「ジョージアワイン」の本当のすごさとは? 専門店おすすめの3本も紹介!

近年のオレンジワインブームで注目を集める「ジョージアワイン」。けれど、魅力はそれだけに留まりません。ワイン発祥国・ジョージアの風土や文化、卵型の甕「クヴェヴリ」を使った世界最古の製法など、ジョージアワインの特徴を専門店で探りました!

メインビジュアル:「ジョージアワイン」の本当のすごさとは? 専門店おすすめの3本も紹介!

教えてくれたのはこの方

本間 真理子(ほんま まりこ)さん

「コーカサスセラー株式会社」インポーター。2011年まで国際NGO職員として発展途上国の女性支援・母子保健推進活動に従事していたが、東日本大震災の復興支援を契機にNGOを退職。ワインを造って被災地を応援しようと、知人とジョージアにワイン畑を購入する。現在はインポーターとして日本に“本物のジョージアワイン”を紹介するほか、現地の小規模ワイナリーの資金援助活動等も行っている。写真は、息子の本間誠さんが経営する東京都江東区森下のジョージアワイン専門店「Gvino(グビノ)」にて。

本間 真理子(ほんま まりこ)さん

ジョージアワインの魅力とは? なぜワイン好きが最後に辿り着くのか?

―本間さんは2011年まで国際NGO職員として世界中を飛び回っていたそうですね。なぜジョージアワインに関わるようになったのですか?

ジョージアワインのことを初めて知ったのは、NGO職員として途上国で支援活動をしていたときです。

世界各国からやってきた援助関係者と同じゲストハウスで寝泊まりしていたんですが、みんなで食事をするときなどは政治や宗教の話はご法度なので、どうしても食べ物やワインの話題になるんですね。そんな時、最後は必ず「結局ワインといえばね、ジョージアだよ」という感じで話が締めくくられていたんです。それで私もジョージアワインに興味をもつようになって。

実はそれまで、ワインを心から美味しいと思ったことなかったんですよ。でもジョージアワインって変に手が加えられていなくて、難しくないし、“ぶどう酒”本来の味がする。そうした特徴に魅かれて、2011年にNGOを退職したのを機にジョージアにワイン畑を知人と共同購入したんです。

―それにしても畑まで購入したとはすごいですね。2011年というと日本でオレンジワインが認知される前ですよね? 何か勝機のようなものがあったんですか?

「いけるかも」思ったのは、ジョージアワインにはナンバーワンとオンリーワンの魅力があるからです。

そもそもジョージアという国はブドウとワインの発祥地です。ジョージアには8000年のワイン造りの歴史があることが科学的にも証明されて、「クヴェヴリ」という地中に埋めた甕(かめ)でブドウの皮も種も果梗(かこう)も丸ごと使って醸造する世界最古の製法は、2013年にユネスコの無形文化遺産にも登録されて話題になりました。

それから、ジョージアには525種類ものブドウの固有種があると言われています。世界に3000あるブドウ品種の6分の1がこの国に集中しているわけです。しかも、農薬や化学肥料にも汚染されていない土壌で育てられた、遺伝子も一切組み替えられていないブドウ原種がそのまま。

ユネスコ登録以降、ジョージアにも大きな資本が入ったりして大量生産型のワインも造られるようになりましたが、自然のもつ力を最大限に利用した昔ながらのワイン造りはジョージアの宝です。その宝物を、細々でもいいから次世代に繋いでいきたいと思ったんです。

ジョージアってどんな国?

ジョージアの風景
―お話を聞いていると、ジョージアはブドウ栽培に適した土地だということは想像できますが、実際どんな国なのでしょうか?

ジョージアは黒海とカスピ海に挟まれた、東西に長く広がる国です。北にロシア、南西にトルコ、南にアルメニア、南東にアゼルバイジャンがあります。面積は、北海道よりちょっと小さいくらい。
ジョージア地図
国の北側に大コーカサス山脈、南の方に小コーカサス山脈あるんですが、大コーカサス山脈が北からの冷気を遮りつつ、大小2つのコーカサス山脈が黒海とカスピ海から吹いてくるミネラルたっぷりの風を閉じ込めるんです。

だから大コーカサス山脈の南側あたりは土壌がものすごく豊かです。ブドウだけでなくリンゴとか小麦とか、19種類くらいの栽培植物が発祥しているんですよ。

なぜ、ジョージアでワイン造りが8000年も続いてきたのか?

