意外だけど簡単! ビールとスイーツの合わせ方

合わせてみると意外とおいしい、クラフトビールとスイーツのマリアージュをご紹介します!

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎
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筆者はイエノミスタイルで何度か、ビールと料理のマリアージュについて書いてきたが、今回ほど意外な食べ物であり、合わせ方の結論が意外と思われるものはないかもしれない。それは、食べ物はスイーツであり、結論は「ビールと合わせやすい」ということだ。  

スイーツがなぜビールと合わせやすいか。まずコーヒーを思い浮かべてもらえると分かりやすい。一般的には苦味と焦げ香ばしさを特徴とするコーヒーは、香ばしさを持っていることが多いスイーツと合わせると、素晴らしいマリアージュを起こす。説明すること自体がくどくなってしまうが、焦げ香ばしさは甘味を強め、苦味は甘味と和らげ合うので、最初に強くなった甘味が最後は苦味で引き締まって次の一口がまた欲しくなるという、理想的な状況が生まれるからだ。  

だから「スイーツは焦げ香ばしさを持つ濃色のビールを合わせればよい」と結論付けて説明を終わらせてもよいのだが、それはあくまでも基本中の基本。今回は、特徴が異なる四つのスイーツそれぞれで、合わせると異なるマリアージュを起こせる2銘柄のビールを提案する。

ビール × チョコレートケーキ

ビール × チョコレートケーキ
ヴィエナラガーに分類されるTOYODA BEER(左)と、グレーフルーツの皮を使ったIPAであるブリュードッグ「エルビスジュース」をチョコレートケーキに
嫌いな人なんていないのではないかと思ってしまうくらい、典型的なスイーツだ。言うまでもなく、焦げ香ばしさと甘味を特徴としていて、ケーキなのでふんわりとした食感も楽しめる。  

これに合わせたのはまずヴィエナラガー。オーストリアのウィーンで発祥したビアスタイルで、茶色から想像できるはっきりした香ばしさを特徴とする。苦味より甘味が強いが、写真のように静かに注いで泡を立てなければ、苦味も特徴の一つとして楽しむことができる。後味はすっきりとしている。チョコレートケーキと合わせると、ビールの香ばしさがケーキの焦げ香ばしさを適度に強め、ビールの苦味はケーキの甘味と和らげ合い、ほろ苦さが強まる。スイーツといっても甘味よりもチョコレートの香ばしさやほろ苦さを楽しみたい人にはいいだろう。  

もう一方のビールは、グレープフルーツの皮を使ったIPAである、ブリュードッグのエルビスジュース。IPAとはホップの香りと苦味を強めた、比較的特徴が際立ったスタイルのこと。これとケーキを合わせると、グレープフルーツの皮とホップ由来のしっかりした苦味がケーキの甘味と和らげ合いつつ、グレープフルーツの香りは残って、まるでグレープフルーツが練り込まれたチョコレートケーキを食べている感じになる。「果物が入ったケーキは甘ったるくて苦手」という人にぜひ、この「口の中で出現するフルーツチョコレートケーキ」を味わってもらいたい。  

どちらのビールも、チョコレートそのものが持つ特徴を伸ばすことを基本にした組み合わせ方だ。

ビール × チーズケーキ

ビール × チーズケーキ
ボヘミアンピルスナーに分類されるブドヴァル(左)と、富士桜高原麦酒「ラオホ」をチーズケーキに
ここからが本当の応用編の始まりだ。チーズケーキはご存じの通り(クリーム)チーズやバターを使って作られる。このバターに着目すると、合わせて面白いスタイルの一つがボヘミアンピルスナー。トーストやビスケットのような麦芽由来の香りや、弱いがはっきり感じる甘味、中程度の苦味などを特徴とする。そして時に、バターのような香りも持つ。このバターのような香りはダイアセチルまたはジアセチルと呼ばれる物質で、ビール製造においてはオフフレーバー(好ましくない味や香り)と呼ばれる。しかし存在悪というわけではなく、例えばこのボヘミアピルスナーでは、他の特徴の邪魔をせずごくわずかに感じられる分にはむしろ、このスタイルらしい特徴としてとらえられる。  

