家飲みウイスキーの最適解はコスパ抜群の【富士山麓樽熟原酒50°】キリン富士御殿場蒸溜所を訪ねました。

今、国際的に高い評価を受けている日本のウイスキー。中でも、家飲み派のウイスキーファンの間で「コストパフォーマンス良すぎ!」と評判なのが、キリンの「富士山麓樽熟原酒50°」です。富士山のふもとにあるこのウイスキーの蒸溜所、キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所を訪ねました。

まず、ウイスキーって何?

ウイスキーの木製の樽
蒸溜所の訪問レポートの前に、ちょっとだけウイスキーのお勉強をしておきましょう。
ウイスキーの定義は、国によっても違い、なかなか一筋縄ではいきませんが、大筋では「穀物を原料に醸造してアルコールを造り、その後蒸留したものを、木製の樽に入れて長期間熟成させたお酒」のことです。なので原材料は大麦、とうもろこし、ライ麦など様々。むしろ「木製の樽に入れて長期間熟成」の部分が重要なのです。

ウイスキーは大きく3種類に分けられます。大麦麦芽を原料にした「モルト・ウイスキー」、トウモロコシなどが原料の「グレーン・ウイスキー」、そして、その2種をブレンドした「ブレンデッド・ウイスキー」。キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所でつくられる「富士山麓」も、自社で蒸留したモルトとグレーンをブレンドした、ブレンデッドウイスキーです。
ウイスキー

3社の知恵と技術が富士山麓に結集

キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所
キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所は、日本のキリンビール、米国のシーグラム社、英国のシーバスブラザーズ社が合弁で立ち上げた蒸溜所です。目指す理想のウイスキーは「雑味がなく、すっきり果実や花を連想させる心地よい香りを持ったウイスキー」。ウイスキーの出来は、蒸溜所の立地環境に大きく左右されます。この理想を実現するための環境が、富士の裾野、御殿場にあったのです。富士が生み出す豊富な伏流水と、年間の平均気温13度という涼しい気候、そして一年を通して立ちこめる霧による高い湿度ときれいな空気。理想のウイスキーづくりのための自然の贈り物でした。

今回は、蒸留工程を担当する、この道40年のマスターディスティラー(蒸留責任者)の伊倉治さんにお話を伺いました。
インタビュアーは、「バイヤーズレポート」コーナーでおなじみ、名古屋の酒問屋イズミックのチーフバイヤーでソムリエの青田俊一さんです。
名古屋の酒問屋イズミックのチーフバイヤーでソムリエの青田俊一さん(左)とマスターディスティラー(蒸留責任者)の伊倉治さん(右)

富士山からの贈り物、豊富で良質な伏流水

富士山
キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所があるのは、その名のとおり富士山のふもとです。事務所棟の屋上に上がると間近に富士山。取材の日はあいにくの曇りでしたが、ほんの1分、偶然にも富士山頂が顔を覗かせてくれました。ウイスキーの仕込みに使うのは、この富士山の雪解け水が分厚い溶岩に染み込み、湧き出した伏流水。
青田 この富士山のふもとでウイスキーを造っていることで、環境の影響というのはそうとう大きいんじゃないですか?

伊倉 そうですね。なんといっても、水ですね。マザーウォーター(ウイスキーの仕込みに使う水)として、富士の伏流水を使っています。

青田 他の天然水との際立った違いはなんなんでしょう?

伊倉 雪解け水が富士山に染み込んで、だいたい50年ぐらいをかけて濾過されて湧き出しています。なので、不純物がほとんど含まれていません。甘みがあって雑味がない。本当においしい水なんです。それを仕込みにも蒸留にも使っています。

蒸溜所に潜入!