ブドウ栽培
―ジョージアはもともと作物の栽培に適していたのですね。それでも伝統のワイン造りが8000年経った今でも続いているというのは驚きです。

私たちにとってワイン=嗜好品というイメージですが、ジョージア人にとってワインはもっと生活に密接なものです。日本人が家で梅干しや漬物を作るように、昔も今もジョージアの多くの家庭で、自分たちが栽培したブドウで自家製ワインが造られていますし、子供も味見程度に飲むことは許されています。

ジョージアにはワイン庁という国家機関まであって、ブドウの固有品種の管理とか、20ある原産地呼称地域で栽培できるブドウの種類やワインの収量、偽造防止のための管理などが行われています。

―ワイン造りはジョージア人の暮らしの一部で、国としても守るべき重要なものなんですね。だから、こうして8000年もワイン造りが連綿と続いてきたと。

そうなんです。ジョージアにはこんな話も残っています。昔、兵士が戦に出るときは、ブドウの枝を鎧の中に忍ばせて持って行ったそうです。そうすれば敵地で息絶えたとしても、自分の体からブドウの樹が生い茂って、その場所をジョージアだと思えるから。

つまり、ジョージア人にとってブドウとワイン文化はアイデンティティであり、切っても切り離せないものなのでしょう。

ジョージアワイン独自の「クヴェヴリ製法」とは?

クヴェヴリ
―ジョージア伝統のワイン製法に使われる「クヴェヴリ」って、どういうものなのでしょうか?

クヴェヴリは特殊な粘土でできた卵型の甕です。どんな土地の土を使ってもできるというわけでなく、ジョージア国内でもクヴェヴリを作れるのは5か所ほどしかないようです。

この甕を地中に埋め、そこにブドウを丸ごと投入して発酵させるんですけど、初めて使うときは、土の匂いがワインに移らないようにするのとワインが染み出すのを防ぐために、クヴェヴリの内側に溶かした蜜蝋をコーティングします。
甕を地中に埋める
―クヴェヴリ製法で造ると、どんなワインが出来るんですか?

クヴェヴリは陶器なのでステンレスタンクに比べて気密性が低く、酸素に触れることも多いため熟成が早く進むんです。

例えば、ジョージアには赤ワイン用の品種で「サペラヴィ」という個性的なブドウがあるんですが、ステンレス醸造だと熟成が若いうちはえぐみが強かったりして、あまり美味しいと感じられません。ところが、クヴェヴリで醸造すると熟成が早く進むので、比較的早いうちから美味しく飲めるようになります。

赤ワインを造る場合も白ワインを造る場合も、伝統的な製法ではブドウの皮も種も果梗も入れて造るので、酸化防止剤を使わずとも自然のタンニンの力で酸化を防ぐことができるんです。

―なるほど、皮も種も丸ごと使うから白ワインがオレンジ色になるわけですね。でも、ジョージアワインのすべてがクヴェヴリ製法で造られているわけではないんですよね?

クヴェヴリを使った昔ながらの製法で造られるジョージアワインは、ほんの数%程度で、ほとんどはヨーロピアンスタイル*で造られています。というのも、通常は1kgのブドウから800~850ccのワインが造れるんですが、クヴェヴリだと300ccしかとれない。それにとてもデリケートな製法なので、傷がなく糖度の高い厳選されたブドウでしか造れません。

今は商業用に効率的に造られたクヴェヴリワインも存在しますが、伝統製法で造られた本物のクヴェヴリワインは大量生産ができないんです。

―とても希少なものなんですね。

そうですね。価格もそれなりにするので、デイリーに飲むというよりも何かの記念とかお祝いのときに8000年の歴史を思いながら飲む感じでしょうか。

ただジョージアの場合、ブドウ自体が素晴らしいので、ヨーロピアンスタイルで造られたワインでも美味しいものがたくさんあるんですよ。

*ヨーロピアンスタイル…ヨーロッパで一般的なスタンレスタンクや木樽を使った醸造のこと。

ジョージアワインの主要なブドウ品種とその特徴は?

ブドウ
―先ほど赤ワイン用ブドウの話が出ましたが、ジョージアではオレンジワイン*だけでなく赤ワインも多く造られているのでしょうか?

