〈スペシャルインタビュー〉椎名 誠さん「ウイスキーは”場”を作ってくれる酒だなと思う」

作家の椎名誠さんをお招きしてのスペシャルンタビュー。椎名さんといえばお酒。テーマは「ウイスキー」です。椎名さんの野外活動の仲間たち「雑魚釣り隊」の面々も飛び入り参加して、賑やかに楽しいお話をしてくださいました。

メインビジュアル:〈スペシャルインタビュー〉椎名 誠さん「ウイスキーは”場”を作ってくれる酒だなと思う」
INTERVIEW
作家

椎名 誠 さん

 

作家であり、映画監督、辺境の旅人としても知られる椎名さん。世界各地を巡り、さまざまなお酒を飲んできた達人に、いま話題の台湾産ウイスキー「カバラン」を味わっていただきつつ、椎名さんにとってのウイスキーについてお話をうかがいました。インタビューの場所は椎名さん行きつけの居酒屋「池林房」。椎名さんの盟友である太田篤哉氏が経営する東京・新宿の名店です。

初めての酒はウイスキー。学生時代からずっと飲んできた。

― 椎名さんとウイスキーとの出合いをお聞かせください。

椎名 僕はずっとビールを飲んできたようなイメージが強いと思うけど、若いころに実際に飲んでいたのはウイスキーのほうです。初めて飲んだ酒もウイスキーで、お酒の体験としてはビールより前なんですよ。年上の兄たちが飲んでいたのを奪ってポケット瓶1本くらい飲んで、酔っ払ったのが最初です。初めてだから気持ちも悪くなったけど、酔っぱらう感覚というのは、なんだか不思議な世界に連れてってくれる。それからすっかりウイスキーに目覚めた。

― 学生時代にアパートで友人たちと夜な夜な酒盛りしながら共同生活をしていたお話は有名ですね。

椎名 学生のころにアパートで野郎どもと暮らしてたときは、みんな酒飲みでね。学生のレベルを超えていたね。でもお金があんまりないから、隣の部屋の夫婦が捨てたビール瓶を回収して酒屋に持っていって合成酒を買ったりしてた。たまに冷えたビールを買ってくると、部屋に冷蔵庫がなかったので、ぬるくならないうちに早く飲まなきゃいけないから、みんな競争するようにしてワーッと飲んで。ビールがなくなるとやっと落ち着いて、やおら安いウイスキーや、粗悪な合成酒に手をつける。そんな飲み方でしたね。10年間くらいそんな風に飲んでいましたよ。

― そうした青春時代、ウイスキーで忘れられない思い出などありますか?

椎名 大学生のときに恋人にふられてね。その彼女が渋谷の先のほうに住んでいたんです。それでよく憶えてないけど、何か話をしに行こうと思ったのかもしれない、まず東急渋谷店の屋上に行って、景気づけに一人でポケット瓶のウイスキーを丸呑みした。エレベーター降りたらおなかが痛くなって、うずくまってしまった。アホなことやったね。どうしてウイスキーだったかというと、自分でも分からない。馴染みのある酒で、飲みやすいしね。しかしそれで無理やり彼女を忘れられました。そんな悲しい記憶がウイスキーのポケット瓶にはありますね。それからですよ。少し優しいビールに出合って、ビールをたくさん飲むようになったのは。
 
椎名誠さん2

― そんな思い出もあったのですね。いまでも、おひとりでウイスキーを飲むことはありますか?

椎名 ありますよ。たとえばきょうも小説を一本書き終わったんですけど、苦労して書き終わったけど空きが一日しかない。そういうとき家にいると一人でウイスキーを飲みますね。それがなにか儀式になっています。ひと仕事終わって一人で飲んで、「あーよくやったなあ」って。ウイスキーっていうのは、大勢でワーって飲むときも、他の酒にはない魅力があって、開放感がありますよね。それから静かに4、5人で飲むのもいいし。今はもうないけれども、好意を寄せている女の人と二人でバーで飲むなんていうのにも、まことにいいお酒です。万能ですよね。そういう意味では、ちゃんと「場を作る酒」だなと思うんですよ。

