盛り上がる日本ワイン、甲州葡萄No.1 ワイナリーを目指す「盛田甲州ワイナリー」を訪ねました。

葡萄の実りと共に今年もニッポンのワイン造りがはじまりました。9月の末、盛りのワイン造りを見せていただこうと、山梨県勝沼に盛田甲州ワイナリーを訪ねました。山梨が産んだ日本固有の葡萄品種、「甲州種」にこだわり、甲州種のワイン醸造ナンバーワンを目指す、老舗のワイナリーです。
インタビュアーとして、「バイヤーズレポート」コーナーでおなじみの酒問屋イズミックのバイヤー、青田さんにも同行していただき、工場長の井上公昭さんにお話を伺いました。

勝沼でのワイン造りとは

勝沼でのワイン造りとは
盛田甲州ワイナリーは、勝沼でも1,2の規模を誇るワイナリーです。シャンモリの愛称で親しまれ、その高い品質と手頃な価格で人気を博しています。
江戸中期、愛知県で日本酒や味噌、醤油の醸造を行っていた盛田家が、今から100年ほど前にワイン造りを志したことがワイナリーの始まりです。しかしその時は病害虫で葡萄がうまく育たず、その夢は一度潰えてしまったのです。そして、昭和48年、果たせなかった夢を実現するため、ここ勝沼にワイナリーを構えて本格的にワイン醸造を始めました。葡萄の里、ここ勝沼でワイン造りをする意味や意義を伺いました。
青田 国内でも、北海道、長野など色々な銘醸地があるなかで、勝沼とはどんな場所なのでしょうか?

井上 甲州葡萄は1200年の歴史があると言われていますし、昔から葡萄の産地、ワインの産地としての営みがあった。その中からここにしかない独自の品種が生まれ、それを地元の方々が愛して、葡萄を作り続けてきたというところが大きいと思います。それと地理的な優位性もあります。葡萄は寒暖差が激しく、水はけが良い場所、日照が良い場所を好みます。勝沼は典型的な盆地の気候ですから、それが葡萄づくり、ひいてはワイン造りにぴったり合ったのだと思います。

国内初の国際品種として登録

国内初の国際品種として登録
ワイナリー近くの契約農家の畑で実るのは、この地のワインの魂とも呼べる品種「甲州」です。葡萄「甲州」、いわゆる甲州葡萄の歴史は1200年以上。遠く奈良時代以前にまで遡ることができるほど古いものです。日本の固有種の葡萄として、初めて国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)に品種登録されました。
青田 甲州種がOIVで、国際品種に登録されましたね。

井上 そうですね。甲州ぶどうが、ワイン用の品種として世界的に認められたということで、海外でも堂々とアピールできる、ということになりました。我々ワイナリーももちろんですが、農家さんたちの自信に繋がって、さらに良いものを、という意欲も高まったと思います。

青田 マスカット・ベーリーAも登録されました。

井上 山梨の赤ワイン用の品種がマスカット・ベーリーAですが、これも登録されました。この二品種を使って他県にはない、山梨独自のワインとして育てていきたいと思っています。

青田 ワインを造るにあたって、ほかのヨーロッパ系の品種との違いはありますか?

井上 そうですね、ワイン造りの機械は、ヨーロッパ系の品種用につくられたものを日本に持ち込んでいます。そうすると、国産の品種を使ったときに、果汁を絞りにくかったり、いろいろなトラブルが起こりやすいんです。搾りすぎちゃったりとか、詰まっちゃったりとか。マニュアルどおりに使うのではなく、葡萄の様子を見ながら、細かくコントロールして、気を使いながら造っています。

甲州種の味わいとは?

長い歴史を持つ日本特有の葡萄、甲州。果実はきれいな藤色で大粒。甲州種で作られたワインの味わいはどんなものなのでしょうか?
青田 甲州種の味わいの特徴は?

