真造圭伍『ひらやすみ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して68》

平屋暮らしの日常を描いた真造圭伍先生のコミック『ひらやすみ』より、「くるみいなり」を再現! 主人公ヒロトの年の離れた友人・はなえさんが作っていた思い出の味を、番茶で割った泡盛と一緒に楽しみます。家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載・第68回です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:真造圭伍『ひらやすみ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して68》

人と関わることは怖くないと気づかせてくれた、心やすまる物語。

◾こんな本です 

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元俳優でアラサーにしてフリーターのヒロトはひょんなことから知り合ったひとり暮らしのおばあちゃん・はなえさん(83歳)と親しくなり、彼女の死後にその住み家であった平屋を譲り受けます。

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ(1)』「1日目/ヒロトとなつみ」より
生涯独身で、「ちょっと気難しくて寂しい老女」の殻に自らを閉じ込めていたかのようなはなえさんでしたが、飄々として裏表のない性格のヒロトと一緒にご飯を食べたりちょっとした冒険をしたりするうちに、徐々にその殻から抜け出す楽しさを知ったよう。

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ ⑷ 』「32日目/お墓まいり」より

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ⑷』「32日目/お墓まいり」より

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ⑷』「32日目/お墓まいり」より
はなえさんは人生の終盤にできた新しい“友達”に「ボロイけど大好きな花と木々に囲まれたあの平屋」を託すことを決意。きっかけとなったエピソードは何度読んでも目頭が熱くなります(1巻「6日目/白いアジサイ」)。そしてその平屋に、ヒロトの故郷・山形から上京してきたいとこのなつみが一緒に住むことに。

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ(1)』「1日目/ヒロトとなつみ」より
美術大学入学のためにやってきたなつみは素直で純朴ないい子なのですが、なにせ悩み多きお年ごろ。

友人関係や、漫画家になる夢を叶えるための葛藤で行き詰まったなつみをさりげなく励まし、時に黙って見守るヒロトの優しさにグッときます。

「俺は世のため人のために尽くすぜ!」と暑苦しい正義感を掲げることなく、自然体でいながら知らぬ間に周囲の人たちの悩みや苦しさを軽くしてくれるヒロト。

はなえさんやなつみのほかにも、平屋を管理する不動産会社で激務に追われ、日々キリキリしている(そして飲みっぷりが最高な)ヒロト好みの女子・よもぎさんや、ヒロトの同級生で妻子や仕事を持ちながらもどこか大人になりきれず、現実のプレッシャーに負けそうなヒデキなどが、ヒロトと関わることで新しい風を感じ、少しずつ変わっていく姿が丁寧に描かれていて、読んでいるだけで自分も前向きになれる気がしてきます。

実はヒロト自身も俳優時代に壁にぶつかって苦しんだからこそ、人の気持ちに寄り添うことができるのでしょうね。

自分語りになりますが、五十路になるまであらゆる壁をひたすら避けて楽な方へと逃げ続けてきた私は、そのツケとして多くの友人知人を失いました。

自業自得ながら先のことを考えると明るい気持ちになれずにいたのですが、80代で新たな友達に心を開いたおかげで幸せな晩年を過ごせたはなえさんの姿に、人間関係を築くのに遅すぎることはないと気づかせてもらえました。ありがてえ。

『ひらやすみ』はストーリーの素晴らしさに加えて、真造先生の描く風景や日常生活のディテールも大きな魅力です。

お気に入りの歩道橋からの眺め、雨の中を走るヒロトとなつみ、ファミレスの2階から見下ろす商店街のお祭りなどなど、印象的なシーンは数えきれないほど。

そうそう、よもぎさんが自慢のタワマン(部屋はとっ散らかっている)のベランダで高級ウイスキーを豪快に飲んだり、私の憧れの居酒屋『四文屋』でゴキゲンになっているシーンも大好きです! いつか聖地巡礼したいな〜。

