今、覚えておきたいフランスワイン「プレモン」とは?

ボルドー、ブルゴーニュ等数多あるフランスのワイン銘醸地のなかで、土着のブドウ品種の多彩さで注目されるのがフレンチ・ピレネー山麓です。「プレモン」はこの地域のワイン生産者による協同組合。2025年4月に東京で行われたセミナーの模様をお伝えします。

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フレンチ・ピレネー山麓はブドウ品種の宝庫

フランスとスペインとの国境に横たわるピレネー山脈。フランス側の麓(フレンチ・ピレネー山麓)は温暖な南仏と同じ緯度ながら、冷涼で湿度が高い気候が特徴です。「プレモン」はこの地域の約600のワイン生産者が加盟しており、彼らの働きかけもあって2011年に中心部のサン・モン地区がAOC(原産地呼称保護)に指定されました。ここで造られるワインの98%がプレモン加盟のワイン生産者によるものです。

このほか隣接するマディラン地区とパシュラン・デュ・ヴィック・ビル地区もAOCに指定され、さらに東側のガスコーニュ地区はIGP(地理的表示保護)コート・デ・ガスコーニュに指定されています。IGPはAOCよりも指定条件が緩やかですが、手頃な価格でおいしいワインを楽しめるとフランスでは人気があるようです。

ちょっと話が込み入りましたが、フランスのピレネーの麓の地域においしいワインがあることを覚えてください。

そして、この地区のもう一つの特徴は、早くからこの地区に古くから存在するぶどう品種の保護と育成に取り組んできたことです。2002年にフランスで初めて私設ブドウ品種保護施設を開設したほか、樹齢200年を超える歴史的記念物に指定されたブドウの木を守っています。この木は19世紀後半に欧州のブドウに壊滅的な打撃を与えた害虫(フィロキセラ)の被害を受けずに生き残った、とても貴重な木です。
パンフレット
プレモンは生産者の団体名で彼らのワインの産地名はサン・モン。パンフにAOPとあるのはEUとしての表記でフランスではAOC
プレモン地図
プレモンに加盟するワイン生産者たちの地域は内陸でスペイン国境に近い
プレモン地区MAP
茶色のエリアがAOCモン・サン地区、抹茶色はIGPコート・ド・ガスコーニュ

マシンガン・テイスティングで白ワインを味わう

セミナーで講師を務めたのはグザビエ・チュイザ氏です。フランス最優秀ソムリエでパリの最高級ホテル「オテル・ド・クリヨン」でシェフソムリエを務めるほか、フランスのソムリエたちが審査する日本酒のコンテスト「Kura Master」の審査委員長でもあります。

彼のリードですぐにテイスティングが始まりました。テーブルにはグラスが4つ並んでいたので、赤と白を2点ずつくらい試飲するのだと思っていましたが、嬉しい勘違い。なんとさまざまな地区の希少な品種のワインが17点提供され、グザビエ氏はひとつひとつにコメントしていきます。約2時間のセミナーは彼のマシンガントークとともに駆け抜けるような勢いでした。
グザビエさん
グザビエ・チュイザ氏は2022年フランス最優秀ソムリエでソムリエ部門のフランス国家最高職人章(M.O.F)
白ワイン
テイスティングラスは4つ
ぶり
白ワインには軽くマリネしたブリの漬けを合わせた
白ワインはコロンバール種とソーヴィニョン・ブラン種の白ワインからスタートし、グロ・マンサン種、プチ・クルヴュ種、アリュフィアック種など聞きなれない品種を使ったものが次々に登場しました。

フードとの組み合わせを試すためにブリの漬けが提供され、「小さく切って食べてみて、飲み込まないうちに白ワインを口に含んでください」とグザビエ氏がリードしました。欧米ではフードを飲み込んだ後にワインを飲み、含み飲みはしないと思っていましたが、最近は変わってきているのかもしれません。

