映画「君の名は」にも登場した「口噛み酒」とは? 日本酒と神社の深~い関係

日本酒と発酵フレンチのお店「SAKE Scene〼福」を経営する簗塲友何里(やなば ゆかり)さんのお酒コラム。今回は、何かと寺社仏閣に縁のある年末年始、日本酒と神社の深~い関係について考えてみよう、というお話。

ライター:簗塲友何里簗塲友何里
メインビジュアル:映画「君の名は」にも登場した「口噛み酒」とは? 日本酒と神社の深~い関係

映画「君の名は」に登場する巫女の「口噛み酒」

去年大ヒットしたアニメ映画、「君の名は」はご覧になりましたか? あの映画の中で出てきた、巫女でもある主人公の三葉が口噛み酒を造っているシーン、それを観たときにこれで日本酒の歴史についても話しやすくなるな、とうれしく思いました。
酒が米を主体として造られはじめた起源は、縄文時代から弥生時代にかけてだそうです。穀物を口に入れて加温しながら噛み砕き、唾液の酵素で糖化させ、発酵させていたのです。いくら美しい巫女とはいえ、その方がペッと口から出したものを飲料にするというのは、普通の感覚では少々受け入れ難いものですが、「君の名は」によって美しく幻想的に表現され、神秘的な雰囲気になりました。これからは、このアニメを引き合いに出しながら口噛み酒の説明ができます。
実は昔、私は巫女をしていました。ですから、今このように日本酒の仕事をしているのも「ご縁」を感じます。そのため、いつか神社と日本酒についてまとめてお伝えしたいという想いがありました。
まずは日本神話の時代にさかのぼってみましょう。
映画「君の名は」に登場する巫女の「口噛み酒」

日本神話から日本酒が登場!

日本酒は、日本神話の中にすでに登場します。例えば、有名なスサノオノミコトのヤマタノオロチ退治。スサノオノミコトは、何度も醸した濃い強い酒の香りでヤマタノオロチおびき寄せ、酔っぱらって動けなくなったところを退治しました。日本酒の香りというのは怪物にとっても魅力的なのですね。ヤマタノオロチ、個人的にとても親近感が沸いてしまいます(笑)。

お酒は神様とのコミュニケーションツール

その昔、穀物はとても貴重な食糧源だったので、お酒も嗜好品として庶民が楽しむものではなく、神様に捧げる御神酒(おみき)が中心でした。宗教儀礼的に使われることが多く、神様へお供えするお酒を飲むことで通常とは違う精神状態になり、神様とコミュニケーションを取るためのツールとして使われていたようです。

神様への「祀り」が大衆的になり「祭り」となりました。神社での神事の締めくくりには直会(なおらい)があります。御神輿を担いだ後に町会ごとにお酒を飲み食事をする風習も一般的です。神事に関わった人々で神様に奉納したお酒を飲むことで霊力を分け与えられ、自分たちの中に取り込むと信じられています。直会は、ただ単に打ち上げとしてではなく、元々はそんな神秘的な意味もあったのです。

米作り、酒造りと神社

古来より、九州方面を除いては神社には日本酒を奉納しますし、神棚には日本酒をお供えします。

実は今年、酒蔵での田植え体験をさせていただきました。その際も地元の神社の宮司様をお迎えし、田植えを始める前には田んぼの横に祭壇を準備し、良い米が実るよう30分程神事が行われました。昔は、酒造り自体が神事とされており、酒の神様として京都の松尾大社や梅宮神社があります。酒蔵の中には、11月初旬ごろに醸造安全祈願として参拝される蔵もあります。
米作り、酒造りと神社

お燗も奈良時代から

お燗も実は奈良時代からある古くからある習慣です。神社や朝廷には、お燗を付ける係もいたようです。燗の付け方は、時代によってさまざまで、奈良時代には酒粕をお湯でといて暖を取るということもありました。平安時代になると貴族階級を中心に、炭火で直に温める方法も出てきました。一般的には江戸時代から流行りはじめたようです。

神聖な飲み物日本酒

このように日本酒と神社は切っても切り離せない関係にあります。ぜひそんなことを意識しながら神聖な気持ちで日本酒を味わっていただけたら、また付き合い方も変わるでしょうか? まずはそのありがたい日本酒を気軽に味わえる時代に生まれて良かったな、と思います。


※記事の情報は2017年11月29日時点のものです。
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