騎士が銘柄選びをエスコート! ベルギービールを家飲みで味わうならこの5本

ベルギービール普及の貢献を讃えられ、本国から「ベルギービール名誉騎士」の称号を与えられた三輪一記さんに、ベルギービールを知るにふさわしい5銘柄をお聞きしました!

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎
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「ベルギーと言えば?」と聞かれて「ビール!」と答える人はだいぶ増えているのではないだろうか。1980年代から輸入されるようになったベルギービールは、メディアなどで大々的に取り上げられることはあまりなかったが、イベント参加者数が増加の一途をたどっていたり、世界的なクラフトビールのうねりの中で改めて注目されるようになったりと、日本でも浸透を続けている。そのベルギービールの魅力を改めて解説し、それがよく分かる銘柄5本を紹介する。

そもそもベルギービールとは?

ひと言でいえば「ベルギーでつくられているビール」のこと。しかし、四国の1.6倍の面積に人口1000万人が住むこの国には、実に1500ものビールの銘柄があり、それぞれの特徴は「甘く濃厚」「酸っぱい」「さまざまなフルーツの香り」「苦い」といったさまざまな特徴がある。しかもそれらは融合・混在していることがしばしば。めくるめくビールの世界が広がっているのだ。

ビールのイメージとして、金色の液体と盛り上がった泡がジョッキに注がれているものをよく見かける。しかし「クラフトビール」以上に、ベルギービールではこうした一つのイメージはそぐわない。ベルギービールは多様なビールの集合体なのだ。

そうした特徴は、TPOによって選び分けたり、温度や熟成期間を変えたり、合わせる料理を工夫したりするのに十分な多様性を持っている。さらに多様性はビールそのものだけでなく、ラベルや王冠のデザインの由来や、専用グラス・コースターがいろいろあることにまで及んでいる。

今回銘柄を推薦してくれるのは「ベルギービールの騎士」

今回、ベルギービールの銘柄を選んでくれるのは、名古屋を拠点にベルギービールの輸入・販売を手掛ける木屋の代表取締役社長である三輪一記さん。三輪さんは今年9月に、ベルギーの醸造家による名誉団体である「ベルギービールの騎士団」から「ベルギービール名誉騎士」に叙任された。輸入・販売や書籍『ベルギービール大全』 『ベルギービール大全<新>』の共著、日本ベルギービール・プロフェッショナル協会での教育事業によって、日本でのベルギービールの普及の功績を讃えられた形だ。

ちなみに、「ベルギービール騎士」はビール醸造家に、「ベルギービール名誉騎士」は醸造家以外でベルギービールに関して特別な貢献をした人に授けられる。後者は、日本では三輪さんのようにベルギービールの輸入や広報を務めた人のほか、実は熱烈な愛飲家でブログやツイッターで取り上げてきた作家の池井戸潤、日本・ベルギー友好議員連盟会長の林芳正参議院議員、ベルギーのテレビ番組で「ムール貝ちゃんこ」を披露した元大関栃東の玉ノ井親方がいる。
ベルギーの首都ブリュッセルで「ベルギービール名誉騎士」の叙任を受ける三輪さん
ベルギーの首都ブリュッセルで「ベルギービール名誉騎士」の叙任を受ける三輪さん
ベルギーの首都ブリュッセルで「ベルギービール名誉騎士」の叙任を受ける三輪さん

好みに合った銘柄を探すために知りたい9つの分類

前述の通り、ベルギービールは銘柄ごとにさまざまに異なる特徴がある。だけれども、これから示す大まかな分類は存在し、それを利用すると効率よく自分の好みの銘柄を探せる。「同じ分類の中でも銘柄ごとに違いがあるのだから分類に大した意味はない」という話もあるが、そうなると逆に1500銘柄をすべて試さなければ好みにありつけないことになり、非現実的だ。便利な道具として、三輪さんが推奨する下記を使ってみよう。
三輪さんが経営する、さまざまなベルギービールを取り扱う「BEER BOUTIQUE KIYA」(名古屋)
三輪さんが経営する、さまざまなベルギービールを取り扱う「BEER BOUTIQUE KIYA」(名古屋)

ホワイト
大麦麦芽、生の(製麦しない)小麦のほかに、オレンジピール(皮)やコリアンダー(種)を使う。

ランビック
一般的な培養した酵母ではなく、空気中に浮遊している野生酵母や微生物を利用した自然発酵による。強い酸味と、「馬小屋」と例えられる独特の香りが特徴。

セゾン
ベルギー南部で主につくられる。もともと農家が冬に仕込んで夏に飲むまで貯蔵していたため、ホップを多く使うなどの長持ちさせる工夫がされている。

レッド
ベルギー北西部でつくれる、爽やかな酸味が特徴のビール。赤大麦という変わった麦を使うため、色は赤茶色になる。発酵後、木樽で2年ほど熟成させる。

ブラウン
古いビールに新しいビールをブレンドして二次発酵させるため、甘酸っぱいなど独特の味わいがある。

トラピスト
修道院内に醸造所を持つ、トラピスト会の修道院でのみつくられる。この名称を使うことが許されているのは世界でわずか12で、そのうち6カ所がベルギーにある。味わいは銘柄によってさまざま。

