッビアーノ ダブルッツォ]

Trebbiano Di Romagna [トレッビアーノ ディ ロマーニャ]

Trebbiano Di Spoleto [トレッビアーノ ディ スポレート]


特にTrebbiano D’Abruzzoは日本への輸出量も多い。コストパフォーマンスの良いことでも知られ、スーパーでも目にしたこともある人が多いのではないか。家飲み用の白ワインとしては、ぜひうまく取り入れたい銘柄である。このTrebbianoは白ワイン用のブドウ品種として、イタリアで生産量が最も多いと言われ、特に中部(アブルッツォ州、マルケ州、ウンブリア州、トスカーナ州)での栽培が盛んだ。イタリア中どこでも飲める、いわば大衆ワインである。

中でも最も生産量が多く、最も有名な「D’Abruzzoアブルッツォ産」は、イタリア中部の東側の比較的温暖な地域で栽培される。だが、今回紹介する「ルビコーネ」は、それよりも北部。エミリア=ロマーニャ州のアドリア海側で生産されるワインである。このワインの特徴は、Trebbianoを100%使用するのではなく、土着品種のPignoletto[ピニョレット]と混醸する点だ。元来のTrebbianoは酸味が強い。まして地域が北上するほど、この酸っぱさは一層強調される。そこで、相性のいいブドウと混醸することで強い酸味と、独特の苦味を抑え、まろやかな味わいにしているのだ。

さて、このTrebbianoは、実はフランスの白ワイン用ブドウ品種「Ugni Blancユニブラン」のシノニム(別名)である。この「ユニブラン」はワイン用である以上に、「コニャック」や「アルマニャック」、つまりブランデーの原料として有名だ。「ブランデー」とは「焼きワイン」の意味だが、Trebbianoにもこうした蒸留酒のニュアンスが感じられる。

心温まるラヴェンナの郷土料理とのマリアージュ

さて、Trebbianoは実に生産量が多く、量産型の安価ワインが主力であるから、普通に飲んでしまうと味は「そこそこ」といったケースが多い。この「ルビコーネ」も価格帯は低く、特筆するほど味わいに優れているわけでは正直ない。だが「冬向き」と考えると、グッと頭角を表す。それは、組み合わせたい料理との相性である。

私がこのTrebbiano Rubiconeと出会ったのは、ある冬の寒い日にラヴェンナという町を旅していたときのことである。エミリア=ロマーニャ州の最西端に位置するこの町には、アドリア海からの冷たい風が吹き込んでいた。寒さから逃れるように入った一軒のトラットリア(食堂)で、私を憐れむように主人が出してくれた郷土料理の一皿は、私を心身ともに温めてくれた。それは、

Fricassea di coniglio [フリカッセーア ディ コニッリョ] ウサギ肉のフリカッセ

いわば「煮込み料理」の1種である。フリカッセとはフランス料理が発祥とされ、ホワイトソースを使った、日本で言えばシチューのような調理法である。それがイタリアに伝わり、イタリア化した。イタリアには「白い肉」と呼ばれるジャンルがある。鶏肉、ウサギ肉、七面鳥の肉、さらには羊肉、豚肉、仔牛肉もこの仲間に入る。イタリア式のフリカッセは、これらの白い肉を炒め、白ワインで煮込み、最後に「卵とレモン汁」を混ぜてとろみをつけるところが特徴だ。

ラヴェンナでこの料理をすすめられた時に、私は反射的に「赤」を頼んだ。ところがご主人が「これには「白」がいい」と、出してくれたのが先のTrebbiano Rubiconeだったわけだ。まさにシチューのような濃厚な旨味に、控えめな辛口のワインが優しく溶け合うようであった。直接飲めば、どこか薄味でピンとこないこの白だが、熱々で濃厚な煮込みに混ざり合うと、ブランデーの原料にもなる本来の特徴が顔を出し、まるで熱燗を飲む味わいで内臓に染み渡る充実感を覚えた。素敵なマリアージュがそこにあった。イタリア人は、安いワインを上手に飲んでいるのだなと感心させられる体験であった。

ご家庭では、フリカッセは少々ハードルが高いという方にも、「煮込み料理とトレッビアーノ」の組み合わせ、と発想を広げれば、日本でも色々と試す価値があると思う。もしTrebbiano Rubiconeが手にはいれば、ぜひご家庭の「シチュー」との組み合わせもおすすめしたい。その時は鶏肉など、お肉を多めに。寒い季節の、家飲みの隠し球として、食卓を一層温めてくれるだろう。


※記事の情報は2017年10月31日時点のものです。
  • 1現在のページ