イタリア男子に学ぶ、モテる家飲み(3)

いかにもモテそうなイタリア男子に、モテる家飲み術を伝授してもらいたい! NHK-Eテレの「旅するイタリア語」に出演中のマッテオさんにお願いして、イケタリアン(イケてるイタリア人)によるイタリア流おもてなしを体験させていただきました。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:イタリア男子に学ぶ、モテる家飲み(3)

モテる家飲みは、まるでステキな映画のようである

初回の記事:イタリア男子に学ぶ、モテる家飲み(1)はこちら
前回の記事:イタリア男子に学ぶ、モテる家飲み(2)はこちら

「良いワインは、良い映画に似ている。あっという間に過ぎるが、深い余韻を残す。一口ごとに新たな味わいが生まれ、そして良き映画がそうであるように、味わう人ごとに生まれ変わる。」これは、イタリア映画界の巨匠フェデリコ・フェリーニ監督(1920-1993)の名言です。この「ワイン」を「家飲み」に変えても、同じことが言えるでしょう。楽しい家飲みは、すっかり時間を忘れ、別れても、何度でも合いたくなる、そういうものです。マッテオさんのおもてなしは、まさにそんな上質な時間を共有させてくれます。モテる家飲みの3回目も楽しみですね。
モテる家飲みの3回目も楽しみですね。
リサ「イカのサラダに、チーズたっぷりのリゾット。どれも美味しくてぜんぶ食べちゃったから、お腹はいい感じですよ」
マッテオ「ちょっと待った。もう一品用意していますよ」
リサ「もしかして、デザート?」
マッテオ「ううん、チキン」
リサ「えー、これからお肉? 入るかしら」
マッテオ「イタリア人はね、だいぶお腹が満たされた頃合いに、お肉などのメインディッシュをいただくんだよ。だから、イタリアのメインは美味しいの。お腹いっぱいでも食べられる味。最後にそれを味わってもらいたいんだ」


やや目が点のリサさんをよそに、マッテオさんはフライパンを持ってやる気満々。というのも、イタリアの食事では、このパターンが普通です。イタリア旅行の経験のある方はご存知かもしれませんが、現地のレストラン・メニューは構成が、次のように決まっています。

  • アンティパスト(前菜) サラダ, ハム, サラミなど。
  • プリモ・ピアット(一皿目) パスタ, リゾット, スープなど。
  • セコンド・ピアット(二皿目) 肉料理, 魚料理, 揚げ物料理など。
  • コントルノ(付け合わせ) 二皿目に添える野菜料理。ソテーや温野菜が多い。
  • ドルチェ(デザート)
このように、全てがコース形式になっているのですね。そして、一般家庭での食べ方もこの形がほとんど変わりません。食事は一品ずつ食卓に運ばれ、この順序通りに食べられています。つまり、マッテオさんは今回、このイタリアの食習慣を再現しているわけなんです。日本人の感覚では、プリモ(一皿目)の時点でだいたい食事は完結しているのですが、イタリア人にとっては、ここからが「メイン」。さらに美味しいものが出てくるというわけなのです。

お腹いっぱいでも食べられるイタリア流のメインディッシュとは!?

マッテオ「これから作るのは、鶏肉のボッコンチーニ、パプリカ添え、という料理。お腹が満たされても、スイスイ食べられるメインディシュだよ」

ではまず、4人分の材料をご紹介しましょう。
材料は次の通り。

材料

  • 鶏胸肉 (今回はササミ6切れ使用) 400g
  • パプリカ(黄・赤) 各1個
  • 玉ねぎ 1個
  • 白ワイン 1/2カップ
  • 小麦粉 適量
  • オレガノ 適量
  • オリーブオイル 適量
  • 塩こしょう 適量
「ボッコンチーニ(bocconcini)」とは「一口で入る食べ物の量」のことを言います。つまり、ここでは「一口大の鶏肉」というわけです。

材料が揃ったら、早速調理開始です。マッテオさん、まずはボッコンチーニというだけあって、鶏肉を一口の大きさに、きれいに切り分けていますね。
鶏肉を一口の大きさに、きれいに切り分けていますね。
マッテオ「今日はササミを用意したけど、胸肉でもいいよ。脂身が少ない部位がいいね」
リサ「たしかに、あのこってりしたリゾットの後では、肉の脂身は重すぎ。でも、さっぱりしたお肉なら入りそう」

リサさんの言う通り、前菜やプリモ(一皿目)が軽ければ、肉汁たっぷりのお肉も大丈夫だけれど、大抵のイタリア料理ではセコンドに至るまでに結構な量がお腹に入ります。だから、イタリアでいただくセコンドのお肉は、脂身の少ないものが好まれます。仔牛肉、ラム、豚のヒレ肉、ウサギ肉など、大変人気です。霜降り肉は、イタリアではほとんど食べられません。

さあ、続いてはタマネギをみじん切りにします。マッテオさん、先に切り込みを入れてから、タマネギを刻んでいます。仕込みも手慣れたものですね。イケてます。
仕込みも手慣れたものですね。イケてます。

肉料理をさっぱり仕上げるイタリア流の秘訣

フライパンにオリーブオイルを入れ、そこにタマネギを加えます。が、なんとまだ、火にはかけていません。

マッテオ「日本では驚かれるのだけど、フライパンの上でタマネギとオリーブオイルを冷たい状態で混ぜてから、火を点けるのがイタリア流。こうすると、タマネギが焦げつかないの。ニンニクでも使えるよ」

