[新連載]bar bossa 林伸次の<お酒のたしなみ入門①>

渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主・林伸次さんによる新連載スタート! バーテンダーという立場で「お酒との美味しく楽しい付き合い方」を綴っていきます。

ライター:林 伸次林 伸次
メインビジュアル:[新連載]bar bossa 林伸次の<お酒のたしなみ入門①>

二十歳になった、さて何を飲む?

先日、姪っ子と渋谷のダイニングバーで食事をしたときのこと、彼女は二十歳になったばかりで、お酒を飲もうかどうしようかと悩んでいて、僕に「何を飲めばいいの?」と質問しました。僕が渋谷で21年間もバーを経営しているから、「何を飲めばいいの?」という質問だったのだとは思いますが、そう言われてみれば、日本人女性が二十歳になって、「さあ、お酒を飲んでも良いよ」と言われて、いったい何を飲めば良いのでしょう。何か飲みやすいフルーツジュースを使った飲みやすいカクテルなのか、それともビールやワインなのか、今の日本には選択肢がありすぎて中々難しい問題ですね。

この連載では、そんな彼女のような「最初は何を飲んだらいいのか」と迷っている人や、「これから社会に出てお酒とお付き合いしなきゃ」と思っている人、あるいは「もっともっとお酒を楽しみたい人」に、「お酒との楽しい美味しい付き合い方」をお伝えしたいと思います。
BAR BOSSA 入口

そもそも、なぜ人はお酒を飲むの?

さて、確認しておきたいのですが、「お酒」って嗜好品です。例えば、煙草やお茶やコーヒーやチョコレートも嗜好品です。本来、別に口に入れる必要なんてないものです。でも僕たち人類は色んな理由で嗜好品を口に入れて楽しみます。

なぜ僕たち人類はお酒を飲むのでしょう。はい、たぶん一番の理由は「酔っぱらいたいから」ですね。

ではここで「酔っぱらう」ってどういうことなのか、改めて考えてみましょう。

アルコールって脳を麻酔させるのですが、まず大脳新皮質だけに麻酔がかかります。この新皮質は意識や認識、思考、創造性、運動、感覚などを担当していて、理性的な言動をとるように要求する司令塔です。人が他の動物と大きく違うのは、この新皮質が発達しているからです。その新皮質に麻酔がかかってぼんやりして寝始めます。かわりに本能や欲望のまま生きろとそそのかす旧皮質が表舞台へ登場します。この旧皮質は食行動や種族を保存するための性行動を調整し、これらの本能の行動をうまく行うための仲間と仲良くする能力や情動とも関係が深いところです。

はい。アルコールを摂ると、理性的な行動をとろうとする人間らしい箇所が麻酔にかかって、陽気になって、みんなと仲良くなりたいなって感じ始めて、エッチな気分にもなるという効果があるというわけです。もちろんこのまま飲み過ぎてしまうと、判断力や自制心が低下して、大きい気持ちになりわがままいっぱいで他人への迷惑など気にしなくなり、さらに脳全体に麻酔がいきわたると、歩けなくなったり、何を言ってるのかわからなくなり、それ以上いくと死にいたることもあります。

おわかりでしょう。ちょうど良いところで止めておくと、僕たちはお酒の力で、陽気になって、みんなと仲良くしようという気持ちを持ち合い、そして時には恋愛へと発展するという効果があるわけです。

お酒の場を楽しむために知っておくべきこと

BAR BOSSA 店内
僕たち日本人を含む、東アジア人特有のアルコールの問題もあります。

黒人と白人は比較的アルコールに強い体質と言われていますが、僕たちアジア人のうち、5割までは黒人や白人と同様にアルコールが飲めるタイプで、4割はあまりアルコールが飲めないのだけど、何度も回数を飲んでいると耐性が出来て、多少は飲めるようになります。そして残りの1割の人たちは全くアルコールを受け付けない体質です。その1割の人たちに無理矢理飲ませるのはいけません。5割のいくらでも飲める人たちは、4割の元々はあまり飲めないけど少しずつ飲めるようになった人と1割の全く飲めない人のことを頭に入れて、一緒に楽しくお酒の場を作っていただけると助かります。

お酒は、大きく分けて2種類の方法で作られます

さて、冒頭の「何を飲むか」に戻りましょう。

お酒には醸造酒と蒸留酒と2種類あります。醸造酒はビールやワインや日本酒といった、穀物や果物の糖分に酵母がついてアルコール発酵したものです。
ワインは醸造酒
ワインは醸造酒
本来、お酒はこの醸造酒がメインです。フランスやイタリアのような葡萄がたくさんとれてワインを作っているところのお肉や乳製品やオリーブオイルを使った料理にはワインがあいます。日本のような魚や味噌や醤油を使った料理には、日本のお米をお酒にした日本酒があいます。普通はそのように、その土地の食事にあわせて、その土地の醸造酒を飲むのが「一般的」と考えて良いのではと思います。

その醸造酒を煮詰めるとアルコールが空気中に飛びますよね。その空気中に飛んだアルコールを集めたのが蒸留酒です。蒸留しているからアルコール濃度が高いというわけです。ウイスキーやウオッカや焼酎はこの蒸留酒になります。
マールはブドウから作られる蒸留酒
マールはブドウから作られる蒸留酒
もちろん度数が高いので、何かで割った方が飲みやすくなります。例えばウイスキーを炭酸で割った飲み物が「ウイスキー・ハイ・ボール」です。今の日本では「ハイボール」とだけ省略されて飲まれています。そのウイスキーを焼酎に代えたものが「焼酎ハイボール」です。焼酎を炭酸で割ったものを「酎ハイ」と呼びますが、そういう意味ですね。

そしてこんな風に「お酒と何かをミックスした飲み物」を「カクテル」と呼びます。例えばジンをトニック・ウオーターで割ったものが「ジントニック」ですし、ジンとライムジュースをシェイカーでミックスしたものが「ギムレット」です。

今回は第一回目ということで、お酒ってこんなものだっていうのをお話ししましたが、次回からはどんな風にするとお酒を美味しく楽しめるのか順番にお話ししますね。

(参考文献) 
渡辺登『あなたを変える脳内薬品』(世界書院) 
葉石かおり『酒好き医師が教える 最高の飲み方』(日経BP社)


※記事の情報は2018年11月29日時点のものです。
  • 1現在のページ