話題の書籍「バターコーヒーダイエット」の監修者に聞いたダイエットの仕組みとノウハウ〈前編〉

バターコーヒーは、結局のところ、どのように体に働きかけてダイエットを可能にするのでしょうか。バターコーヒーダイエットを勧める書籍の監修やMCTオイルに関する著書などを通して、糖質制限や「ケトン食」による健康管理を提唱する医師・宗田哲男先生に、バターコーヒーダイエットの仕組みやその実践について、お話をうかがいました。

お話をしていただいたのは…

宗田哲男(むねた・てつお)先生【医師】

1947年生まれ。北海道大学理学部地質学鉱物学科卒。卒業後国際航業で地質調査などに従事した後、医師を志して1973年帝京大学医学部入学。卒業後は病院勤務を経て1992年千葉県市原市に宗田マタニティクリニックを開院。監修「MCTオイルをプラスでさらに効果的 ケトン体でやせる! バターコーヒーダイエット」のほか、著書に「最強の油・MCTオイルで病気知らずの体になる!」「ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか」「『ケトン体』こそ人類史上、最強の薬である 病気にならない体へ変わる”正しい糖質制限”」などがある。糖尿病妊婦、妊娠糖尿病の糖質制限による管理で成果をあげている。

宗田哲男(むねた・てつお)先生【医師】

太る原因は脂肪ではなく糖質だった

── 先生、バターコーヒーが体に良くて、ダイエットにつながるというのはなぜでしょうか。

宗田 コーヒーで痩せるとしたら、まずは砂糖の入っていないブラックコーヒーを飲んだらいいのにと思いますよね。カロリーの高いバターを入れるなんて、とんでもない! と普通は考えます。ところがバターや、さらに優秀なMCTオイルを加えることによって脂が燃焼して、それが痩せる力になるんです。

── バターやMCTオイルのような脂で痩せるというのが、どうも腑に落ちません。

宗田 その気持ちはわかります。私たちはなんとなく「脂を食べると太る」と思い込んでいますが、それが違うのです。アメリカのシリコンバレーでバターコーヒーの効用を説いた「完全無欠コーヒー」の著者がたどり着いたのは、チベットの「脂」が入っているお茶です。脂がカギだったんです。

これに対し、ご飯やパンやパスタ、砂糖は「糖」です。糖と脂は似ていると思うかもしれませんが、実は両極端です。

40億年ぐらい前には、地球上の生物はすべて、エネルギー源として糖しか使えませんでした。20億年ぐらい前、生物はミトコンドリアというものを手に入れて、そのミトコンドリアによって脂肪をエネルギーとして使えるようになった。それから生物は、ミトコンドリアが生み出すエネルギーで進化してきました。

ですが、農耕がはじまって人類が主に糖からエネルギーを得るようになり、いま私たちは糖を過剰に摂るようになっています。

日本国内では、この50年で50倍に糖尿病が増えました。1960年は20万人しか糖尿病の患者がいなかったのですが、今は1000万人です。がんの死亡率もこれくらいの割合で増えていますから、がんと糖尿病の増え方は似ています。糖尿病とがん以外の病気は、脳卒中でも心筋梗塞でも、医療が進歩したためそんなには増えていません。しかし糖尿病は増えている。その理由は糖なのです。

── でも私たちはお米を食べなくなっていますが…

宗田 確かにお米の消費量は昔よりも減りましたが、パンとパスタを足すと昔と同じくらいになります。そして何よりも増えたのが甘い飲料です。甘い炭酸飲料が日本に登場したのが60年から50年前です。栓を抜くと甘い糖分がゴクゴクと身体に入るような飲み物は、明治・大正にはラムネくらいしかなかった。今は飲料の多くに大量の砂糖が入っています。

アジア各国が「糖」の抑制に動き出した

── では太る要因は脂肪ではないのですか。

宗田 栄養の先生たちは、脂肪を摂っているから、脂肪はカロリーが高いから太るんだと言います。果たしてそうでしょうか。炭酸飲料をいっぱい飲むと、ペットボトル症候群という糖尿病になります。ペットボトルの飲料には脂肪はほとんど入っていません。それで糖尿病になります。これほど分かりやすいものはありません。