いよいよ、蒸溜所の中へ潜入!設備を案内していただきました。ちなみに、工場内には見学コースが設けられていて一般の方でもガラス越しではありますが中を見学することができます。(ご予約はコチラから


・仕込み釜

仕込み釜

最初に見せていただいたのが、仕込み釜。モルト用のものとグレーン用のものがあります。モルトは、大麦麦芽が原料ですが、麦芽の中には麦のデンプンを糖分に変える酵素が含まれています。この釜の中で麦芽に富士の伏流水を加え、温めると、麦芽酵素の働きで大麦のデンプンが「糖」に変わり、アルコール発酵の下地になります。グレーンの原料になるトウモロコシなどは酵素がないので、麦芽を加えて糖化させます。


・発酵タンク

仕込み釜

そして発酵タンク。特別に蓋をあけてモルトの発酵の様子を見せていただきました。中では、糖化した麦芽が、酵母の働きによりアルコール発酵してプクプクと泡が立っています。いわゆる「もろみ」と呼ばれる状態です。蒸溜所オリジナルの酵母で発酵させているそうです。


・蒸留機

仕込み釜

そして、蒸溜所のシンボルとも言える蒸留器。まるで「巨大なアラビアのランプ」を思わせる不思議な形をしているのがモルトウイスキー用の蒸留器です。今まさに蒸留の真っ最中でした。覗き窓から中を見ると、薄茶色の液体が渦を巻いていました。
アルコール発酵を終えた原料に熱を加えて、中のアルコール分を蒸発させ、冷やして液体にすることで高濃度のアルコールを取り出します。たった数%のアルコール度数が、この蒸留機によって数十パーセントにまで高まります。 これを樽に詰め、熟成させます。

グレーン・ウイスキーへのこだわり

「富士山麓」のようなブレンデッド・ウイスキーは、モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーという原料や蒸留方法の異なるウイスキーを複数組み合わせてブレンドして出来上がります。こちらの蒸溜所のこだわりは、良いモルトはもちろん、グレーン・ウイスキーにこそありました。


青田 こちらの蒸溜所の特長とこだわりを聞かせていただけますか。

伊倉 モルトはもちろんなんですが、グレーン・ウイスキーにも力をいれてまして、三種類の蒸留器をもっています。ライトタイプ、ミディアムタイプ、ヘビータイプといった3種類のグレーンをつくることができます。

青田 グレーン・ウイスキーってどちらかというと脇役というイメージなんですが、そこにこだわられている理由は?

伊倉 もともと、3社の合弁で出来た蒸溜所なんですが、そのうちシーバスブラザーズ社からはモルトを造る蒸留器、シーグラム社からはヘビータイプのグレーンをつくれる蒸留器とミディアムタイプのグレーンを作れる蒸留器を導入しまして、設立当初から、様々なタイプのグレーンを作れる環境が整っていたんです。3種類のグレーン蒸留器を持っているのは国内では弊社だけです。

青田 富士山麓の味には、その3種類のグレーンが活きているということですね。

伊倉 そうです。モルトと、3種類のグレーンがあって、この味が出来たということなんです。蒸溜所に併設されているファクトリーショップでは、蒸溜所限定のシングルモルト・シングルグレーンの商品も取り扱っています。

3種のグレーンを飲み比べ

グレーン・ウイスキーの蒸留器を三種類も使って作り分けている蒸溜所は海外を含めても極めて稀です。こだわりのグレーン蒸留機3兄弟、早速みせていただきました。そして、それぞれの蒸留機で蒸留された3タイプのグレーン・ウイスキーを試飲!
それぞれの蒸留機で蒸留された3タイプのグレーン・ウイスキーを試飲!
・ヘビータイプ

仕込み釜

ヘビータイプのグレーンを作り出すのが、バーボンを造る蒸溜所で多く使われている「ダブラー」という蒸留機。重厚な味わいのグレーンを作ります。


仕込み釜

青田 ではヘビータイプを…(飲む)。んー、すごい良いですね、香りが…。

伊倉 重厚なバーボンみたいな感じがすると思います。

青田 ほんとですね。


・ミディアムタイプ

仕込み釜

ミディアムタイプのグレーンを作り出すのが、ケトルと呼ばれる蒸留機。世界的にも珍しい蒸留機だそうです。バランスの良い原酒をつくれるため、味わいの柱になる「キーグレーン」としてブレンドされます。

