10月の酒税率改正とビール各社の最新情報をまとめてチェック

10月に酒税率が改正され、ビールは減税、一方で新ジャンルは増税となる。ビール各社は好機とビールに全力を注ぐが、その中でも注目は「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」だ。アルコール度数3.5%と低いこの商品を、市場はどう受け止めるのか。

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9月中に買っておきたい新ジャンル

10月1日に行われるビール類酒税率の改正は下表のとおりです。ビールは350mlあたり6.65円減税されます。店によっては、10月以降は特売で6缶パックが1000円を切る商品が出てくるかもしれません。

一方、増税される新ジャンルは350mlあたり9.19円値上げされます。スーパーマーケットなどでの現在の販売価格は150円前後ですから、値上がりしたと感じる方が多いことでしょう。9月中は現行の価格で販売されますから、いつも新ジャンルをお飲みの方は、ひと月分くらい買いだめするのもおすすめです。
酒税率改正スケジュールと税額

減税で進むビールへのシフトチェンジ

3年前にも同様の税率調整が行われました。その後からビールの売れ行きが好調で、新ジャンルからビールに変える人がじわじわと増えていると言われています。

新ジャンルが登場してから20年近くになりますが、近年は家庭で飲むのは割安な新ジャンルや発泡酒で、ビールは酒場やレストランで飲むものになっていました。

ビールメーカーは、減税を機にビールへのシフトがさらに加速し、3年後に予定されている最後の税率調整(ビール類はすべて同じ税率になる)でビールが大幅に増えると見て、ビールに軸足を移してきているのです。

8月末にビールメーカーの下期のマーケティング説明会が相次いで開催されました。各社の方針を順番に見ていきましょう。

アサヒビール、アルコール度数3.5%の「スーパードライ ドライクリスタル」誕生

まず、会見に唯一社長が登壇し、その意気込みを伝えたのはアサヒビールでした。そして大黒柱の「スーパードライ」ブランドで、大型新製品「ドライクリスタル」を10月11日に発売することを発表しました。

松山社長は、この商品は従来の「スーパードライ(5.5%)」よりアルコール度数が2%低い3.5%にもかかわらず、味わいのバランスも崩れない自信作と紹介。準備された試飲サンプルを試すと、その言葉どおり味わいが調和して、スーパードライらしい飲んだ瞬間の飲みごたえとすっきりした透明感のあるキレがありました。

技術的には非常に難しかったと思いますが、仕込み配合を変えたり、使用するホップを工夫したりすることで狙い通りの味わいになったそう(これ以上は企業秘密)。

アルコール度数3.5%というのは、サントリーのチューハイ「ほろよい」シリーズの3%より少し強いというところです。「これなら2缶飲める」という方も少なからずいらっしゃるのでないでしょうか。もう少し飲みたいけれど酔いすぎるのは嫌という方にぴったりです。ビール減税の好機を生かして新しいユーザーを開拓できるかもしれません。
アサヒ 松山一雄社長と梶浦瑞穂マーケティング本部長
「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」を自信作と推す松山一雄社長(右)と梶浦瑞穂マーケティング本部長(左)
白みがかった外観の「ドライクリスタル」
メタリックな「スーパードライ」に対して白みがかった外観の「ドライクリスタル」
「クリスタルドライ」展示
アサヒビールのトップブランド「スーパードライ」の新製品だけに期待も大きい

サントリーは絶好調「サントリー生ビール」で躍進を狙う

今年、春にビールの大型新製品を投入したのはサントリーだけです。「サントリー生ビール」は好調に売り上げを伸ばし、年間販売計画を300万ケースから400万ケースに上方修正、20代~40代と若い層からの支持が厚く、ビール減税後もこの勢いを持続させるため積極的なプロモーションを展開します。

また、「うまいものにはうまいビールでしょ。」というメッセージで食との相性の良さを訴求してきた糖質ゼロの「パーフェクトサントリービール」は、家庭用だけでなく焼肉や中華、お好み焼き店など飲食店での取り扱いが拡大し、年内に5000店まで拡大する見通し。お店で飲んで気に入り、自宅でも飲むようになる好循環が生まれています。