「雑魚釣り隊」、キャンプと焚き火とウイスキーを語る。

「カバラン ソリスト ヴィーニョ カスクストレングス」や「カバラン コンサートマスター」をロックで飲みながら、おだやかにお話いただいていた椎名さん。そろそろカバランの感想も…と思ったころ、椎名さんの野外活動仲間で、いまでは「雑魚釣り隊」の重鎮メンバーとしても知られる、雑誌「自遊人」副編集長の西澤亨さん、人気レストラン「彗富運」代表取締役の大八木亨さん、スポーツライターの竹田聡一郎さんが「うまい酒が飲めると聞いてやってきました」と取材場所にご登場。椎名さんを含めたお酒好きの精鋭4人による、賑やかなウイスキー談義がはじまりました。
雑魚釣り隊

― それでは皆さんにも、ウイスキーとの出合いや、いまのウイスキーの飲み方などをおうかがいしたいと思います。

西澤 突然ですみません。そうですか。テーマはウイスキーですか。ウイスキーというと、僕が学生のときって時代はまだバブル期で、プールバーがブームだったんですよね。バーボンなんか飲みながらビリヤードの玉を突くというのが流行ってまして。

椎名 コノヤロー(笑)。

西澤 ビリヤード台のレールの上にバーボンのロックグラスを置いて、お尻を台にこう乗せて玉を突くみたいな。そうやってよく飲みました。

― カッコいいですね。

椎名 カッコ悪いよそんなの! トオルは?

大八木 僕はずっとフランス料理店に勤めていたので、お酒は最初ワインから入って、でも25歳くらいからウイスキーに目覚めました。いろいろ教えてくれる人もいて、30過ぎぐらいからはうまいウイスキーを集めるようになって、今はいっぱい持っています。

西澤 すごいコレクションだよな。今すぐでもバーが開ける。

大八木 それくらいあるかもしれない。

椎名 そのバーにはぜひ生ビールも置いてね。

大八木 わかりました。いまもワインは飲むけどウイスキーもすごく好きです。ウイスキーのよさは、ちゃんとしたものは次の日になっても残らないことですね。けっこう飲んでも二日酔いしないです。きれいな感じで。あとは香り。いい香りしますよね、やっぱりウイスキーはいい。

椎名 へぇ。ウイスキーの香りを楽しむなんてさ、俺はアイラ島に行ったときにはじめて知った。それまで知らなかったよ。

西澤 そうですね。椎名さんはひたすら飲むだけでしたもんね。

― それは、椎名さんがスコットランドの蒸留所を巡る旅をされた時のお話ですね。

西澤 もう20年前ですかね。僕もそのとき同行したんです。スペイサイドとアイラ島に行きました。

椎名 スペイサイドのスペイ川沿いが最初かな。

西澤 そうですね。スペイサイドには放置された古城がいっぱいあるんです。幽霊城みたいなお城が。そこでフォトジェニックな写真が撮れる。僕は取材ですから、椎名さんにウイスキーの味について語ってもらいたいんだけど、たいへんなんですよ。だって「うまい」しか言わないんですから。でも、ある草原に立つ古城の崖に椎名さんに座ってもらって、シングルモルトを飲んでいる写真を撮っていたとき、椎名さんが「風割り」っていう言葉を言ってくれた。水割りとか氷割りのように、スコットランドの風が吹いているところでストレートのウイスキーを飲む、「風割り」です。

― 素敵ですね。

西澤 それで企画が一丁上がりですよ。アイラ島にも行きました。アイラ島で椎名さんは、海辺のウイスキーと、生牡蠣にそのアイラモルトをかける現地の食べ方がとにかく気に入った。

椎名 牡蠣にウイスキーというと、日本ではみんなから「おや?」っていう顔をされるんだけどね。でも、海辺でできたウイスキーだから、牡蠣に垂らすと、これが衝撃的にうまい。