いまではカロリーゼロの飲料水もたくさん出て、お茶系も増えていますが、つい最近まで飲料といえばほとんど甘いものでした。乳酸菌飲料も栄養ドリンクも甘いものばかりで、すべての飲料に糖分が入っていた。

加えて、スナック菓子とかカップラーメンなど、50年前にはなかったタイプの糖質食品も次々と出て、手軽に食べられるようになった。お湯をかけたらあっというまに糖質が摂れる。その結果として何が起こったかというと、肥満がグンと増えたんです。

いまアジアで、飲料に砂糖税をかける国が増えています。人口比の糖尿病患者数でアジア1位なのがシンガポールで、世界の10位以内に入っています。肥満の割合が多いのがタイ、フィリピン、インド。これらの国々は医療費の膨張に重大な危機感を持っています。この対応策として、たとえばタイでは砂糖を入れた飲料に対し小売価格の14%プラス砂糖の含有量に応じた砂糖税、という高率の税金を課しています。そうなるとメーカーは砂糖をできるだけ減らさざるを得ません。そうやって国全体の砂糖の消費量を減らそうとしているのです。

脂肪を減らそうとして、脂肪に税金をかけようという国はないんです。アメリカでも、ニューヨーク州などで、ソーダ税という名前で清涼飲料水に税金をかけています。危機感を持っているのは糖質に対してなんです。医療費が膨張するからです。

── では、体の太った部分は、脂肪ではなく、もとは穀物などの糖質だということですか。

宗田 シリコンバレーの「最強の食事」の著者は、脂の入っているコーヒーで痩せるということに気がついた。糖質に関してはアメリカでも有名な本がいっぱい出ています。人はなぜ太るのか、突き詰めたら糖質だったということです。

その昔、食べ物がない飢餓の時代には、人類にとって糖はちょっとしたご褒美でした。ご褒美を食べたらすぐに消費してしまうのではなく、皮下脂肪、内臓脂肪に蓄えようとした。穀物を消化したブドウ糖は、インスリンによって皮下脂肪に蓄えるようにできているんです。そうやって糖を脂肪にして蓄えます。5年でも10年でも蓄えられるわけです。冷蔵庫のようなもの。それが太るということです。

お腹がすくというのは、必ずしも食べ物が足りなくなっているわけではありません。いつも食べているものの中に糖が多いと、足りていても常に次の糖を渇望します。そして甘いものがなくなるとイライラする。「早く摂れ」と体が命令してまた摂るんですね。摂った直後は幸せなんだけど、それがなくなるとまたイライラします。

── なんとなくわかります。軽い依存症のような・・・

宗田 子どもにキャンディーや飴ばかりあげていると、その子はいつも落ち着きがありません。甘いものが手に入れば喜ぶけれど、ないと「お母さんください」といつも言うわけですね。逆に、たとえばハムや卵を子どもにあげると、その子は満たされて、なかなかおなかが空いたと言わないんです。そこにご飯を加えると、ご飯の分だけ糖が早く使われて、お腹がすいたと言います。

糖は甘くておいしいから、脳は糖がすごく好きです。私の本の「甘いもの中毒」にも書いたけど、甘いものには中毒性があって、ある程度食べると、いつも食べたくてしょうがなくなります。餌付けのようなものです。

力士は大量の糖で体を大きくする

── 糖ではなくて脂肪そのものを摂ったらどうなるのでしょうか。

宗田 脂肪を摂ったら脂肪になると思うかも知れません。でも実は、食べ物の脂肪はそのまま体の脂肪にはなりにくいのです。ある程度は脂肪として蓄えることもできるんですけど、効率はあまり良くない。脂肪はいっぱい食べると下痢をしてしまいます。焼肉屋さんで脂肪の多いA5ランクの牛肉をたくさん食べてみてください。あるところまでいったら、もう食べたくなくなります。もっと食べたら吐いたり下痢します。つまり人間の体はある程度の脂肪を摂ると、もういらないってなるのです。

