吉村喜彦『炭酸ボーイ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊻》

吉村喜彦先生の『炭酸ボーイ』に登場する架空の居酒屋メニューを再現! さっぱりおつまみにシュワシュワはじける強炭酸で割った泡盛のハイボールを合わせます。家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:吉村喜彦『炭酸ボーイ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊻》

モーレツに飲んでみたくなる“幻の炭酸水”を起点に、南の島のリアルを描く物語。

◾こんな本です

『炭酸ボーイ』 吉村 喜彦 KADOKAWA/角川文庫
画像をクリックすると角川文庫のページにジャンプします。

沖縄・宮古島の小さな泡盛酒造所で天然のおいしい炭酸水が湧き出したことからはじまる物語。縁あって、この炭酸水を販売する際の宣伝広報を担うことになった東京在住のライター涼太。偶然にも、その炭酸水が湧いた『仲間酒造』のオーナー・仲間と、涼太の上司である真田は大学時代の同級生だったことが判明し、宮古島で再会を果たします。

涼太、真田、沖縄本島出身のコピーライター・梨花が気合を入れて展開したプレミアム戦略が成功し「ミヤコ炭酸水」は大ヒット。

ところが販売元のグループ会社がこの希少な天然水に目をつけ、採水地近くにリゾート施設の建設を計画し強引に工事を始めていくことに。島の神様と共にあった聖なる土地をめぐる島外の人々と地元住民の攻防の中、涼太たちは「ミヤコ炭酸水」を、そして島を守るために動きます。

「ミヤコ炭酸水」は残念ながら架空の商品なのですが、酒飲みなら絶対に飲んでみたくなること請け合い。
(前略)仲間は冷蔵庫からボトルに入った炭酸水を取りだし、冷凍庫でキンキンにひやしてあったグラスにその炭酸水を注いだ。
白い霜のおりたグラスの底から涼しげな音とともに繊細な気泡が立ち上がる。
グラスの霜がサーッとうすれていく。
「どうぞ」
涼太は、いただきますと言って遠慮せずにグラスを取りあげ、口にはこんだ。
炭酸水がプチプチはじけて舌にあたる。
口のなかいっぱいに、きめ細かく上品な泡が風のようにそよいでいく。心地よい刺激が、のどから食道へ滑らかにくだっていく。

吉村喜彦 /『炭酸ボーイ』(角川文庫)より
あー飲みたい。今飲みたい。我がのどにも心地いい刺激を受けたーい!

作中には『仲間酒造』の泡盛「宮古泉」をはじめ、カンパリやジンを「ミヤコ炭酸水」で割るシーンが出てきて、そのどれもがおいしそうすぎて身悶えしちゃいます。

私が知らないだけで、実は宮古島のどこかで本当にこんな炭酸水が湧いているのでは? そうであって欲しいっ…と願わずにはいられない「ミヤコ炭酸水」。

主人公の涼太が筆者と同じライター(仕事の出来具合は月とスッポンですが)であること、舞台が筆者の故郷である石垣島のお隣、宮古島ということもあってとても近しい気持ちで読みました。

また、この小説に引き込まれた理由はほかにもあります。それは、爽やかな炭酸水の物語の合間に、今の沖縄が抱えるさまざまな問題点が描かれていること。

「この作品はフィクションです」とされていますが、米軍基地がある街で育った梨花のアトピーの原因になったと思われる基地の汚染水、リゾート開発に対する島人の複雑な感情などについて、著者の吉村さんはかなり入念な取材を重ねたのではないでしょうか。沖縄出身でありながら、離れた関西に暮らしていることを言い訳に現状を見て見ぬふりしてしまっていた自分を省みるきっかけにもなりました。

そういった意味でも、沖縄好きな方にこそ読んでもらいたい一冊です。

『炭酸ボーイ』ここを再現

物語は宮古島と東京を舞台に展開するのですが、涼太と真田が東京で行きつけにしている居酒屋で戦略会議をしつつ飲むシーンに登場したつまみを再現します。
「お飲みもの、何しましょ?」
つるつる頭の大将がニコッとした。
「そうだなあ⋯端から酒といくかな。あと……冷や奴とゴーヤーのおひたし、もらえる?」
真田が目尻に皺を寄せて言った。
大将は涼太のほうを向いて、目顔で、どうします、と訊いてくる。
「宮古泉のハイボール、お願いします」
「はーい。ミヤコ・ハイボール一丁っ」大声で、注文を通す。

吉村喜彦 /『炭酸ボーイ』(角川文庫)より
いつの間にか東京の居酒屋で「とびっきり美味いって評判」になった宮古泉のミヤコ炭酸水割り。オリジナルの名前までついていることに涼太は喜びます。