西澤 牡蠣の塩味と潮を感じるスモーキーな香りが絶妙なんですね。

椎名 アイラ島に行くまで、香りなんて及びもつかなかったけどね。

西澤 アイラ島から帰ってきてしばらくしたころですが、ある雑誌で椎名さんが日本中の海を取材するっていう企画があって、その担当カメラマンから、いきなり僕の携帯に「いま北海道の厚岸にいるんですけど、椎名さんがどうしてもあのアイラモルトが飲みたいって言っているんです」って電話がかかってきた。厚岸といえば牡蛎です。椎名さんが牡蠣にかけるのはあれじゃないとダメだって言ってるって。でも厚岸にはなかなか売ってないでしょう。それで編集部がてんてこまいになって、それで僕がサントリーに電話したしたらなんと調べてくれて、ある酒屋さんに小瓶が一本だけあったらしい。びっくりしました。そこで買ったらしいです。

椎名 本当にあったんだよね。調味料にちょうど良かった。
 
椎名誠さん

― 「あやしい探検隊」や「雑魚釣り隊」の活動には、キャンプと焚火、お酒が欠かせないそうですね。そこにウイスキーも登場するのですか。

椎名 飲みますね。

大八木 最後は必ずウイスキーですよね。焚き火とウイスキー。

竹田 この組み合わせは、僕は個人的に一番だと思います。

大八木 スモーク&スモークですからね。

西澤 ただ、バカみたいになくなっちゃう。20人くらいでキャンプに行くと、ウイスキー1本は瞬殺でなくなりますね。そこからまだ他にないかと漁り始めるんですが、探すと誰かが隠し持ってる。

椎名 隠すのが流行るんだよなあ。

西澤 みんなでしかたなく安いウイスキーを飲んでるんですけど、何人かが必ず高級品を隠し持ってる感じです。キャンプをやり始めたら、まずはじめに高級なウイスキーを隠すという……

椎名 犬と一緒だな。

西澤 それにしても外で飲むウイスキーは格別ですね。ワインも日本酒も、焼酎だっていいですけど、自然の下で飲むのにウイスキーほどうまい酒はないんじゃないですかね。

椎名 蒸留酒の中でも、泡盛やウイスキーはフワッとした酔い心地で、酔い方のレベルがちょっと上なんですよね。ガーッと酔うんじゃないじゃないです。じっくりじっくり内側から攻めてくる感じ。一方、僕はロシアに結構長くいたことがあって、ウオッカの飲み方を現地の人に教えてもらったけど、あれは飲むんじゃなくて、口の中に放り投げるんですよね。60度も70度もありますから、味わうなんていうレベルじゃないんですよ。それで飲んでいるうちに腰が抜ける。テキーラも、メキシコに行くと夕方は必ず広場に出かけて飲むんだけど、ソンブレロをかぶったマリアッチのオヤジに煽られてたくさん飲みすぎる。でも、ウイスキーは飲みすぎてもそこまでいかない。もうすこし優しいですね。上品ですよ。改めて考えるとずいぶん酒を飲みましたね。世界各地で。

こんなウイスキーが台湾にあるなんて、同じアジア人としてうれしい。

― それでは、カバランの話をおうかがいします。皆さんはカバランというウイスキーは知っていましたか。

西澤 ええ、バーで勧められて知っていました。いくつか馴染みのバーがあるんですが、最新のホットな話題はカバランです。最初は1年半くらい前。代々木上原のバーで「珍しいもの飲んでみませんか」ってグラスを差し出されて、「何これ」って言ったら「台湾のウイスキーです」って。飲んだらおいしいのでびっくりしました。

竹田 日本以外のアジアで「本物のウイスキーが出てきた」という感じがするよね。

椎名 アジアの暖かいところでウイスキーを作るっていうのは、いまいちピンとこないところがありましたよ。最初はね。

西澤 世界のウイスキーの構図が変わりそうですよね。

大八木 熟成6年でこれは、すごいなと思います。

竹田 フルーツのような甘味が、南の国を感じさせます。想像以上にうまいね。

西澤 台湾の人たちもやりますなぁ。こんなウイスキーを作るんだもんね。大したもんだなあ。
 
椎名さん

― 椎名さん、カバランの味はいかがですか。味を言葉にすると、どうなりますでしょうか。

椎名 俺、きょうこの中でいちばん飲んでるよ(笑)。でも、そういう繊細な表現は難しくてね。

竹田 えーと……作家さんですよね(笑)? 椎名さんがこれまでいちばん言葉を駆使してきたはずなんですけど。

椎名 言うとすれば、これはアジアのウイスキーかなぁ。海のほうに蒸留所があるっていうから、これはきっとアジアの海のウイスキーかなあ。同じアジア人としてこんなおいしいウイスキーが、あの遠いスコットランドよりもはるかに近い台湾にあるなんて、ほんとうにうれしいですよね。

西澤 いちど、台湾にある蒸溜所に行ってみたいですよね。

椎名 そうだね。台湾といえば、以前に我われ30人ぐらいで、半月間ほど合宿したことがあるよね。あのときは何を飲んだんだっけ?