ところが、糖質、ご飯、砂糖には終わりがありません。「別腹」などと言いますね。たとえばご飯を食べて、そのあとラーメンを食べて、そのあとにケーキが出て、メロンが出て、アイスが出て、また甘いジュースが出ても、普段あまり食べない女性でも食べられます。糖は食べているうちに消化する。そして食べるとお腹がすくんです。インスリンが出てくるからです。そして、どんどん蓄えていくわけです。

── 脂の摂り過ぎで太るわけではないんですね。

宗田 うちのクリニックに、肥満で悩まれている人が来ます。まず紙に1週間に食べたものを書いてもらうのですが、ほとんど炭水化物、それも甘いものばかりです。朝からおにぎり2個とチョコレートケーキ、お昼もケーキ、夜はパフェ。牛肉とか豚肉とか鶏肉はほとんどありません。太っている人ほど「肉類は脂肪だから太る」と思いこんでいるんです。これが大きな勘違いで、脂肪は食べても限度があって、蓄えられない。

お相撲さんは肉を食べて太るわけではなく、ちゃんこ鍋と一緒にたくさん米を食べて150キロという体重を作ります。痩せていては勝負にならない。数秒で勝負するのに向いている体が必要なのです。反対に持久力という点では難があって、ジョギングで1時間走ったりするのは難しいのではと思います。

一方で、太っているマラソランナーはいません。皮下脂肪はほんのわずかでいい。脂肪がなくとも1時間や2時間は走れるからです。

脂肪ではなく、糖質を摂り過ぎると太る。でも、日本の医学界全体ではそうは思っていません。糖質、ご飯は良いものだから食べなさいと言っている。その結果、50倍に糖尿病が増えているわけです。医学、医療が進んで薬も増えているのに、患者が減らない。現実がこうなのだから、逆の発想をしなくてはいけません。

健康・ダイエットのカギを握るケトン体

── ケトン体がいいものだということは、これまであまり言われてきませんでしたが、どのようにわかってきたのですか。

宗田 私は産婦人科の医者ですが、あるとき、妊婦さんや赤ちゃんのケトン体の数値が高いことを見つけました。ケトン体は脂肪が分解してできるものです。ケトン体の正常値は約100ですが、生まれた4日目の赤ちゃんのケトン体が200くらいある。生後1カ月でも300。お母さんは母乳をあげていてもケトン体が高い。胎児、胎盤、それから胎盤を作っている絨毛のケトン体も高い。赤ちゃんは脂肪をエネルギーにしているということなんです。

てんかんの子どもさんがケトン体の食事をすると治るという、昔に書かれた本があります。なぜケトン体で治ることが判ったかというと、てんかんで発作を起こすと震えるから、落ち着いてご飯を食べられないわけです。食べない日が続くと、発作が治ります。で、そのお子さんのケトン体を測ったら高かったんです。食べないと糖回路に炭水化物が入らないのでケトン回路になるわけです。それでケトン体が高いと、てんかんが治まるということが分かってきました。

そこで、ケトン食で子どもを直そうというドクターが現れて、日本でもこれが始まりました。てんかんの重症な子どもは、脂肪中心の食事をさせるんです。それがケトン食です。

2016年には厚生労働省がてんかんの子のケトン食を、保険で認めました。今まで民間でしかやっていなかったケトンの食事に、お墨付きが与えられたわけです。入院患者にてんかんの子がいたら、正式に、栄養士さんはこれを作って食べさせなさいということになった。わずか2年前です。

ケトンは、見つかってから100年くらいの歴史があるんだけど、日本では今まであまり褒められてきませんでした。糖尿病で末期になるとケトンが出てくることがわかっていたので、糖尿病はケトアシドーシスという病気で死ぬのだと言われていて、ケトンが悪者扱いされていたんです。

