2018 ボジョレー・ヌーヴォー解禁!

11月15日、ボジョレー・ヌーヴォーが解禁。解禁日に合わせたイズミックの試飲イベントにおじゃましてきました。今年のボジョレー・ヌーヴォー、シニアソムリエの評価は?

ライター:まるまる
メインビジュアル:2018 ボジョレー・ヌーヴォー解禁!
11月の第3木曜日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日。2018年は11月15日がその日でした。イエノミスタイル編集部も、株式会社イズミックで開催された試飲イベントにお邪魔して、ボジョレー・ヌーヴォーの楽しみかたを聞いてきました。
試飲イベントの様子

大豊作の今年は「歴史に刻まれる珠玉のヴィンテージ」

この日の試飲イベントに並んだ約30本のボジョレー・ヌーヴォーを少しずついただきながら、株式会社イズミックのシニアソムリエ安藤琢哉さんにお話をうかがいました。まずは毎年恒例の「今年の出来」ですが、2018年は「珠玉のヴィンテージとして歴史に刻まれる」と、かなり好評価ですね。

「そうですね。ボジョレー地区では、不作だった昨年に比べ、天候面でも問題がなくて豊作だったようです。豊作だから美味しいかというと必ずしもそうではありませんが、少なくとも品質の良いブドウを揃えることができますから、ワインにとっては間違いなく良いことです」(安藤さん)

なるほど、今年はかなり期待が持てますね。楽しみです!
株式会社イズミック安藤さん
株式会社イズミック リテールサポート部 シニアソムリエ 安藤琢哉さん

ボジョレー・ヌーヴォー全体の約半分が日本向け

ところで近年のボジョレー・ヌーヴォーですが、20年ほど前までは、解禁日になると老いも若きもボジョレー・ヌーヴォーに熱狂していたように思います。いまはお祭り騒ぎも影を潜めたようですが、売れ行きはどうなのでしょうか。

「日本の輸入量は2004年くらいのピーク時に比べると半減しましたが、まだまだ日本のボジョレー・ヌーヴォー市場は大きいですよ。国別の輸入量でいうとダントツの世界一です。世界全体の出荷の半分くらいは日本向けです」(安藤さん)

そんなに! 土用の丑の日のウナギとかバレンタインデーとか、記念日好きの日本人らしいですね。

「そうですね、うなぎに似ていますよ。もともとフランスのブルゴーニュに隣接したボジョレー地域では早飲み用のワインを作っていて、新酒を飲んで祝う収穫祭のようなこともやっていたんですが、ある時これにキャッチコピーをつけてプロモーションに利用したんですね。そうしたらこれがまずイギリス人にウケて、解禁日に競って輸入するようになった。ほどなく、日付変更線の関係で日本ならもっと早く飲めるよ、ということで、初モノ好きな日本人にも広まった。これが日本のボジョレー・ヌーヴォーというわけです」(安藤さん)
 
イズミック試飲会

より個性的で美味しく。変化するボジョレー・ヌーヴォー

今日ここに並んだワインはどれも非常に美味しく感じました。しかし最近はボジョレー・ヌーヴォーは若くて、とりわけ美味しいものではない、なんていうことをいう人もいます。ホントにそうなんですか。

「フレッシュで果実味が高いのが新酒で、しっかり熟成したワインとは違うのは確かです。それがいいかどうかは好みの問題です。ただしそれとは別ですが、最近のボジョレー・ヌーヴォーは味わいが変わってきています。大きな転機だったのは、2000年代に入ってペットボトル入りのボジョレー・ヌーヴォーが出たあたりだと、私は思っています」(安藤さん)

ペットボトルに入っているボジョレー・ヌーヴォーがあるんですか。

「あります。このときから現地でペットボトルに詰めてもいいよということになった。それから数年後には、手摘みオンリーだったのが、機械摘みでもいいことになった。それで出荷量はドンと上がって、価格も安いものが出て、結果的に、質の低いものも出てきてしまった。ヌーヴォーは発売日が決まっているから難しいんですよ。農産物に解禁日があるって大変なことです。普通ならブドウの状態が一番よくなる時を待って、生産者が収穫時期を決めるのに、ヌーヴォーは発売日から逆算して、未成熟で糖度が上がっていなくても収穫せざるを得なくなる。無理して作っている生産者も多いと思います」(安藤さん)
 