西澤 ビールですね。

竹田 台湾ビールを飲んで、その次の酒が課題だったんです。それで地元の人に聞いたら「料理酒くらいしかないですよ」って言われて、ひたすらビールを飲みました。カバランは売ってなかったし、知らなかったですからね。もしこれがあったらえらいことでしたよ。食事代を削ってでもこれを買うという話になってたでしょうから(笑)。

― それはいつのことですか。

竹田 2015年の秋です。

― 2015年であればカバランはすでに発売されていますが、みなさんが行った田舎町では、見つからなかったのかもしれません。

椎名 台湾の南のはずれの小さな村だったから。

竹田 知らなくてよかったとも言えるけど。

椎名 どこかにこれがあるって聞いたら、誰か買い出しに行かせただろうな。

竹田 その役目ぜったい俺じゃないですか! 高雄までクルマで4時間もかかるところだったんですよ。椎名さん、春になったらこのカバラン持って焚き火をやらないといけないですね。寒くてしばらくやっていないですからね。

椎名 そうだなあ。


ほろ酔い加減の椎名さんとお三方の、軽妙でときに激しい言葉の応酬はこの後もしばらく続いたのでした。椎名さん、みなさん、楽しく貴重なお話をありがとうございました!

椎名誠さんと皆さんが飲んだカバラン

皆さんに、この日飲んだカバランの感想をいただきました。

カバラン ソリスト ヴィーニョ カスクストレングス

カバランソリストヴィーニョカスクストレングス
Tasting Note

「これはうまい!」(椎名さん)

「熟成感にはびっくりしましたね。6年でこんなになっちゃうっていうんだから。バランスがすごくいいですよね。シングルカスクって、レーダーチャートだったらどこか尖ってるじゃないですか。それがこんなに丸みを帯びているというか。シングルカスクでこのバランスのよさは驚きです」(西澤さん)

「味わい、香り、アタックの力強さ。これで6年ものだと思うとすごい」(大八木さん)

「南のものというイメージだからかもしれないけど、僕は飲んでみてフルーツが浮かびますね。ちょっとだけ甘くて熟れた感じ。マンゴーみたいなね」(竹田さん)
雑魚釣り隊

Profile

椎名誠(しいな・まこと):1944年東京生まれ。作家、エッセイスト、写真家、映画監督。「本の雑誌」初代編集長。純文学からSF小説、紀行文、エッセイ、写真集など、幅広い作品を手がける。1989年「犬の系譜」で吉川英治文学新人賞、1990年「アド・バード」で日本SF大賞を受賞。現在、人気シリーズ「わしら怪しい探検隊」の流れを引き継ぐ「雑魚釣り隊」の隊長も勤めている。

「雑魚釣り隊」

西澤 亨(にしざわ・とおる)(写真左):雑誌「自遊人」副編集長。雑魚釣り隊副隊長。傍若無人の暴れ者で「平塚の不発弾」「森の西松」など数々の異名をとる。船釣りは嫌いで、もっぱら釣りは堤防専門。

大八木亨(おおやぎ・とおる)(写真右から2番目):彗富運 (SPOON)代表取締役。新宿で予約困難なビストロを2軒経営している。キャンプではザコ(メンバーの一人)とともに驚くほどうまいものを作ってくれる。

竹田聡一郎(たけだ・そういちろう)(写真右):スポーツライター。体力と好奇心抜群の雑魚釣り隊ドレイ頭。Jリーガーをめざしていたが、挫折してスポーツライターになり、取材で世界中を回っている。

※プロフィールは「おれたちを笑え!わしら怪しい雑魚釣り隊」(2017年・小学館刊)より抜粋。


取材協力:池林房 



※ 記事の情報は2019年1月30日時点のものです。

 


 
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