そんな涼太と真田がつまみにしたいくつかの中から、3品をピックアップしました。
 

◾お品書き

  • ゴーヤーのおひたし
  • 冷や奴
  • アサリのしぐれ煮(市販品)
  • ミヤコ・ハイボール
再現3品

【炭酸ボーイ再現レシピ①】ゴーヤーのおひたし

<材料>
・ゴーヤー
・めんつゆ
・おかか

<作り方> 
① ゴーヤーは2mm幅くらいにスライスし、薄く塩をまぶして2、3分おく。
② サッと塩を流し、沸騰したお湯で30秒ほど茹でる。
③ 冷水にとって冷まし、好みの味加減にしためんつゆに浸して冷蔵庫で1時間以上おく。
④ 器に盛り付け、おかかをあしらう。

■食べてみました
もはや沖縄だけではなく全国で夏の味覚として楽しめるようになったゴーヤー。体がシャキッとする苦味が、大人の肴にぴったりです。

めんつゆのほのかな甘みが苦さを引き立ててくれるのも嬉しいところ。おかかをすりゴマに替えてもいいですね。私は適度な歯応えがある方が好きなので短めに茹でていますが、お好みで塩梅してください。

これはもう、是非とも泡盛の炭酸割りで。炭酸は泡盛のパンチに拮抗する強炭酸がおすすめです。

【炭酸ボーイ再現レシピ②】冷や奴

<材料>
・豆腐
・好みの薬味、調味料(写真は、ミョウガ・カイワレ・シソのミックスとゴマ油、醤油少々)

<作り方> 
① 豆腐を器に盛り、好みの薬味や調味料をかける。

■食べてみました
作中では冷や奴の薬味などには触れられていなかったので、最近自分の中で流行っているものにしました。このミックス薬味をまとめて作っておけば、豆腐のほか、素麺や蕎麦のトッピングにも使えてとても便利なのです。シャキシャキの食感が涼しげで夏のつまみにちょうどいい。

ドライな泡盛炭酸割りともばっちり合いますよ。

3品目のアサリのしぐれ煮は、つきだしで供されたもの。
気持ちのはやった涼太は、グラス三分の一ほどをのどを鳴らして一気に飲む。
冷えた泡盛と炭酸の刺激が絶妙だ。炭酸水のほのかな苦みがいい。
島の石灰岩層をとおってきたおかげで、水がいい感じに硬くなっている。
つきだしのアサリのしぐれ煮を口に入れ、もうひとくちミヤコ・ハイボールを飲んだ。
アサリの苦みと炭酸がうまくマッチしている。

吉村喜彦 /『炭酸ボーイ』(角川文庫)より
涼太が食べたのはお店の自家製だったのかしら。こちらは市販品を用意しました。

ほかの2品があっさりめなので、グッと味の濃いしぐれ煮の存在感が際立って良い取り合わせとなりました。

【炭酸ボーイ再現レシピ③】ミヤコ・ハイボール

ミヤコ・ハイボール
<材料>
・泡盛
・強炭酸水
・氷

<作り方>
① グラスに氷を入れ、泡盛と炭酸水を好みの配合で注ぐ。

■飲んでみました
沖縄では泡盛は水割りで飲むのが一般的。私の知る限り、3:7もしくは2:8くらいと薄めにすることが多いように思えます。 シュワシュワ好きな私は、沖縄に帰った時も自宅や炭酸水を置いている店では水ではなく炭酸割りにしますが、その際は水割りよりも気持ち濃いめが望ましい。泡盛の味が炭酸に負けないように、ですね。

しかし、喉越しよく飲みやすすぎてスイスイ進むのでご注意を〜。
 
「宮古泉」と「ミヤコ炭酸水」
さて、みなさまお気づきでしょうか。この「宮古泉」と「ミヤコ炭酸水」のボトルの手作り感に。

どちらも架空のアイテムゆえ、作品の中に登場する端々の情報と「実在するとしたらこんな感じかな」との想像を交えて作ってみました。

「宮古泉」のラベルで飛んでいる鳥は、千鳥ではなく宮古島の冬の風物詩である渡り鳥の「サシバ」です。

「ミヤコ炭酸水」のボトルは、ミヤコブルーと呼ばれる宮古島の海を思いながらアクリル絵の具で塗りました。

涼太たちの仲間になれた気分で、楽しい作業でございました。

***

例年以上の猛暑とされる今年の夏。

涼しいお部屋で家飲みしながらこんなお酒と肴で沖縄気分に浸れるのは最強ではないでしょうか。

ぜひお試しあれ〜。

※記事の情報は2023年8月2日時点のものです。
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