もちろんです。例えば、前述した「サペラヴィ」はジョージアにあるブドウ畑の面積の1割以上で栽培されています。

ちなみにサペラヴィって「染める」という意味なんですが、本当に名前の通りポリフェノールが濃くてアントシアニンも豊富で、まさにスーパーフルーツ。実際サペラヴィから造られるワインは、昔は不老不死の霊薬として扱われていたんですよ。

―不老不死の霊薬…! なんだか飲むと力が湧いてきそうなワインですね。

サペラヴィに限らず、抗酸化力の高い元気なブドウが今でもたくさん栽培されています。抗酸化力の高いブドウから造られたワインは、添加する酸化防止剤の量も少なくて済むんですよ。

先ほどもお話したように、ジョージアではワインはもともと他の農作物と同じように各家庭で小規模に造られてきたものなので、ブドウ畑にも農薬や化学肥料が使われてこなかった。というか、農薬などを買うお金がなかった。だから土壌自体が健康なんです。

―ナチュールワインが好きな方にもおすすめできますね。

そうですね。ビオや有機の認証マークは付いていないものの、実はナチュールワインと言えるものたくさんあります。認証を取得するのにも多くの費用がかかるので、小規模なワイナリーは付けられないんです。なので、ワインを飲むといつも悪酔いする、という方にもぜひ試していただきたいです。

あと、なんといっても525種類もの固有のブドウ品種があるので、ジョージアワインはその土地その土地で栽培された単一品種のブドウから造られることが多いです。品種の違いや土地の個性を感じることができるのもジョージアワインの特徴だと思います。

*ジョージアでは「オレンジワイン」と言わず「アンバーワイン(琥珀のワイン)」と呼ぶ。 

<ジョージアワインの主要なブドウ品種>

▼横スクロールでご覧ください

白ワイン用 地方 品種 特徴
カヘティ ルカツィテリ カヘティ地方のワインを特徴づける代表的な品種。熟した実は赤みを帯びる。果皮がやや厚く酸味もあり、タンニンのしっかりした辛口が多い。
キシ ヨーロピアンスタイルでもクヴェヴリでも醸造される。熟したナシやフレンチ・マリーゴールド、タバコ、クルミを思わせる表情豊かなアロマが特徴。
ヒフヴィ ヨーロピアンスタイルでもクヴェヴリでも醸造される。ヨーロピアンスタイルのワインは植物のアロマを感じさせ、クヴェヴリ製法のワインは熟した果実やドライフルーツを思わせる香りをもつ。
イメレティ ツィツカ 晩熟タイプの品種。ナシやレモン、ハチミツ、メロンの香りを微かに感じさせる植物系のアロマが特徴で、酸度の高い生き生きとしたワインになりやすい。
ツォリコウリ ジョージアではルカツィテリに次いで広く栽培されている。柑橘系や白プラム、ビワなどの黄色い果実、花などを感じさせるアロマ。ツィツカよりもフルボディのワインをつくる。
カルトリ チヌリ カルトリ地方で広く栽培されている品種。晩熟で多くの実を結ぶ。ワインは緑色や藁色で、発泡性ワインも造られる。野生のミントやナシを感じさせる味わい。
ゴルリ・ムツヴァネ 晩熟の白ブドウで、明るく快活なワインを造る。ライムや野生の花、春のハチミツのアロマ。チヌリとブレンドして、特徴的な味わいの発泡性ワインを造ることも。

 

▼横スクロールでご覧ください

赤ワイン用 地方 品種 特徴
カヘティ サペラヴィ カヘティ地方ではあらゆるブドウ畑に見られる品種。豊かな熟成の可能性をもつ上質の赤ワインになる。スイートやセミ・スイートのワイン、あるいはロゼワインも造られる。
ラチャ アレクサンドロウリ やや晩熟で、ラズベリーやブラックチェリーのアロマをもった驚くほどまろやかなドライ、あるいはセミ・スイートのワインとなる。
サメグロレ オジャレシ 古くは木に這わせて栽培されていた品種。熟れるのが非常に遅く、11月半ばに熟れ始め、収穫は12月前半まで続く。深みと個性をもったセミ・スイートやドライのワインになる。
イメレティ オツハヌリ・サペレ イメレティ地方で広く栽培されている品種。ワインはラズベリー色となる。若いうちは植物系の香りでやや荒々しい口当たりだが、熟成すると優雅で深いアロマと長い余韻を残す豊かな味わいを獲得する。

ジョージアワインの楽しみ方は?

ワインで乾杯
―ジョージアではどんな時にワインが飲まれているんですか? 