コークスクリュー

生産者によってその年はうまくいった生産者もあれば、無理をしたところもあって、同じ年でも当たり外れの幅が大きいのがボジョレー・ヌーヴォーだということですか。全体の量は増えて、品質のそれほど良くないものも出回ったということですね。

「私はそう思います。それが初めてのボジョレー・ヌーヴォー体験だったりすると『なんだこんなものか』と思ってしまう。それが人気が落ちた理由の一つかな、と思っています」(安藤さん)

もしそうなったら、日本人だとワイン=ボジョレー・ヌーヴォーという人も多いわけですから、ワイン全体に失望してしまいますね。

「そうですね。で、いまどうなってきたかというと、ボジョレー・ヌーヴォーの消費量も生産量も減ったなかで、生産者は、大量生産型から、個性や特徴を出すように変わってきています。畑を区切ったりブドウを選りすぐったりして、品質と値段が高めのクラスを作って選べるようにする。一部では『ノンフィルター』や『無添加』を売り物にするといったようなことです。ちょっと前までは、そこまで味に固執して作るようなワインではなかったのに、いまでは単にフレッシュでフルーティーなボジョレー・ヌーヴォーではなくなってきているのです」(安藤さん)

なるほど、収穫祭の縁起物みたいな位置付けだったのに、ここにきて味のバリエーションも増えて、価格の少し高めのものを選べば、かなり美味しく飲める、というわけですね。私たちのような初心者ワインファンにはうれしい状況と言えますね。
 
株式会社イズミック海田さん
株式会社イズミック リテールサポート部 シニアソムリエ 海田恵利さん

ボジョレー・ヌーヴォーをきっかけに拡げてほしいワインへの興味

「日本ではボジョレーイコール、ヌーヴォーですけれど、ボジョレー地区では、ヌーヴォー以外にも、醸造してから数年熟成させるワインも作ってるんです。モルゴン、ムーラン・ナ・ヴァン、サンタムールといったボジョレー地区の村の名前をつけたこれらのワインは、ヌーヴォーと同じガメイ種で作られている、繊細で個性的なワインです。ボジョレー・ヌーヴォーを入り口に、もっとボジョレー地区の普通のワインにも興味を拡げると、ワインを一層好きになっていただけると思います。いま日本ではチリワインが一世を風靡していますが、ボジョレー・ヌーヴォーをきっかけに、長い伝統を持つフランスワインを見直していただければ、と願っています」(安藤さん)

ボジョレー・ヌーヴォーをきっかけに、ワインへの興味を広げてほしい、これは株式会社イズミック リテールサポート部 シニアソムリエ 海田恵利さんも同じ思いのようです。

 「今年は評判通りにブドウのポテンシャルも高くて、バランス良くまとめてきています。ここ数年言われていることですが、いわゆるボジョレー・ヌーヴォーの香りというのは抑えられて、通常のワインに近い、落ち着いた香りと味わいのものが多いですね。新酒を楽しむというよりは、より完成形に近い形になってきています。日本でもいろいろなワインが飲まれるようになって経験値が上がってきたことも理由のひとつだと思います。ボジョレー・ヌーヴォーを入り口にして、日本ワインなどへも楽しみの幅を広げていただけると嬉しいですね」(海田さん)
 
ポスター

この日試飲会で飲んだボジョレー・ヌーヴォー、ボジョレー・ヴィラージュは、どれもすばらしく美味しいものでした。ヌーヴォーの特徴はフレッシュさだけなのかなと思っていましたが、安藤さんと海田さんのいうとおり、いまでは香りも味わいも複雑で深いものが多く出ています。そうなってくると、私たちのようなワイン初心者は、熟成期間を経た普通のワインの、程度が悪くて保存状態も悪いものを買ってしまって「また失敗…」と落胆するより、劣化していなくて、醸造家がある意味これに「賭けて」きているボジョレー・ヌーヴォーは、「買って失敗しないワイン」として大いに期待できる、と思いました。皆さんも今年のボジョレー・ヌーヴォー、ぜひお試しになってみてください。




この記事の情報は2018年11月18日のものです。

 
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