── なるほど、ケトン体は末期の体を救うために出ていたかもしれないのに、それが原因のように見られていたわけですね。

宗田 具合が悪くて食事をとらない人をお医者さんがたまたま調べたら、ケトンが高いことを見つけるでしょう。今までは、その人の具合が悪いのはケトン体が高いからだ思われていました。私たちの考えは逆です。具合が悪いからケトンが頑張っているんだということなのです。

いまになって、赤ちゃんのケトン体が高いことや、てんかんがケトン体で治ることがわかってきた。赤ちゃんのケトン体が高い理由は、お腹の中の赤ちゃんも、生まれてからの赤ちゃんも、ケトン体をエネルギーにしているからです。つまり脂肪で生きている。ケトンの重要な材料のひとつがコレステロールですが、お母さんは妊娠後期になると、普通の倍ぐらいにコレステロールの数値が上がります。そうして赤ちゃんにコレステロールを送っているわけ。だからお母さんは、甘いものではなく、脂肪を食べてお腹の中の赤ちゃんに栄養をあげるほうが効率がいいわけです。

それから、アメリカで、ケトン体の食事をしたら認知症の人が良くなったという例も出てきました。

── 認知症は、高齢化社会が抱える非常に大きな課題ですね。

宗田 認知症の診断のために時計を絵に描いてもらう時計描画試験というのがあるのですが、どうしても描けなかった人が37日間ココナッツオイルを飲んでみたら、正しく描けるようになった。患者さんの奥さんがお医者さんだったから、この結果を発表したんです。

神経は脳の中のシナプスを介してつながっていきます。そのシナプスの回りにはミトコンドリアがたくさんあります。なぜあるかと言うと、ケトン体がそのミトコンドリアで活躍するためだということを、脳の神経学者が言っています。そうすると、伝達が良くなる。で、伝達が悪くなったのが、アルツハイマー病とか認知症です。だから、そういう人たちがケトン体の食事をすればその部分に栄養が行くので、良くなるという考えです。

アルツハイマー病も認知症も、第三、第四の糖尿病と言われているくらい、糖がうまく使えなくなっちゃった脳の状態です。だから、糖が使える間は認知症まで行かないけど、糖がこびりついて、いろいろなところの回路がうまく回らなくなった状態。それで、TCA回路のほうを、ケトン体で回そうということです。

── アルツハイマーも食べ物で予防できるというのは驚きです。

宗田 お年寄りで昔ながらのご飯を食べて、仕事をしないで車を運転してゆっくりしていると、だいたいボケていっちゃうんですね。てんかんも脳の病気なら認知症も脳の病気です。ケトン体が脳にいいんだということが分かってきたわけです。お年寄りこそ肉を食べたほうがいい。

もうひとつ言うのを忘れていました。甘いものは、がんのエサなんです。PETというがんの検査を聞いたことがあると思いますが、あれはがんの場所をみつけるのに、放射性薬剤を付けたぶどう糖を点滴するんです。すると、がんの場所に集中してそれが取り込まれます。それをレントゲンで撮ると、がんの場所が輝くわけです。

国立国際医療研究センター病院によると「がん細胞は、糖を食べて仲間を増やす」とあります。糖が回る回路ですね。実はがん細胞には、20億年前に我々が手に入れた、ミトコンドリアがないか脆弱なのです。だから、甘いもので生きていきます。だから、がんになった人は必ず甘いものを食べたがります。そして、甘いものを食べれば食べるほどがんが進行します。

── 食べ物でがんの進行が変わるとは思ってもみませんでした。

宗田 がんのきっかけはいろいろあります。肝臓がんや子宮体がんのように、ウイルスに感染が原因だと言われるがんもあります。でも、いずれにしてもがん細胞というのは体の中で、実は毎日のように5000個くらい生まれているんです。でも、それだけではがんにはなりません。体には免疫細胞というものがあって、たいていの人はこれが、がんを抑えるからです。

