マグロから旬のサンマまで。刺身とビールのマリアージュを真剣に探ってみた

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎

サーモンとヘーゼルナッツのビール

サーモンの味わいを広げるために、ガスバーナーを導入しよう
サーモンの味わいを広げるために、ガスバーナーを導入しよう
旬の魚を2種挙げたので、残り2種は通年手に入るものにしよう。その一つ目はサーモン。ぜひ導入してもらいたいのがガスバーナーで、家で手軽に「炙りサーモン」をつくることができる。焦げを付けることによってうま味が増すし、焦げの部分と生の部分の対比を楽しむこともできる。  

これに合わせてもらいたいのが「再仕込(さいしこみ)」というスタイル(醸造様式)の醤油だ。もともと山口県柳井市で発祥した製法だが、現在では各地で広くつくられている。発酵させて搾った生の醤油を再び麹に混ぜて再び発酵させてつくる。想像できる通り、濃口と比べると甘味やうま味、焦げ香ばしさが強いほか、熟成感も出てくる。そして中には、バターのような香りを持つ銘柄もある。これがサーモンの刺身に実に良く、まるでバターソテーのような感じも出てくる。  

これに合わせるビールとして挑戦してもらいたいのが、ヘーゼルナッツを使ったブラウンエールだ。ブラウンエールはもともとナッツのような香りがするのが特徴の一つだが、本当にナッツも入れてその香りを強めようとする意欲作で、日本では上の写真の銘柄がよく出回っている。さらに適度な焦げ香ばしさとほのかなバター香りもある。再仕込で食べる、特に炙ったサーモンと合わせると、特徴が高まり合い、濃厚な味わいになるのは想像に難くないだろう。  

ヴァイツェンと合わせると、焦げ香ばしさが強まるというよりも、香りが焼きバナナ(醤油を垂らしてつくると驚くほど美味しい)のようになる。こちらも濃厚な味わいになるので、ぜひヘーゼルナッツのビールと食べ比べてみてほしい。
米国オレゴン州から輸入されている、ローグのヘーゼルナットブラウンネクター
米国オレゴン州から輸入されている、ローグのヘーゼルナットブラウンネクター

マグロと濁り・フルーティーさがあるIPA

刺身といえばまずこのマグロ
刺身といえばまずこのマグロ
最後に、刺身で食べる魚種として最も一般的と言える、マグロを合わせてみよう。これまでの魚種にはぜひ使ってみてほしい醤油の醸造スタイルを挙げてきたが、マグロに関してはいつも使っているものでいいだろう。一つだけ注意するとするならば、今回挙げた淡口醤油や、使用する穀物としては小麦を100%またはそれに近い割合の白醤油だと、魚臭さを中和する消臭効果が低いため、臭みが気になる人が出てくるだろう。しかしこれも好みだ。  

これにぜひ合わせてもらいたいビールが、ヘイジーオアジューシーIPAだ。これは米国で急速に人気となったビアスタイルで、香り付けのためにホップを多用して、ホップ由来のフルーティーな香りを強め、見た目が濁っているのが特徴だ。  

これにマグロの刺身を合わせると、醤油がさらに複雑な香りと酸味を持つ和風ドレッシングに変化し、カルパッチョを食べているかのような感覚になる。マグロはフルーティーな味わいと合わせると、臭みが覆い隠されつつ甘味が強まったり、酸味で緊張感がもたらされたりする。だからフルーティーな味わいを持つビールをいろいろと試してみてほしい。

そしてヴァイツェンを合わせると、前述した酢酸イソアミル同士が高まることもあり、醤油らしい香りが増す。つまりヴァイツェンを活用すれば、醤油の味わいを強めるのに、単に醤油をたくさん使って塩気が強くなりすぎなくて済むのだ。バナナやクローヴのような香りは魚臭さを隠してくれる。
日本でも人気を博しているヘイジーオアジューシーIPA
日本でも人気を博しているヘイジーオアジューシーIPA

一方、ヴァイツェンを基点に考えたおすすめの刺身は、貝類だ。ホタテなどの貝類には4VG(4ビニルグアイヤコール)という香り成分がよく含まれていて、実はこれがクローヴのような香りがする。だからヴァイツェンと合わせると、ヴァイツェンらしい、そして貝らしい香りが高まり合う。またヴァイツェンの甘味は貝の甘味を強める。だから多くの貝の旬である春が来ると、筆者はヴァイツェンが飲みたくなってくる。  

ビアコーディネイターとしていろいろ理屈とそれで説明がつく現象を挙げたが、ぜひそれだけにとどまらず、自由な発想でいろいろなビールと合わせてみてほしい。新しい世界が必ず拓けるだろう。

※記事の情報は2018年10月13日時点のものです。
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