『ひらやすみ』ここを再現

今回は最新巻(2025年7月現在)の8巻に登場する「くるみいなり」を再現します。

ヒロトとなつみの故郷・山形から殻付きのくるみが届き、どう食べようか思案する二人。

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ (8)』「71日目/くるみいなり」より
ヒロトの思い出をもとに、はなえさんが生前に作っていたくるみ入りのいなりずしに決定。

「くるみいなり」なるものを私は初めて知りましたが、検索してみたら茨城県にこれを名物とするお店があるようですし、レシピサイトにも載っていますね。

いなりずしを作るときはゴマを入れるのが好きなので、さらに香ばしいくるみが入ったらますますおいしくなるはず! ワクワクの初挑戦です。
 

◾お品書き

  • くるみいなり
いなりずし
〈材料〉
【いなりずし】
油揚げ

(A)
・だし
・砂糖
・醤油
・酒


すし酢

【具】
くるみ(殻なしを使用。大まかに割っておく)
枝豆(鞘から出す)
ひじき(水で戻して甘辛く味付け)
ガリ(細かく刻む)
ハム(細かく刻む)

〈作り方〉
① 米を炊き、すし酢を混ぜて酢飯を作り冷ましておく。
※はなえさんいわく、「白米だけでもうまい」そうです。
② 油揚げは麺棒(なければ菜箸)を表面で転がしてのし、半分に切って袋状に開く。
③ ②を沸騰した湯に入れて2分茹で、油抜きする。冷水にとって冷ましたらぎゅっと絞って水気をしっかりと切る。
 
油揚げを煮る
④ 鍋に(A)の調味料を入れ、③を加えて落とし蓋をし、20分ほど煮る。火を止めたらそのまま冷めるまでおき、味をなじませる。
 
煮た油揚げを冷ます
⑤ ④の煮汁を絞り、酢飯、白米、具を好みの組み合わせで詰める。

※ 材料は作中に登場するものに倣いました。
※ いなりずしのレシピはネットで検索した数パターンを混合しています。お好みのレシピをご採用ください。

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ (8)』「71日目/くるみいなり」より
いなりずしの材料
酢飯に具を混ぜ込まないのがはなえさん流。

“「自分たちにあってるのを選びなさい」って、ばーちゃんよく言ってたなぁ。”とヒロトは回想します。

その言葉はいなりずしのことだけでなく、人生のあり方にも通じるものでした。そして、くるみいなりを食べたヒロトはある決意をするのです(詳しくはぜひ作品で!)。

真造圭伍 /小学館『ひらやすみ (8)』「71日目/くるみいなり」より
◾食べてみました
具を混ぜ込まず、一つずつ異なる形で作るのがとても楽しかったです。

私が作ったのは、右から順にくるみ、ガリ、ひじきと枝豆、ハムとくるみ、ひじきとガリ。 まずくるみ入りのシンプルなものからいただきました。カリッと香ばしいくるみの風味と優しい酢飯の味を甘辛い油揚げが包み込む感じでとってもいい組み合わせ! なぜくるみいなりが一般的じゃないのか不思議になるくらいです。今後いなりずしを作るときは絶対くるみも用意しなきゃ。

そのほかの具もまったく違和感なく、変わりいなりのあれこれを堪能しました。手巻き寿司みたいに、各自好きな具を包む「手詰めいなり」パーティもアリなのでは!?

最後は残った具をミックスして詰めましたが、これまたオールスターな感じで気持ちが盛り上がりましたよ〜。

お酒は、ばーちゃんちにありそうな番茶で泡盛を割ったものを合わせています。暑い時に作るなら、冷たいお茶+お酒の組み合わせがおすすめ!

***

昔から知っているいなりずしにくるみを加えるだけで、ハッとするほど新しいおいしさに出合えました。

先の話のように、いくつになっても自分の気の持ちようで周囲といい関係を築くこともできるし、初めての味や楽しみを知ることもできるんですよね。『ひらやすみ』を通じて再認識できたことをとても嬉しく思います。

※記事の情報は2025年7月8日時点のものです。
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