遺伝的に免疫が弱く、がん細胞を抑えられない家系の人もいれば、全然がんにならない家系の人もいます。そして、がんが大好きなブドウ糖、あるいは糖をいっぱい摂っている人はがんにかかりやすい。ブドウ糖によって、がんは喜んで増えていってしまうのです。

それならば、がんが喜ばないようなことをしちゃおうというのです。どういうことかと言うと、ケトン体食にしてしまうんです。ご飯やパンを食べないで、脂肪やお肉を中心にすると、がん細胞は増殖しにくくなり、困ってしまいます。がん自体は消えませんが、増えないんです。

がんは増えなければいいんです。小さいがんが見つかって、それを手術で取れれば一番いいけど、多くの場合取っても転移している。その転移したがんが、いろいろなところで大きくなるから死に至るんです。小さいがんがひとつあるだけなら、そう悪いことはしません。がんが見つかっても、がんにエサをあげないこと。増やさなければがんとは共存していける。これが最近のがんの治療の考え方のひとつです。

抗がん剤はすごくいいように見えるけど、がん細胞を叩くと同時に、どんな抗がん剤でも自分の正常な細胞も叩きます。だから毛が抜けたり苦しくなる。ほとんどの患者さんは、がん細胞が小さくなったときに正常な細胞もやられています。ところが、ケトン体を使ったがん治療は正常な細胞を傷めないので、あまり苦しくもない。ニコニコしてやっていけるんですね。

ケトン体質になると体内の脂肪が自然に燃焼されてスリムになるだけでなく、糖尿病にもがんにも、認知症にも鬱病にもならないことが期待できる。それがわかってきた。そのために、ケトン体の材料となる良質な油をうまく補給するのが大切なのです。

人間は糖でも脂肪でも動けるハイブリッド

── 体のなかで、ケトン体はどんなことに使われるのでしょうか。

宗田 私はあるとき、一昼夜ある患者さんのケトン体を測ってみたことがあります。昼間は1000ぐらいの人が、夜中の2時になると4000ぐらいになって、朝の5時にまた下がります。毎日そうです。夜中になぜ上がるかというと、夕食を食べてある程度時間がたつと、もう糖質がなくなってケトンが出てくるのです。

グリム童話に「小さな靴屋さん」という話がありますね。靴屋のおじいさんが夜眠っているあいだに小人が出てきて、おじいさんの昼間の仕事の倍くらい靴を作ってくれます。朝おじいさんが起きてくると靴ができていてびっくりする。あんなふうに夜中に働いているのがケトン体です。

ケトン体が体の中で使われている場所で大切なのは、心臓、肺、呼吸器です。一、二回食べずに眠ったくらいで心臓や肺が止まったら大変でしょう。人間の体は、食べなくても死なないようにできています。水さえあれば1週間でも2週間でも生きていけます。食事を抜いたときの体の血液を調べたら、ケトンが高くなっています。

朝になってそろそろ糖が必用になる時期に、糖新生というのが起こって、肝臓で糖が作られます。そうするとケトンが消えます。我々の体は1日に80グラムくらいの糖を作ります。だから食べなくても平気。糖を食べれば食べた分が使われるので、体は太った状態のままです。ところが摂らないと、しょうがないから脂肪から糖を作る。そこでエネルギーを使って、痩せるんです。

ハイブリッド車は、普段はガソリンで走りますが、ガソリンがあるうちに電気を蓄えておくと、こんどは電気で走ります。人間の体はこのようにハイブリッドなのです。ブドウ糖でも走れる、脂肪でも走れる。ブドウ糖があるときは、すぐ使えるからブドウ糖を使おうとします。ブドウ糖がなくなったら、蓄えている皮下脂肪や内臓脂肪を使って動こうとします。

ブドウ糖は1日で枯渇しますが、皮下脂肪は、体重50kgの女性だと10kgありますから、それだけあれば、一日2000カロリーを使うとして、だいたい1カ月は生きていけます。だから1カ月間水だけ飲んでいても死にません。その代わりガリガリに痩せていきますけどね。蓄えているエネルギーは、炭水化物ではないんです。人間の体のどこにも、炭水化物の蓄えはありません。