実際に合わせてみると、まずこのお互いにあるバター香が高まり合い、非常に香ばしくなる。さらにビールの中程度の苦味が、チーズのうま味を強め、甘味と和らげ合う。  

うま味を強める別の方法となるのが、ラオホだ。ラオホは燻製した麦芽を使っていぶした感じの香りをまとったビールのこと。もうご想像の通り、チーズケーキと合わせると、スモークチーズが口の中で出来上がる。この燻製香もうま味を強めるので、スモークチーズらしさを感じた時点でうま味を強く感じるだろう。世の中には「スモークチーズケーキ」も既に存在するようだが、それにラオホを合わせても、美味しいのだろうが、面白みに欠ける。もしかしたらやりすぎになるかもしれない。口の中で完成し、驚きのある美味しい変化を楽しんでみよう。  

いずれのビールも最終的にはチーズケーキのうま味に着目した合わせ方だ。

ビール × おはぎ

ビール × おはぎ
ベルギーのスタイルであるフランダースレッドエールの一つヴェルハーゲ醸造所「ドゥシャスデブルゴーニュ」(左)と、アメリカンペールエールに分類される鬼伝説「金鬼ペールエール」を、おはぎに
「ぼたもち」との違いは諸説あるようだが、あんこ(これも「こしあん」と「つぶあん」の違いがあるようで…)をまとったもち米(これもまた、うるち米を使う場合もあるようで…)をついた餅のことをここでは扱う。甘味があるのはもちろん、小豆と米由来のうま味も味わえる。  

これにまず合わせたいのが、ベルギービールのスタイルの一つで、フルーティーな香りと甘酸っぱさ、そして木樽で1年以上長期熟成させることによって得られる複雑な香りを特徴とする、フランダースレッドエールだ。あんこと合わさるとさらに深い甘酸っぱさが生まれ、複雑な香りはあんこの濃厚な甘味とうま味と素晴らしく一体化する。さらにフルーティーな香りは濃色のベリー類の様相を呈してくる。  

もう一つ合わせたいのは、IPAほどではないが、柑橘類や松やにのような香りを特徴とするホップの香りと苦味を生かしたアメリカンペールエールだ。苦味が甘味と調和するのはもちろん、うま味を強めさえする。小豆にうま味があることを誰もが確認できるだろう。ホップ由来のフルーティーな香りは、まるでトッピングをしたかのようにおはぎの上に乗る。

ビール × みたらし団子

ビール × みたらし団子
フルーツを使ったラガーである宮崎ひでじビール「九州CRAFT日向夏」(左)と、ヴァイツェンに分類されるコエド「白」を、みたらし団子に
こちらも嫌いな人はまずいないであろう、定番のおやつだ。しかし、焼団子にかかっているあの甘いタレに醤油も入っていると知っている人はそんなに多くないかもしれない。  

この醤油という面に着目すると、まずヴァイツェンを合わせたい。ヴァイツェンは大麦麦芽に比べて小麦麦芽を同じかそれ以上使い、バナナやクローヴの香りがして、甘味とわずかな酸味を楽しめるスタイルだ。そしてこのバナナのような香りがする銘柄と合わせると醤油らしい香りが強まる。特に濃口醤油にもバナナのような香りが多かれ少なかれ入っているのだ。さらに甘味は強まり合うので、みたらし団子をさらに濃厚に楽しみたい人には向いている。  

逆にさっぱりと食べたい場合には、酸味と苦味を持つ銘柄を持ってこよう。例えばこの「九州CRAFT日向夏」は、日向夏(ひゅうがなつ)という柑橘類の果汁を使っているため酸味があり、ホップ由来の苦味をしっかり感じられる。みたらし団子の濃厚な甘味が酸味と和らぎ合いつつ、ホップの苦味も甘味のべたつきを低減させ、後味を引き締める。


以上、お読みいただいた通り、自分で作ってもいいが比較的簡単に買えるスイーツを基に合わせ方を挙げてみた。ビールも入手がさほど難しくない銘柄を挙げたつもりだが、どうしても見つからない場合は同じスタイルに分類される銘柄を使えばまず効果を得られるだろう。気取らず、飾らず、しかし意外な美味しさが得られる組み合わせを、ぜひ楽しんでもらいたい。

※記事の情報は2019年3月27日時点のものです。
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