日本酒造り・酵母の秘密!

日本酒は発酵食品。微生物がお米をあれこれして出来上がったものです。中でも「酵母」の存在は重要かつ、巨大! 清酒酵母の秘密を調べてみました!

メインビジュアル:日本酒造り・酵母の秘密!

日本酒造りで活躍する微生物たち・酵母の秘密とは?

日本酒とは、大雑把に言うと「発酵食品」です。発酵食品とは、微生物の力で原材料をあれこれして美味しくした食べものです。日本酒造りでは、3種類の微生物が活躍しています。

まず、麹菌というカビの一種。蒸したお米にこの麹菌を繁殖させて「米麹」を造り、麹菌が持つ酵素を使って、米のでんぷん(糖質)から糖分を作ります。

そして酵母。麹菌の酵素がつくり出した糖分を酵母が分解して、アルコールと二酸化炭素をつくります。発酵中の日本酒のタンクを覗くと、ぷつぷつと泡が出ていますが、まさしくこの状態が酵母のアルコール造りの現場です。

以上2種の微生物が日本酒造りの主役とされますが、さらにもう一種類。いわゆる生酛づくりという伝統的な醸造では、乳酸菌も活躍しています。酵母を増やす「酛(もと)」造りというプロセスで、酵母が他の雑菌に負けないよう、強い酸を出して守ってくれます。酵母の守り神というわけです。

さて、今回この記事では、日本酒における「酵母」の働きについて解説していきます。日本酒に使われる酵母は「清酒酵母」と呼ばれ、100を超える種類が存在するといわれています。
酵母の顕微鏡写真
酵母は、こんな感じのコたち。分裂したり、芽を出したりして繁殖します。自分で動くことはできず、水中をほわ~んと漂っています

酵母がアルコールをつくる

さて、酵母たちは日本酒造りの中でどんな働きをしているのでしょうか?

酵母も私たちと同じように、呼吸しています。呼吸して酸素を取り入れ、糖分を分解してエネルギーと二酸化炭素をつくります。この仕組みは私たちが生きていくために日々刻々やっていることとまったく違いはありません。

では、酸素のない状態になってしまったら、どうなるのでしょう。私たちは息苦しくなってやがてはお星さまになってしまいますが、酵母は違います。酸素がない状態でも頑張って糖分を分解してエネルギーを作り、生き抜いてしまうのです。その時、副産物としてエタノール=アルコールが作り出されます。これが、日本酒の醸造過程、密閉されたタンクの中で起こっているアルコール生成、お酒ができる秘密です。
日本酒蔵のタンク
とある日本酒蔵の発酵タンク。この中でもくもくと酵母がお酒を造っています

日本酒造りと酵母

日本酒造りでは、二段階の発酵が行われます。まず「酛(もと)」造りという工程があります。米と麹、水に、酵母を加えて発酵させる工程です。ここでは主に酵母の増殖が狙い。高密度に酵母が繁殖した培養液を造ります。まだ少量ですが、麹の酵素が米から作った糖分を、酵母が分解する、「アルコール発酵」が始まっています。ここで出来上がる、いわば高濃度酵母液を「酒母(しゅぼ)」と呼びます。文字通り酒の母。日本酒の発酵の元になる液体です。
もろみづくり
日本酒の発酵の「元」になる、酒母を造っているところ。小さなタンクで大切に酵母を育てる

そして、酒母ができたら、いよいよ「醪(もろみ)」造り、いわば、本番の酒造りの発酵を行います。大きなタンクに米と麹、そして、上記の「酒母」を入れ、発酵させます。米のでんぷんから麹に含まれた酵素が糖分を造り、その糖分を使って酵母がアルコールを造る、という麹酵素と酵母のサイクルがガンガン回り始め、お酒が出来上がっていきます。これがいわゆる「並行複発酵」という日本酒特有の発酵形態です。
もろみ
ぷつぷつと二酸化炭素の泡が出ている醪タンクの様子。泡が酵母の活躍のしるし

日本酒の酵母は変り者?