人間の体のハイブリッドエンジンは、言い換えればミトコンドリアを手に入れたことで実現した、脂肪と糖をうまく使う生き方です。これを解明したことで、太るということは何なのかもわかってきました。米、パン、バスタ、甘いもの。そういう糖質を、運動する量よりも摂りすぎた場合に、人は太るのです。

── 昔の人もずっと米やパンを食べてきたのに、太りすぎや糖尿病が少なかったのはなぜですか。

宗田 まずひとつは運動。昭和20年ごろまで人は車なんて乗らなかった。坂本龍馬だって江戸まで歩いたわけです。カゴで移動するのは将軍様ぐらい。たいていの人は歩いていました。

それに、部屋にエアコンがない。寒いときは体を動かして暖かくしようとするし、暑いときは逃げるしかない。今は暑さも寒さも感じないで過ごすことができる。エネルギーを使わないんです。

人間がエネルギーを使わないのに、スナック菓子や清涼飲料水、カップ麺などはいっぱいある。昔と同じように炭水化物を摂っても、それは余剰になっちゃいます。そこでインスリンが出てきて頑張って、蓄えるわけです。

ところが、インスリンは出すぎるとなくなったり、効かなくなってしまいます。なくなったのが糖尿病です。糖を摂っても処理ができずに、血糖が高い状態になってしまいます。生まれつきだったり、あるいは何かのウイルス感染でインスリンがまったくなくなった糖尿病をI型と言い、太ったり、甘いものを摂りすぎたりしてインスリンが出なくなったり効かなくなった糖尿病をII型といいます。このⅡ型を中心に糖尿病は50倍にも増えてしまいました。

── 食べる量が、運動の量よりもはるかに大きくなってしまったわけですね。

宗田 ある意味で食べ物の進歩だともいえます。炭水化物の良いものがいっぱい出たんです。スーパーやコンビニの食品棚には炭水化物がずらっと並んでいます。炭水化物は糖質と食物繊維のことです。野菜のうち葉っぱが多いものは、炭水化物といっても繊維が多いから問題はない。同じ炭水化物でも、ホウレンソウとお米では天と地くらい違います。お米はほとんど食物繊維がありません。ホウレンソウやキノコはほとんど食物繊維です。注意が必要なのは、イモや麦類、米類です。

脂肪はいろいろ誤解されてきた

── これまで脂肪は大変に誤解されてきましたね。

宗田 そうですね。まず油は太るという誤解、カロリーが高いものは太るという誤解。コレステロールが高いのはいけないという誤解、そしてケトン体は悪いものだという誤解です。反対に炭水化物はいい、甘いものは体に絶対必要、脳はブドウ糖を必要としていると言われ続けてきました。この誤解を解くには、ケトン体は悪くないということを知ること。これがベースになります。

去年、糖尿病の専門誌に、ケトン体は敵か味方かという特集が組まれました。それまでは敵とみなされていて、味方だという本はなかった。ところがその特集のなかでは、先生方がそれはおかしいと気付いています。それから、ケトン体が肝臓や心臓など、いろいろな病気にいいということが、だんだんと出てきました。

カロリーが高いから悪いとかいいとかではなく、カロリーを摂るものが何であるかが問題なんです。牛肉で1000キロカロリー摂るのと米で1000キロカロリー摂るのは、同じではありません。米で摂ったほうが太る。牛肉で1000キロカロリーだったら米の場合より太らない。こういうことに、少しずつ説明がつくようになってきました。