特別な時だけでなく、普段から料理をより美味しくしてくれるものとして飲まれていますね。

あとジョージアでは「スプラ」という宴会が頻繁に開かれていて、そこでもワインは欠かせません。家族や仲間、近所の人たちと集まって、「ガウマルジョス(あなたに勝利を)」という言葉を乾杯の掛け声にワインを飲みます。

周辺を列強に囲まれたジョージアでは、昔から戦争や他国からの侵略が絶えませんでした。彼らにとっては今日無事に生きていることが奇跡で、仲間と美味しいワインと食事を楽しむことは喜びの証であり、聖なる儀式なんです。

―テーブルにはどんな料理が並ぶんですか?

地域によって異なるんですけど、よく並ぶのは「ヒンカリ」という小籠包に似た食べ物とか、玉ねぎ、キュウリ、トマト、クルミに刻んだハーブをたっぷり混ぜた「ジョージアサラダ」ですね。ジョージア料理は、とにかくニンニクとスパイスとハーブをたっぷり使うのが特徴です。

―日本でジョージアワインを楽しむときにおすすめの料理はありますか?

特にアンバーワイン(オレンジワイン)は白ブドウを使い、赤ワインの醸造法で造られるので、双方の良いところが活かされて、天ぷらやお寿司、脂身の多い煮魚とか、和食にもオールマイティに合わせられます。

中華料理もおすすめです。例えば、スパイスが使われた火鍋とアンバーワインはめちゃくちゃ合います。ぜひ試してみてください。

本間さんおすすめ! 飲めばジョージアワインの魅力がわかる3本

最後に、本間さんが「まずは、これ飲んでみて!」とおすすめしてくれたジョージアワインを3本ご紹介します。


 ①LAGVINARI ツィツカ・ツォリコウリ2019


  ■DATA
タイプ:白(アンバー・オレンジ)
使用ブドウ:ツィツカ、ツォリコウリ
原産地:イメレティ地方
蔵元:LAGVINARI
アルコール度数:12%
内容量:750ml

ご購入はこちら

クヴェヴリで醸造した伝統製法のアンバーワイン。ビオディナミ農法*で栽培されたイメレティ地方の固有品種ツィツカとツォリコウリの2種のブドウを使用。フローラルとメロンの優しい香り、キリリとした心地よい酸味と柔らかなミネラル感が絶妙に調和します。

*ビオディナミ農法…ルドルフ・シュタイナーが提唱したオーガニック農法のひとつ。天然の病害対策として植物やミネラル(石英)を用いたり、様々な有機肥料で微生物を活発にし、土壌を肥沃にして植物の免疫システムを高める。  
 

②LELO サペラビ 2017


  ■DATA
タイプ:赤・辛口
使用ブドウ:サペラビ
原産地:カヘティ地方
蔵元:Vazi+
アルコール度数:13.5%
内容量:750ml

ご購入はこちら

ヨーロピアンスタイルで醸造された辛口ワイン。柔らかなタンニンとコクがあり、ほのかなプラムのアロマとともに軽い甘みも感じられます。肉料理、ジビエ、チーズとどうぞ。
 

③VAZI+ キンズマラウリ 2017


  ■DATA
タイプ:赤・中甘口
使用ブドウ:サペラビ
原産地:カヘティ地方
蔵元:Vazi+
アルコール度数:11.5%
内容量:750ml

ご購入はこちら

糖度が高い選りすぐりのブドウから造る、ジョージアが誇るナチュラルセミスイートワイン。一切加糖せず、醸造タンクを冷却して発酵を止める手法でブドウの自然な甘さを残しています。みずみずしい夏の果物を思わせる甘さと渋みがビロードのように調和。塩味の効いた柔らかいチーズ、デザートや赤い果物と合います。少し冷やしてどうぞ。

▼ご紹介した3本はこちらの店舗でも購入できます!
「Gvino グビノ」(コーカサスセラー直営店舗)外観
「Gvino グビノ」(コーカサスセラー直営店舗)店内
「Gvino グビノ」(コーカサスセラー直営店舗)
東京都江東区森下1-5-7 Lapin CreateビルB1F
営業時間:12:00~19:00
Tel:090-6539-2600
コーカサスセラーHP

【参考文献】
『GEORGIA HOMELAND WINE(ワインの揺りかご)』ジョージア国家ワイン庁
『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』島村奈津、合田泰子、北島裕/誠文堂新光社


※記事の情報は2023年7月26日時点のものです。

  • 1現在のページ