実は不思議なことですが、酵母にとってアルコールは「毒」なのです。お酒の醸造に使われる酵母以外の酵母は、ある程度アルコール濃度が上がってくると、これはヤバい、と発酵を止め、くわばらくわばら、とっとと休眠してしまうらしいのです。

ところが、日本酒造りに使われる酵母は、アルコールに対する感受性がどういうわけか鈍く、アルコール濃度が上がってきて身の危険がせまっても、なんのその、どんどんアルコール発酵を続け、ついには、20パーセント以上の高アルコール状態を作り出してしまうのです。このアルコール濃度は酵母にとってはまさに致死量らしい。自らつくったアルコールで身の危険がせまっていることを感知できず、せっせと高アルコール状態を作り出して、生命の危険に身をさらしてしまう……なんか切ない……けど、どっかけなげな、なんか滑稽なようでもあり、なんとも言えない習性ですね……。

以前は、清酒酵母は、特別にアルコール耐性が強いと思われていたのです。しかし、遺伝子解析の結果、どうもアルコールを避けるためのアンテナが壊れてしまっている事がわかったそうです。ある意味ちょっと変り者のヤツらなのです。でもそれだからこそ、ウマい日本酒ができたるわけなんです。

酵母が日本酒の「香り」をつくる

日本酒造りにおいて、酵母には二種類の働きがあるとされています。ひとつは、前述のアルコールをつくること。もう一つが「香り」づくりです。

酵母がつくり出すアルコールや二酸化単のかなには、リンゴやバナナの香りの成分と同じものが含まれているそうです。おいしい吟醸酒を飲んだ時、鼻に抜けるなんとも言えないフルーティが香り、いわゆる「吟醸香」は、これらの成分のたまものです。「かおり高い清酒」のかおり高さは、まさに酵母が作り出したものだったのです。

日本酒に使われる酵母は何種類もありますが、それぞれに香りに特徴があり、どの酵母を使うかによって、リンゴのようだったり、メロンのようだったり様々です。中には何種類からの酵母を混合してより複雑な香りを狙い場合もあるそうです。

最近では、ワインに使う酵母を日本酒に使う製品もありますね。ワイン酵母の日本酒は、ちょっと日本酒離れしたブドウっぽい香りがします。ちなみに、味噌づくりに使う酵母で日本酒を醸すと、味噌のかおりがする酒になるそうですよ。

日本酒酵母の種類・きょうかい酵母とは?

かつて、酵母は、それぞれの日本酒蔵に昔から住み着いている「蔵つき酵母」が使われていました。使われていた、というより醸造の歴史の過程で、独自の酵母が自然に増えていったわけです。そのため、全国の日本酒蔵で様々な味わい、香りの日本酒が造られました。しかし、逆に、品質が安定しないという悩みがありました、蔵によって酒質にばらつきがあったのです。

そんな中、明治時代に、国策として「優秀な酵母を培養して全国の蔵に提供する」という事業が始まりました。おいしいお酒をどんどん全国的に生産して、がっちり酒税を収めてもらおうというわけです。日本醸造協会という組織が「きょうかい酵母」という官製清酒酵母を各地の酒蔵に提供を始めました。

全国新酒鑑評会で高い評価を得るなどした蔵の酵母を分離、純粋培養して全国に配ったのです。かくして全国の日本酒の質は向上し、地方によらずおいしい日本酒が造られるようになったのです。現在でも、ほとんどの酒蔵はこのきょうかい酵母を使用しています。

きょうかい系酵母の功績のひとつは、吟醸酒の誕生です。もちろん醸造技術そのものの向上もありますが、きょうかい7号、9号と呼ばれる華やかな香りを出す酵母があって初めて作られた、おいしい日本酒です。
吟醸酒のラベル
吟醸酒の冠も、酵母のおかげです!

進化する日本酒の酵母

日本酒の酵母の主流をなす「きょうかい酵母」ですが、現在では県単位で独自の酵母を開発したり、大学の研究室が新しい酵母を分離して実用化するなど、多様化が進んでいます。変わったところでは、東京農大の関係者が開発した「花酵母」というものもあります。ナデシコやオシロイバナ、ベゴニアなどの花から分離した日本酒用の酵母です。花の香りがするわけではないようですが、華やかで良質な日本酒を醸すことができるそうです。
ナデシコ
花酵母第一号は、ナデシコの花から分離されたそうです

酵母の歴史、24憶年ですぞ……

酵母が属する真菌類が地球上に誕生したのは、一番古い推定で24憶年前だそうです。ティラノサウルスが生きていた時代ですら2億年前ですから、気の遠くなるような昔々から命をつないできた生物界の先輩です。それが、どういった因縁なのか、人類、しかも日本人の「晩酌」を成立させてくれたとは。なんという巨大な「不思議」なのでしょうか。酵母の「息苦しくなるとなんかアルコール出ちゃうんです!」という習性と、人類の「酔っ払いたいぜ」という習性が、奇跡のマッチングを果たしました。酵母さん、ありがとう!

日本酒で晩酌……24億年をかけた「奇跡の出会い」に思いをはせてみてはいかがでしょう。?

※記事の情報は2020年4月28日現在のものです。
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