アビイ
一般的には、修道院から委託を受けて一般の醸造所でつくられるビールのこと。トラピストビールに近い味わいを持つ銘柄が多くある。 ゴールデン マイケル・ジャクソンによって名付けられた、フルーティーでアルコール度数の高い金色のビール。

スペシャル
下記ピルスナー以外の上面発酵および自然発酵でつくられたベルギービールのこと。今回の分類法では、上記九つのカテゴリーに含まれないものすべてを指す。

ピルスナー
1842年にチェコのプルゼニュで生まれて今や世界の消費の9割以上を占める、淡色ラガー。ベルギーでは「ピルス」と呼ばれ、国内消費量の7割がこれ。  

これらの分類を使えば、実際に飲んでみる前にどのような特徴があるのかが、大まかには分かる。銘柄を選ぶ際の参考にしよう。

とにかくすぐベルギービールに触れるための5本

分類を基にじっくり選ぶのもいいけど、ビールなんだからまずはなるべく早く飲んでみたいという人のために、三輪さんに5本、選んでもらった。いずれも「ベルギービールが好き」と言うためには飲んでおきたい銘柄だ。
 

デュベル〈ゴールド〉

日本(と全世界)でよく流通しているビールと色が似ているが、香りが全く違う。フルーティーで、スパイシーでもある。6℃くらいの低めの温度では食前酒や食中酒としてさっぱりと、10℃前後の高めの温度にすれば食後酒としてゆっくり楽しむことができる。長年品質が安定しているという面でもおすすめできる。もともとは第1次世界大戦の戦勝を記念した銘柄として生まれた濃色のビールだったが、後にピルスナー人気に対抗するために金色になった。飲んだ人が「「このビールには悪魔が住んでいる」と呼んだのがデュベル(悪魔)という名前の由来。
デュベル


ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ〈レッド〉

「ビールは苦手だがこれは好き」と言う人もいるくらい、特徴的な銘柄。オーク樽で熟成させる間に乳酸発酵が起き、酸味が出る。この酸味と甘味と酸味のバランスが良く、フルーツや木樽の感じもある香りも複雑。赤大麦という珍しい穀物を使っているのでこうした赤みがかった色になる。ラベルに描かれているのは、ブルゴーニュ公国最後の君主であるシャルル突進公の娘で、民衆から慕われていたマリー。彼女の孫がフランダース(ベルギー北部)から広大な領土を支配した神聖ローマ帝国皇帝・カール5世。
ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ


パーテル・リーヴェン ヴィット〈ホワイト〉 

日本で最も人気のあるホワイトに分類できる銘柄の一つ。オレンジピールやコリアンダーがもたらす爽やかでフルーティーな香りと、甘酸っぱくさっぱりとした味わいがある。食事と合わせても、喉の渇きを癒やすのにも、素晴らしい。この銘柄はホワイトのなかでも特に軽やかで、レモンらしい味わいもある。パーテル・リーヴェンとは「リーヴェン神父」の意味で、首を切られた後に手で首を抱えて隣村まで歩いて行き、そこで地面につえをつくと泉が湧いた、という伝説がある。
パーテル・リーヴェン ヴィット


ルプルス・オペラ〈スペシャル〉

ドライホッピングという、ホップの苦味ではなく香りをよく与える製法を採用した、ベルギー流ペールエール。ホップは4種使われている。グラスを鼻に近づけるとグレープフルーツ、レモン、パイナップルのようなフルーティーな香りがして、口に含むとグレープフルーツ主体の風味に変わり、さっぱりとした苦味がある。ホップの学名がフムルスルプルス(小さな狼)である由来は、毬花(まりはな)の形状が狼の頭部に似ているから。ラベルの狼はスロベニアのホップの産地からベルギーにたどり着いたという設定。
ルプルス・オペラ


ビーケン〈スペシャル〉

ラベルに女の子のミツバチが描かれているように、ハチミツを使ったベルギー伝統のビール。そう聞くと甘味が強いイメージを持つかもしれないが、その割にはさっぱりしている。香りは花のようで、ミツバチが密を採取してきたもともとの花を想像させる。アルコール感がしっかりと感じられ、最後には苦味で締めくくられる。甘味と苦味のバランスが良い。ビーケンはベルギーの一部地域の方言で「小さなミツバチ」の意味であり、女性を口説くときのささやきの言葉そのものでもある。
ビーケン
※記事の情報は2018年11月21日時点のものです。
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