井上 ワインの味わいは、その土地の風土に根ざしたところが大きいと思います。日本人は、慎み深くて上品でやさしい、といった特徴を持つ民族だと思うのですが、日本独自の品種である甲州種もまた、そんな味わいがあると感じます。甲州種で造られたワインは、日本料理に合います。味噌や醤油など醸造系の調味料にもよく合いますね。

青田 奥ゆかしさ、みたいな。

井上 そうですね。

二酸化炭素のモヤの中で絞られる果汁

二酸化炭素のモヤの中で絞られる果汁
白ワインづくりの第一歩、葡萄の搾汁を見せていただきました。収穫した甲州葡萄を房のまま、除梗破砕機という装置に投入。この機械を通ると、房から葡萄の一粒一粒が離れ、ばらばらになります。こうして一粒一粒にバラした葡萄を、搾汁機というドラムのような機械に入れ果汁を搾ります。このとき、果汁の酸化を防ぐため、冷却した二酸化炭素を容器に充満させて搾汁作業を行います。白い二酸化炭素のモヤ(?)の中に、淡いグリーンの果汁がしたたり落ち、なんだか幻想的です。こうして搾った葡萄果汁を醸造用のタンクに移し、酵母菌を加えて発酵させるのです。
ちなみに、赤ワインの場合は、果汁を絞らず、皮と実をそのままにタンク入れて仕込みます。この皮や種からでる成分が赤ワインの色や、味わいを醸し出します。

高品質なワインだけが「山梨」を名乗れる

高品質なワインだけが「山梨」を名乗れる
山梨の甲州葡萄100パーセントで造られたワインのうち、厳しい品質試験に合格したものだけが、産地名として「山梨」を名乗ることができます。国が主導してワイン産地のブランドを守るため、産地名を掲げた甲州ワインの品質を保障しているのです。それが「地理的表示 山梨(GI Yamanashi)」です。”GI Yamanashi”をうたったワイン、「シャンモリ山梨 甲州」を一本開けていただきました。
イズミック 青田
井上 このラベルの「山梨」は、地名を表しています。そして、甲州は葡萄の品種です。山梨ワインである一定の品質を見分けるには、ラベルに「山梨」と「甲州」が一緒に表示してある、というのがひとつの大きな目印になるんです。テーブルワインよりはひとランク上の「地理的表示つき」ワイン、ということで。

青田 フランスでいうところのAOCだったり、イタリアのD.O.Cみたいな、そういうものの、山梨版ということですね。

井上 そうですね。

青田 甲州らしい色ですね。透明感があって。(飲んで)酸味が柔らかくて飲みやすいですね、すっきりしていて。

井上 このワインに関しては、少し酸を残すように造っています。そのため、食事の最中に飲んで頂くことで、舌がリセットされるという効果もあります。

主役は葡萄。こだわりのワイン グランシャンモリ

盛田甲州ワイナリーの数あるラインナップの中でも、グラン・シャンモリ・シリーズは、ワインの作り手としての個性を追求したシリーズです。
盛田甲州ワイナリーの数あるラインナップの中でも、グラン・シャンモリ・シリーズは、ワインの作り手としての個性を追求したシリーズです。
青田 グランシャンモリへの想いを聞かせてください。

井上 グランシャンモリは、当社が造り手としてほんとうにこだわったもの、造り手が主役のワインです。グランシャンモリ アッサンブラージュというシリーズでは、日本各地の優良栽培地を訪ねて集めてきた葡萄を、地元の甲州葡萄にブレンドして、新しい世界を追求しています。そのため、表ラベルに品種名を表示しない場合もあります。2016年のものについては、甲州種に、この工場の敷地内の小さな畑で育てたシャルドネ種の葡萄とブレンドして味わいに幅をもたせました。

青田 先程の甲州とくらべて若干色が濃いですね。(香りをかぐ)少し樽の香りが…

井上 そうなんです。これは樽熟成させています。

青田 (飲んで)先程の甲州と比べると酸味が穏やかで、果実味が凝縮されている感じがしますね。

井上 そうですね、こちらのワインはソムリエさんが味を表現しやすいワインだと思います。色や香りや味の特徴を捕まえやすい。そして、このワインに合う料理も、具体的に出てきやすいんじゃないでしょうか。

青田 結構しっかりした料理でも合わせられそうです。

ところで、ワインは農業だと言われていますが、ワインの中で農産物としての葡萄の部分と、醸造の部分とはどういった関係なんでしょう?