マグロは海のビーフ、赤ワインを合わせる

続いて赤ワインです。サン・モン地区を代表するブドウはタナ種で存在感のあるタンニンと遠目には黒に見えるほど濃い色が特徴です。メルロー種、シラー種、マンサン・ノワール種、グロ・マンサン種、コロンバール種なども使い、地域やワイナリーによってさまざまな表情を見せてくれました。

ペアリングはマグロのたたきです。軽くあぶったマグロの刺身の見た目はビーフステーキ。グザビエ氏は「マグロは海のビーフです。赤ワインとよく合います」と。生臭みが立つのではないかと警戒しながら食べて見ましたが、臭みはほとんど感じることなくおいしいマリアージュを体験できました。硫黄系の化合物や鉄分が魚介類の臭みを強めますが、そうならないよう丁寧にコントロールしているのでしょう。
赤ワイン
ボディのある赤ワインが多かった。うれしいことにサン・モン地区の1871年に植えられたフィロキセラ禍前の木のブドウで造ったワインも提供された
マグロたたき
赤い肉は乳酸を多く含んでおり熟成した赤ワインの乳酸にフィットしやすい。ちなみに醤油も乳酸が豊富
怒涛の試飲
4つのグラスをリンスしては新しいワインをテイスティング

極甘白ワインにフォアグラ握り

次々にワインが提供され写真を撮る間もないほどのペースの試飲がひと息ついたところで、プレモンのCEOオリヴィエ・ボルデ=ペース氏が登壇し、これまでの取り組みを説明しました。フレンチ・ピレネー山麓には昔からの土着のブドウ品種がたくさん残っており懸命に守り育てきたこと、温暖化で栽培適地が動く中で多様なブドウ品種を生かす重要性が増していること、アルコール度数の低いワインへの嗜好の変化に適応する品種もあることなどです。

その後、デザートワインが用意されました。毎年12月31日に収穫されたブドウで造る極甘のワインの生産量は限定3000本。たいへん希少なワインまで振舞われ、フォアグラの握りずしと合わせます。
オリヴィエ・ボルデ=ペース氏
600軒のワイン生産者を率いるCEOオリヴィエ・ボルデ=ペース氏。ひとつひとつの言葉が熱かった
極上甘口
「La Saint-Sylvestre PACHERENC DU VIC-BILH 2017」。濃いゴールドの神々しい液色に魅せられる
フォアグラの握り
フォアグラに極甘ワインは鉄板の相性。締めのご飯を兼ねての握りずし
オリヴィエCEO(左)、グザビエ氏(中)、プレモンのオリヴィエ・ダバディ社長(右)
オリヴィエCEO(左)、グザビエ氏(中)、プレモンのオリヴィエ・ダバディ社長(右)

プレモンの顔「ル・フェット」、日本向けのアッサンブラージュ決定

セミナーの翌日、日本向けのオリジナルワインの検討会が開催されました。AOCサン・モンでは25年以上前から、毎年、相手国向けに独自にアッサンブラージュ(ワインのブレンド)したシンボル商品「ル・フェット(Le Faîte)」を発売しています。今回は日本向けの2023年ヴィンテージの赤と2024年の白のアッサンブラージュを決めます。昨年は日本を良く知るグザビエ氏が選考しましたが、今回は日本で大勢の専門家の意見を聞いて決めることにしたそうです。発売は2026年末から2027年にかけてリリースする予定。

プレモンの醸造技術者が仕上げた複数のサンプルを、グザビエ氏やオリヴィエ氏らが日本の専門家の意見を聴きながら一緒にテイスティングして決めたワインは、どんな味わいに仕上がるのか、今から楽しみです。
歴代の「ル・フェット」
歴代の「ル・フェット」。ラベルは木製の札が蝋で止めてありひと目でわかる
検討会
その年のAOCサン・モンのワインの顔となる商品だけに検討会は真剣そのもの
レシピ決定
赤はタナ種が75%のバランスよくエレガントなタイプが、白はグロ・マンサン種が80%の洗練されたタイプに決まった

※記事の情報は2025年5月22日時点のものです。

  

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