そして、主力の「ザ・プレミアム・モルツ」は春のフルリニューアルが奏功して7月まで前年比111%で推移しました。さらに、大泉洋さんや広瀬すずさんを起用したCMでの「週末のごほうび」のアピールで新規ユーザーの大幅な拡大に成功したと言います。
サントリー 多田寅ビールカンパニー マーケティング本部長
「サントリー生ビール」で勝負をかける多田寅ビールカンパニー マーケティング本部長
「ザ・プレミアム・モルツ」展示
「ザ・プレミアム・モルツ」はデザイン缶や限定品を投入して店頭を華やかに演出する

サッポロはビールとRTD両睨み、ビールでプリン体&糖質70%オフ発売

サッポロビールの主力は「サッポロ生ビール黒ラベル」「ヱビスビール」の2つ。

若年層に支持されて売れ行き好調な「黒ラベル」は、「丸くなるな星になれ」というメッセージ性を前に出すコミュニケーションを継続し、期間限定のデザイン缶を投入して伸長を図ります。

「ヱビスビール」はプレミアムビールがレギュラービールと同質化していると見て、新たな高価格帯の需要の開拓を図ります。その起点となるのが2024年春に稼働する「YEBISU BREWERY TOKYO(ヱビス ブルワリー トウキョウ)です。恵比寿の地で34年ぶりにビール醸造を復活します。

そして、ビールの戦略商品として投入されるのが10月17日発売の「サッポロ生ビール ナナマル」です。糖質ゼロやプリン体オフを謳った機能性ビール類は一定の需要があり、堅調に推移しています。この商品はビール規格で糖質とプリン体を70%カットし、かつおいしい味わいを実現したそうです。

また、サッポロビールはビール4社の中で唯一RTD*に言及しました。ビールとRTDの市場を一体のものと見ていることの表れでしょう。カルダモンやコリアンダーなど8つのボタニカル浸漬スピリッツのソーダ割り「サッポロ クラフトスパイスソーダ」を「食事を引き立てる、新・食中酒」として9月12日に発売します。

*Ready to Drinkの略。栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料。
サッポロ 武内亮人常務執行役員と永井敏文ビール&RTD事業部長
会見に臨んだ武内亮人常務執行役員(左)と永井敏文ビール&RTD事業部長(右)
「サッポロ生ビール ナナマル」と「サッポロ クラフトスパイスソーダ」
「サッポロ生ビール ナナマル」で機能性ビール市場の拡大を図る一方、「サッポロ クラフトスパイスソーダ」で新しいジャンルの開拓を狙う

キリンビールは「一番搾り」と「SPRING VALLEY」に新製品を投入

キリンビールはリニューアルした「一番搾り」ブランドが好調に推移し、10月には新製品「一番搾りやわらか仕立て」を投入し、さらに20年続けている季節商品の「一番搾りとれたてホップ」を発売してブランドの活性化を図ります。

また、2015年にSPRING VALLEY BREWERY TOKYO(スプリングバレーブルワリー東京)を開業して以来、クラフトビールの拡大をけん引してきたキリン。これまでは特徴をビアスタイルで説明するなど、ビールに詳しい方向けのコミュニケーションを行っていましたが、その裾野を広めるために、一般の方にもわかりやすい色でビールを選び分ける提案にしたのです。

さらに独自に開発したホップ品種「ムラカミセブン」を一部使用した「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」を10月24日より全国で新発売します。
山田雄一執行役員マーケティング部長
山田雄一執行役員マーケティング部長は「一番搾り」ブランドとクラフトビールにかける意気込みを語った
「キリン一番搾りやわらか仕立て」
「キリン一番搾りやわらか仕立て」は原料に小麦麦芽を使った苦みの少ないマイルドな味わい

※記事の情報は2023年9月7日時点のものです。
 

  

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