── でも世の中全体がそういう考えにはまだなっていませんよね。

宗田 まだ日本では、糖尿病学会も反対の立場です。これはなかなか変わるものではありません。学会は、糖尿病の増加は、動物性脂肪のせいだと言っています。この40年あまりで、日本人の動物性脂肪摂取量が、4.6倍に増えた。そのため糖尿病が増えたと言っているわけです。栄養学の権威も、脂肪の多い食事がインスリンを増やし、運動量の低下と一緒になって、糖尿病を引き起こしていると言っています。我々とは見解が正反対です。この見解に基づけば、脂肪をとれば糖尿病になるはずです。

ところが現実は、炭酸飲料水でペットボトル症候群という糖尿病になる。清涼飲料水を毎日2リットル飲んでいたお父さんが、ヘモグロビンA1cが11%で担ぎ込まれてきて、血糖値が1000mg/dlだったという例があります。危ないところでした。清涼飲料水には脂肪は入っていないのに、です。糖尿病が増え続けるのは、糖質を摂り過ぎているからなんです。でも最近は、糖尿病学会のなかにも自分が糖質制限を始めた先生がいます。こういうのが追い風になって、だんだん変わるだろうとは思います。

厚生労働省も、実は甘いものが悪いと気が付いていますよ。ただ国としてお米を食べ過ぎると太るとはいいづらい。いろいろ難しい面があります。

それでも、アジアで糖尿病と肥満が激増しているのは砂糖のせいだということがはっきりしている。だから税金をかけようとしている。さすがに日本ではまだ税金はかけませんけど、タイやフィリピンは国のお金がそんなにないから深刻です。お金がないのに透析が激増したら国が危うくなる。

台湾もいまケトンブームで、Facebookのケトン体グループには10万人が参加していました。台湾の人口は日本の4分の1ですから、日本に換算すると40万人が参加していることになります。書店にもケトンに関する本が並んでいます。

── やはり太り過ぎの解消が一番の理由でしょうか。

宗田 そうですね、肥満防止、ダイエット目的だと思います。ファミリーマートのバターコーヒーもいずれ台湾のファミリーマートに行くんじゃないでしょうか。

私は近々、中国の長春へ、ケトン体のことを話しに行きます。中国では糖尿病がすごく増えていますが、中国の一部の人はすでに薬ではなくて食べ物で糖尿病を治すことができると気がついていると思います。利権構造が複雑な日本とは違って、上層部が変えるといったらすぐ変わる国家だから、国の予算が危ないとなったら即やりますよ。しかも医食同源を信奉する国だから、食べ物で病気が治るんだったら真っ先にやるでしょう。

── 中国も裕福になって食べるものも増えてきて糖尿病も増えた。やはり甘いものが原因なのでしょうか。

宗田 そうですね。お菓子などの甘いものは、幸せを感じます。貧しいときは米が精いっぱいだったのに、余分なものを食べられるようになったんですね。それに、日本は50年かけて清涼飲料水やスナック菓子を改良しててきたのに、中国は今、その完成品が一気に入ってきています。世界のトップクラスの食べ物が急にぜんぶ食べられることになった。それがいいのか悪いのかはわからないけど、健康上の矛盾が出てくるのも早いでしょうね。
脂肪はいろいろ誤解されてきた

バターコーヒーの力で糖質制限を

── 糖質制限が良いとはわかっていても、現実にはご飯や甘いものを全く食べないのは難しい気がします。

宗田 確かに、穀物や甘いものを食べちゃいけないと言われると、つらくなっちゃいますよね。でも、そうではありません。私たちが提唱している糖質制限は、たんぱく質や脂肪をたくさん摂りましょうということです。卵やお肉です。健康な人はご飯も食べていいんです。健康でない人、既に太ってしまった人や、糖尿病やがんや認知症になりかかっている人は、糖質を控えたほうがいい。

そうやってインスリンをコントロールします。インスリンは少量ならすごくいいものなんだけど、インスリンがいっぱい出ると太っちゃう。だからインスリンを出さないように、昔の人類のように役に立つレベルで止めておく。そうすると、膵臓が疲れないで、体は守られる。糖尿病にもならない、ということです。そうした糖質制限を容易にしてくれるのが、バターコーヒーなのです。
【前編おわり】
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