青田 あ、香りの立ち方がぜんぜん違いますね。グレーンでこれだけ違いが出るというのは驚きですね。

伊倉 そうですね。ミディアムタイプは、長期熟成させると色んな香りが出てきます。バニラとか、メープルシロップのような香りとか。ちなみに、この原酒で造りだしたシングルグレーンウイスキーAGED25YEARS SMALL BATCHは、ワールドウイスキーアワードでベストグレーンを2年連続でいただいています。加えて、同じロットの原液を同じ場所で熟成させていても、樽によって違う匂いになってくるというのも面白いところです。
 

仕込み釜



・ライトタイプ

仕込み釜

ライトタイプのグレーンは、マルチカラムという蒸留機で作ります。連続的に蒸留が繰り返され、すっきりとした穏やかな味わいに仕上がります。

青田 では、ライトタイプを…… ああ、これ、飲みやすいですね。

伊倉 甘い香りがすると思うんですが。

青田 うん、そうですね。

伊倉 ライトタイプは、最初は匂いがほとんど無いんですよ。でも、樽に寝かせると甘い香りが出てくるんです。

青田 なるほど、こうしてそれぞれを飲んでから、富士山麓を飲むと、「ブレンド」ということの意味がよくわかりますね。おいしい。

熟成庫は10階建てのビルの高さ

熟成庫は10階建てのビルの高さ
敷地内の小道を行くと、樹齢を重ねた針葉樹に囲まれて熟成庫がありました。熟成庫1棟あたり約3万5千〜5万樽の原酒を保管でき、全部で6棟あります。
冒頭でもご紹介したウイスキーの定義の最も大切な部分「木製の樽に入れて長期熟成」を行うのがこの熟成庫です。一年を通して低温、しかも、富士山麓の森で発生する霧が、ウイスキー熟成に必要な高い湿度を生み出してくれます。こちらの蒸溜所では、通常使われる樽よりも、小さな樽を使います。管理の手間は大変ですが、この方がウイスキーが樽に触れる容積が相対的に増え、樽の成分をふんだんに溶け込ませることができるのだそうです。樽はバーボンやスコッチウイスキーの熟成に使われた古樽を使用しています。

アルコール度数50°の理由

ブレンデッドウイスキー「富士山麓 樽熟原酒50度」
一般的なウイスキーのアルコール度数は40度程度。それに比べ、富士山麓は50度と高いアルコール度数です。
高アルコール度数にすることによって、原酒を薄めることなく香りや味わいをそのまま保つことができます。また、濁り成分の除去のために通常行う冷却濾過をしなくても、濁りが出にくくなくなります(ノンチルドフィルタード製法)。実は冷却濾過で取り除かれていた濁り成分はウイスキーの味わいを作り出す大切な成分でもあったのです。
樽熟成したウイスキー原酒になるべく手をいれず、そのままブレンドしてボトリングしたものが、ブレンデッドウイスキー「富士山麓 樽熟原酒50度」なのです。


青田 このアルコール度数50度というのは?

伊倉 加水の量を減らし、高いアルコール度数で原酒を仕上げることで、なるべく樽開けそのままをブレンドできるように心がけています。

青田 ノンチルドフィルタードというのも、他のメーカーさんだと、そうとうアッパークラスの製品じゃないとないですよね。

伊倉 そうですね。

樽開け

樽開け
幸運なことに、樽開けの作業を見学することができました。熟成を終えてブレンドに回されるウイスキー樽が連なっています。この樽の栓を素早く抜き、目にも留まらぬ速さで香りを確認。樽を回転させると長い眠りから目覚めたウイスキーが流れ出てきます。あたりはウイスキーの芳しい香り……。なかなか得難い光景を目の当たりにして、この日の取材を終えました。
最後に、富士山麓のおすすめの飲み方を伺うと……


青田 富士山麓のおすすめの飲み方はありますか?

伊倉 味を楽しむならロックがおいしいですが、おすすめはハイボールですね。

青田 実は昨日飲んだんですが、ハイボールにしても力強い感じですよね。

伊倉 そうですね。炭酸に負けない品質をもっていますので。

青田 しかし、こうして丁寧に造ったモルト、三種類のグレーンといった、贅沢な原酒をブレンドして、このお値段(税込¥1,582)というのは、コスパ良すぎますよね~(笑)。
ブレンデッドウイスキー「富士山麓 樽熟原酒50度」
※記事の情報は2018年3月28日時点のものです。

 
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