家飲みで使える! コルシカとイタリアの融合オムレツとおすすめワイン

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが、在住していたヴェネツィアをはじめ、イタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回はミントの葉を入れたコルシカ風オムレツをご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
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イタリアで知ったコルシカの卵料理

今回は「家飲み」におすすめの、一風変わった卵料理をご紹介しましょう。

Frittata Brocciu [フリッタータ ブロッチュ]

Frittataとはイタリア語で「卵焼き」とか「オムレツ」のこと。これに「ブロッチュ(Brocciu)」というチーズを加える。つまりは「チーズ・オムレツ」のこと。おっと、なーんだ、とは思わないでください。

実は「ブロッチュ」はコルシカ島産のチーズなのだ。コルシカはイタリア半島のすぐ隣にある島だが、イタリアではなくフランス領だ。コルシカ産チーズの特徴は、山羊か羊の乳でしか作らないところにあるが、それらには独特の臭みや酸味があり、やや食べにくい。さらにこのブロッチュは、製造過程でできる「乳清」を再利用するフレッシュ・チーズで、出来上がりはちょうど、裏ごしした豆腐のようになるのだが、ほとんど日持ちはしない。本来は地元でしか食べられないが、私はコルシカ島の対岸に位置する、イタリア本土のリヴォルノという港町で初めてこの料理をいただいた。ここからコルシカ行きのフェリーが出ている。その日は、朝できたものを、急いで船で運んでくれたのだった。

さて、このオムレツのレシピはとっても簡単。

材料(6人分)

材料

  • 10個
  • ブロッチュ 300g
  • ミントの葉 12枚
  • オリーブオイル 大さじ3杯
  • 塩、こしょう 少々

作り方

  • ボウルに卵を割り、塩、コショウをしてかき混ぜる。
  • 大雑把に崩したブロッチュとミントの葉を1に加え、もう一度かき混ぜる。
  • オリーブオイルをひいたフライパンで炒める。半熟程度になるまではかき混ぜながら炒めるとよい。
おわかりのように、このオムレツの特徴は、コルシカ産「ブロッチュ」と、ミントの葉っぱを加える点にある。ミントが入ると、ブロッチュの癖のある風味が和らいで、香ばしさがアップする。これまでにない組み合わせのオムレツを、私はティレニア海にのぞむトラットリーアでいただきながら感激したものだった。

ということは、「ブロッチュ」がなくては日本で作れないじゃないか、と思われるかもしれない。しかし、ご安心を。その代用になるいいものがある。それは、後でお教えすることにして、なぜこのオムレツを紹介したくなったのか。そのお話にちょっとだけおつきあいいただきたい。

イタリア原産ブドウを使ったコルシカの絶品ワイン

先日、私の先輩のO先生に、コルシカ島土産の赤ワインをいただいた。

「いつもイタリアワインばかり飲んでるんでしょ。たまには違った土地のものも試してみてよ」

O先生はフランス文学の専門家だ。毎年夏にフランスを旅しているのだが、この夏は、これまであまり行く機会のなかったコルシカ島を、ゆっくり時間をかけて巡ってきたのだそうだ。フランスワインは時々飲むが、コルシカ島のワインはほとんど記憶にない。よろこんでボトルを受け取ると、

「その赤は、ニエルキオだよ」

O先生はいたずらな顔をした。やられた、と私は額に手を当てた。それを見て、O先生は益々うれしそうな顔をする。「ニエルキオ(nielluccio)」とは、イタリア土着の、イタリアを代表するブドウ品種「サンジョヴェーゼ(Sangiovese)」のことなのだ。それをコルシカ島でのみ「ニエルキオ」と呼ぶ。いつだったか「コルシカは領土としてはフランスだが、文化圏としてはイタリアだ」というO先生の主張を聞き、私も意気投合したことがあった。それを先生は今回、ワインで示してくれたというわけだった。

さて、今回いただいた赤は、コルシカ島北東の湾岸部に位置する「パトリモニオ(Patrimonio)」という地域で作られたものだ。飲んでみれば、確かにサンジョヴェーゼの酸味とタンニンが口に広がってくるが、飲み慣れた感触とは違っておもしろかった。テロワール、つまりイタリア本土の地質とコルシカ島のそれとは異なるし、また海に近い沿岸部でサンジョヴェーゼを育てることも、イタリアではあまりない。完熟度が高くなるのか、柑橘系のフルーティーさが強く漂うあたりが独特だった。もしイタリアのサンジョヴェーゼ使用のワインにマンネリを感じている方なら、このコルシカのニエルキオはおすすめである。

そんな感想を、後日O先生にすると、

「ヨーロッパでは、イタリア以外でサンジョヴェーゼが栽培されることはほとんどないだろ? ほぼイタリア本土でのみ栽培されている。サルデーニャ島でも、シチリア島でも、イタリア最大の収穫量を誇るサンジョヴェーゼは作られてない。ところが、フランス領のコルシカで、それが栽培されている。シノニム(別名)で。つまり、本名を隠して(笑)。そんなところが、コルシカは「隠れイタリア」だなって、思うのさ」

満足げに持論を展開された。確かにコルシカ島は13世紀から18世紀末までイタリアだった。当時はジェノヴァ共和国領だ。コルシカといえば、あのフランス皇帝ナポレオンの生誕地としても有名だ。ナポレオンは実は、イタリア人である。ナポレオンの名字は「ボナパルテ(Bonaparte)」(※)というが、トスカーナ州に起源を持つイタリアの貴族である。ナポレオンの父母も出自はイタリアで、ナポレオンの誕生後に、コルシカがフランスに帰属した。そんなコルシカに、私もイタリアとフランスの独特な融合を感じてならない。今日の一品Frittata Brocciuはその象徴のような気がしている。


(※)日本では「ナポレオン・ボナパルト」として一般に知られている。

コルシカ風オムレツを日本でも作れる裏ワザ

さて、お待たせしたが、「ブロッチュ」の代用にできるものとは、イタリアの「リコッタ」である。これも乳清を再利用したフレッシュ・チーズだ。イタリア製は牛の乳から作られているが、これなら日本でも簡単に手にはいる。リコッタで作るオムレツは、臭みが少ない分、ミントの葉を控えめにすればよい。そして、このオムレツには、もちろんコルシカ産の赤ワインが合う。ミントの香り立つオムレツに、ニエルキオのフルーティーさが絡み合って、最高の組み合わせだ。しかし、もちろんコルシカ産ワインはなかなか日本では手に入らない。でも、その正体はサンジョヴェーゼ、でしたよね。そのブドウを使用したワインなら代用可能といえる。リコッタとミントのオムレツにサンジョヴェーゼ使用のワイン。この組み合わせ、ぜひ一度お試しあれ。コルシカとイタリアの食の融合は、「家飲み」のキレのある変化球になるに違いない。


※記事の情報は2017年9月12日時点のものです。
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