たしかに、お腹いっぱいのとき、焦げた匂いはムッときます。そこに配慮したテクニックをさりげなく。そんな気が利いていると、そりゃ食べたくなります。
フライパンの上でタマネギとオリーブオイルを冷たい状態で混ぜてから、火を点けるのがイタリア流
プツプツとタマネギに火が通る音を聞きながら、次はパプリカを洗い、こちらも一口大に切りそろえます。
次はパプリカを洗い、こちらも一口大に切りそろえます。
ここでマッテオさん、まだ「食べられるかな」と心配そうなリサさんに声をかけます。

マッテオ「ちょっとだけ、このタマネギ見ててくれない?」

ゲストだからといって、ずっと座って見ているというのもつらいもの。一緒にキッチンに立ってみれば、むしろ打ちとけて、会話も一層弾むというものです。もちろん、お願いするのはあくまでも「簡単なこと」にするのが、楽しい家飲みのポイントですよ。このあたり、さすがマッテオさん、外しません。前回紹介したgalanteの精神にあふれていますね。

さてタマネギがキツネ色に変わってきたら、パプリカを加えて、軽く塩をします。そのまま、中火で5分ほど煮立てるようにします。こんな具合に。
さてタマネギがキツネ色に変わってきたら、パプリカを加えて、軽く塩をします。そのまま、中火で5分ほど煮立てるようにします。こんな具合に。
そして野菜全体に火が通ったら、今度はお湯を少し加えます(100cc程度)。それからさらに煮込み続けます。

マッテオ「イタリアでは、野菜はかなりクタクタに煮込むことが多いね。噛んでも歯ごたえがない状態。溶ける感じになるまで煮込むよ。ブロッコリーもクタクタにして、ソースに溶け込ませて食べることが多い。その方が、野菜の甘みが肉やパスタに移って美味しくなって、コクも出るよ」

なるほど。イタリアに「カポナータ」という野菜の煮込み料理がありますが、そのままパスタに混ぜてもソースとして美味しくいただけます。そんな感じでしょうか。

いよいよ鶏肉の投入です。鶏肉に小麦粉をまぶし、野菜を煮ているフライパンに投入。すべての具材と一緒にさらに10分ほど火を通します。
いよいよ鶏肉の投入です。鶏肉に小麦粉をまぶし、野菜を煮ているフライパンに投入。すべての具材と一緒にさらに10分ほど火を通します。
しばらくするとフライパンには野菜の煮汁が溶け出し、クツクツと煮立ってきます。その中で鶏肉は、炒めるというよりも、一緒に煮込まれている状態になっていますね。こうすることで、お肉にゆっくりと火が通り、脂身が少ない肉でもあまり硬くならずにすみます。

そして全体に火が通ったら、白ワインを加え、もうしばらく煮立ててアルコール分を飛ばします。この作業もリサさんにお願い。難なく楽しそうにこなしています。ちょっと腹ごなしにもなったかな?
この作業もリサさんにお願い
最後に塩とこしょうを足して、味を整え、オレガノで風味を加えて出来上がりです。
最後に塩とこしょうを足して、味を整え、オレガノで風味を加えて出来上がりです。

悪評をも笑いに変えるセンスこそ、モテる家飲みの隠し味

さてリサさんは、この日のマッテオさんのある行動に感心していました。

リサ「作業がひと区切りすると、さっと洗い物をサッとすませるの。すごいと思います」
マッテオ「洗い物がたまると、なんだか落ち着かないんだよね」
リサ「すごく手際が良くて、楽しそうにやって。働き者ですね」
マッテオ「イタリア人はよく、仕事をしないでサボってばかり、とか言われるけど、こうやってよく働くイタリア人もいるからね」

そういって笑いをとっていました。悪評を笑いに変えるこのたくましさ(笑)。作るだけでなく、後片づけでも、なんでも楽しんで。そんなイタリア人のスピリットを随所に感じます。
こうやってよく働くイタリア人もいるからね
さあ、それでは今日の三品目、いかがでしょうか。Buon appetito!「たっぷり召し上がれ!」
Buon appetito!「たっぷり召し上がれ!」

お腹いっぱいでも食事が進むよう、ワイン選びもやはり重要

お腹いっぱいでも食事が進むよう、ワイン選びもやはり重要
リサ「本当に美味しい。ぜんぶ行けます。鶏肉も柔らかくてジューシー、でも脂っぽくなく、全然重くない。サクサク食べられます。びっくり」
マッテオ「このようなさっぱりした肉料理には、少しコクのある辛口の白ワインをどうぞ。もっと進みますよ」
リサ「この白ワイン、合います。とろけるような野菜の甘みとワインのコクが絡み合って、シチューとか、濃厚なスープを飲んでいるみたい。まずい。止まんなくなったわ(笑)」
マッテオ「この料理もあまり味付けをしてないよ。ベースは野菜の甘み。調味料は塩とコショウだけ。それもほんの少し。イタリアの食事は量が多いけれど、ちゃんと食べられるように、味つけを工夫したり、組み合わせをうまくやったりしているんだ。だから・・・」
リサ「太る」
マッテオ「いいえ。大きくなります」  
一同、爆笑。

そう、心も体も大きくて、その中には優しさとユーモアがたっぷり詰まっている、イタリアの家飲みとはそんな感じがします。今回のマッテオさんのおもてなしは、優しくて、温かくて、笑い声にあふれ、じつに心が開放された気がします。ほんと、「良いワイン」「良い映画」のように、また何度でも味わいたくなります。そう思わせるところが、モテる理由なんでしょうね。


※記事の情報は2018年4月2日時点のものです。
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