歩いて楽しむ酒② 北フランスの港町フェカンの『ベネディクティン』

ルマンディー地方の古い港町フェカンの修道院で生まれた薬草系リキュールの蒸溜所を訪ねたときのことをレポートします。

メインビジュアル:歩いて楽しむ酒② 北フランスの港町フェカンの『ベネディクティン』

 

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

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国内外の酒スポットをいくつも訪ねてきましたが、“忘れられない景色”と出会ったのは、『シャルトリューズ』と同じく修道院で生まれた薬草系リキュール『ベネディクティン』の蒸溜所を訪ねた時のことでした。日差しのなかで雨に煙る海岸の切り立った岩肌を正面に見て、背後を振り返るとヨットが停泊する美しいマリーナには虹がかかっていたのです。今回はフランス北部のノルマンディー地方の古い港町フェカン(Fécamp)にベネディクティン蒸溜所を訪ねます。

パリの最寄りのビーチリゾート

パリのサン・ラザール駅を出発したル・アーブル行の列車におよそ2時間揺られて、小さな駅で2両編成の列車に乗り換えて、さらに20分ほど走った終点がフェカンです。もともとは漁業の街として栄えたそうですが、今はパリから近い風光明媚な海水浴場としてにぎわいます。
かわいらしいディーゼル車両は親子連れの旅行客でいっぱいだった
かわいらしいディーゼル車両は親子連れの旅行客でいっぱいだった
海に向かうとまぶしい光のなか、遠くに雨が落ち、海岸が煙って見えた
海に向かうとまぶしい光のなか、遠くに雨が落ち、海岸が煙って見えた
じきに太陽は雲に覆われて、切り立った崖が続く景色に変わった
じきに太陽は雲に覆われて、切り立った崖が続く景色に変わった
駅近くのマリーナ近くは柔らかい日差しに変わり虹がかかった
駅近くのマリーナ近くは柔らかい日差しに変わり虹がかかった

宮殿のようなベネディクティン蒸溜所

さて海岸の美しい風景を後に蒸溜所に向かいます。マリーナからは5分ほど。とぼとぼと歩いていくと現れたのはまるで宮殿のような建物です。およそ蒸溜所とは思えない装飾に溢れ、修道院というにはあまりに派手。なかに入って合点がいきましたが、蒸溜所と一体化したゲストハウスであり、リキュールや『ベネディクティン』の成り立ちを説明した博物館でもありました。
『ベネディクティン』をビッグブランドに育てたワイン商アレクサンドル・ル・グラン氏が建設。だがル・グラン氏は完成を見ることなくこの世を去ったそう
『ベネディクティン』をビッグブランドに育てたワイン商アレクサンドル・ル・グラン氏が建設。だがル・グラン氏は完成を見ることなくこの世を去ったそう
入場料7€(2012年11月時点)を払うエントランスホールには、いきなり蒸溜器が置かれていました。見上げると薬草を調合している修道僧を描いたステンドグラス。最初から薬草系のリキュールはこんなふうにつくれたのだとアピールです。ベースになるスピリッツ(蒸溜酒)にハーブを漬けたり、それを再度蒸溜したり、貯蔵して熟成させたりして仕上げていくのです。

『ベネディクティン』は中世にベネディクト派修道院で薬酒として開発されたレシピをもとにつくられています。フランス革命で一度レシピが失われましたが、後に発見した前出のル・グラン氏が再現に成功し、1863年に発売し大ヒット商品となりました。
エントランスのロビーには大人の男性の背丈よりも高い蒸溜器が置かれている
エントランスのロビーには大人の男性の背丈よりも高い蒸溜器が置かれている
ステンドグラスに描かれているのはレシピを開発したとされる修道士ドン・ベルナルド・バンセリか
ステンドグラスに描かれているのはレシピを開発したとされる修道士ドン・ベルナルド・バンセリか
修道士の右手には薬草。左手にあるのは聖書? それともレシピだろうか
修道士の右手には薬草。左手にあるのは聖書? それともレシピだろうか

稀代のマーケッター アレクサンドル・ル・グラン

『ベネディクティン』はたしかに薬酒として誕生したのでしたが、再現に成功したル・グラン氏はポピュラーにすることに腐心します。アーティストにポスターやコースターをデザインさせ、“薬酒”からの脱却を図ったのです。ちょうどフランスではブドウの木の害虫が蔓延してワインとブランデーの供給が激減した時期であり、ワイン商である彼はこのタイミングを商機と見ていたに違いありません。
蒸溜器の前でポーズをとるル・グラン氏(だと思う・・・メモし忘れた)
蒸溜器の前でポーズをとるル・グラン氏(だと思う・・・メモし忘れた)
アーティストとコラボレートしてたくさんの広告物をつくった
アーティストとコラボレートしてたくさんの広告物をつくった
アーティストとコラボレートしてたくさんの広告物をつくった

27種類のボタニカル

マーケティングの展示コーナーを抜け下のフロアーに降りると、原材料と製造の展示に変わります。使用しているボタニカルは27種類と言われており、主なものを手にとれるようになっていました。感触、香り、色など実物を手にすると記憶に沁みこみます。
ガラス越しにボタニカルが並べられている
ガラス越しにボタニカルが並べられている
一部のボタニカルは実際に触れることができる
一部のボタニカルは実際に触れることができる
続いては蒸溜器。そばまでは近づけませんでしたが、大きさやトップの形状が異なるものが20基近く並んでいました。ボタニカルをスピリッツに浸漬して再蒸留するだけでなく、素材によっては水に漬けて蒸留するものもあるそうです。それらを3か月間熟成させてからブレンドし、オーク樽でさらに8か月熟成させ、最後に蜂蜜などで甘みを加えて味を調えていきます。
蒸溜器は遠目に眺めるだけ。蒸溜室に入れないのは残念だった
蒸溜器は遠目に眺めるだけ。蒸溜室に入れないのは残念だった
大きなオーク樽で熟成して調合される
大きなオーク樽で熟成して調合される
ベネディクティンの製法の概略。このチャートは全体像をつかみやすい
ベネディクティンの製法の概略。このチャートは全体像をつかみやすい

最後は優雅にテイスティング

蒸溜所の見学が終わるとオシャレなテイスティングルームに通されます。試飲は1杯でけは無料でお代わりは2€でした。『ベネディクティンDOM』を試した後、ブランデーで割った『ベネディクティンB&B』を試します。どちらもとろりと甘く、たくさんのボタニカルが香る複雑な味わいです。食後にオンザロックでおいしいですが、ソーダやトニックウォーターで割っても楽しめます。お菓子づくりに使う方も多いそうです。
テイスティングルームは美術館のようにすっきりしていた
テイスティングルームは美術館のようにすっきりしていた
カウンターで好きなものを1杯試飲できる
カウンターで好きなものを1杯試飲できる
緑あふれるカフェスペースも併設されていて、ここでゆっくり楽しむのがベスト
緑あふれるカフェスペースも併設されていて、ここでゆっくり楽しむのがベスト
なかなかノルマンディーまで行く機会はありませんが、パリから列車で約3時間です。十分日帰りできるので、フリータイムの日に出かけてみてはいかがでしょうか。

こうした本格的なリキュールは日本ではあまりなじみのないお酒です。ただ、クラフトジンをはじめさまざまなボタニカルの香味をもった酒が受け入れられるようになってきました。日本の酒シーンの半歩先を行く気分で、本格的なリキュールをお試しください。

※記事の情報は2018年9月20日時点のものです。
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