井上 そうですね、圧倒的に時間がかかっているのは、農業の部分。ワイン造りは葡萄作りと言われていますが非常に大事だと思います。ワインの出来に関して言うと、だいたい8割が葡萄だと。

青田 あとの2割に、シャンモリならではエッセンスを加える、ということですね。

井上 エッセンス、と言っても、ワインになるために収穫された葡萄の邪魔をしちゃいけない、というのが基本です。それぞれの葡萄の良さがちゃんと出るようなお手伝いをする、ということだと思います。当社では葡萄がワイナリーに運び込まれてから、その様子を実際にみて醸造の方針をイメージします。作り手が、ああ造りたい、こう造りたいと、勝手に打ち合わせしてだけ造る、ということがないように心がけています。

青田 あくまで、第一は、葡萄だと。

井上 はい、そうですね。

実直に手を抜かずにつくる

盛田甲州ワイナリーで、ワインの醸造に携わって約30年。製造マネージャーの矢崎さんにもお話を伺いました。
製造マネージャーの矢崎さん
青田 普段のワイン造りの中で、こだわっている部分、気を使っている部分など、お聞かせ下さい。

矢崎 社名に「甲州」と入っているように、甲州種については、ナンバーワンになりたいと思っています。当社の契約農家さんは、もう30年以上のお付き合いのある優秀な農家さんがほとんどですので、そこで作られた「よい葡萄」と、酵母の持つポテンシャルを醸造の過程でいかに100パーセント引き出せるか、というのが我々の仕事です。そのためには、当たり前のようですが、最後の最後まで手を抜かず、実直につくる、ということが重要ですね。

青田 ワイン造りの楽しさとは?

矢崎 そうですね、やはり、お客様に「おいしい」と言って頂いたときですね。そこがすべてだと思います。

テーブルワインとヴィンテージワインはどう違う?

ワイン選びは、種類がたくさんあって難しい……。そんな方のために、井上工場長がワインの楽しみ方のコツを教えて下さいました。
井上 当社でもそうですが、ワインには通常、二種類の製品ラインがあります。ひとつは、どの年に飲んでもいつも同じ味がするように作るテーブルワインです。これは色んなテクニックをつかって毎年同じ味になるように、そして大量に作ります。そのためラベルにビンテージを謳うこともないし、気軽に手軽にデイリーで飲んで欲しいものです。
もう一つは、収穫年(ヴィンテージ)を特定して、さらには産地や畑、生産者まで明かしながら作る、こだわりのワインです。これはその年その年で特徴が違います。なので、その特徴の違いを楽しんでもらいたいワインなんです。その年の出来がわるいこともありますが、当社の場合ですと、ある一定のレベルに達することができない年は、出荷せず飛ばしてしまいます。ですので、年代を追って順に飲んでいこうと思っても、どうしても欠番がでてしまいますね。

ワインは本来、造り手とお客様が近いものだったと思います。あの畑で、あの人が作ったぶどうのワインだから飲みたい、買いたい、というようなことが始まりだったんじゃないでしょうか。ビンテージや産地をうたったワインはそういう性格のもので、その年の、その土地の葡萄のキャラクターを味わう感覚で楽しんでいただきたいです。
年々、国際的な評価も高まる、ニッポンのワイン。この秋の家飲みは、日本ワインでキマリ!ですね。

※記事の情報は2017年11月8日時点のものです。
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