キンミヤはなぜこんなに愛される? 人気のヒミツを探ってみました

キンミヤをこよなく愛する酒場案内人の塩見なゆさんに、その魅力についてお聞きしました。

ライター:nonnon
メインビジュアル:キンミヤはなぜこんなに愛される? 人気のヒミツを探ってみました
サワーやホッピーのベースとして飲まれ、よくも悪くも味の特徴がないといわれる甲類焼酎の中で、独自の立ち位置を確立している「キンミヤ焼酎」。マニアな酒飲みから、若者や女性までその名前は広く知れ渡り、今やブランドと化しています。なぜキンミヤが支持されているのか? ほかの甲類焼酎と何が違うのか? 365日酒場に通い、日本一キンミヤを飲んでいるに違いない(!?)酒場案内人、塩見なゆさんにキンミヤの魅力と美味しい飲み方についてお聞きしました。

魅力的な酒場には必ずキンミヤがあった

新宿思い出横町のカブト
新宿西口の思い出横丁にあるうなぎの「カブト」も塩見さんの行きつけのお店のひとつ
ー塩見さんがキンミヤを知ったきっかけから教えてください。

塩見 両親は酒場で出会って結婚したというほどのお酒好きなので、家にもいろいろなお酒が常備されていまして、その中に「キンミヤ」もありました。私にとってなじみのあるお酒と言いますか、両親が好んで飲んでいるからきっといいお酒なのだろう思っていました。大人になって酒場に行くようになり、「いいお店だな」と思うお店には必ずキンミヤがあったというのも、キンミヤ好きになった理由のひとつですね。

ーいいお店にはキンミヤがある…そう感じる理由はどのあたりにあると思いますか?

塩見 これはお酒に関わる仕事をするようになって知ったのですが、宮崎本店さんは「上場している企業のお店にはキンミヤは卸さない」というこだわりがあるそうです。大手チェーンの居酒屋でキンミヤを見かけることはほとんどありませんよね。その理由について宮崎本店の営業さんにお聞きしたところ「人気だからという理由で扱っても、もしブームが去ってしまったら引き上げられてしまうこともある。キンミヤの良さ知って長くお付き合いできるところに卸したい」と。大人気になった今でもこのポリシーを貫いているそうです。 また、お値段が他の甲類焼酎よりやや高めなので、お店の方でも、ホッピーやサワーのベースにキンミヤを使っているとアピールしたくなるんじゃないですかね。特別な甲類焼酎というイメージがついたのは、こうした背景もあると思います。

立ち飲み、昭和レトロ、ホッピー、シャリキン…お酒トレンドにぴったり合ったキンミヤ

シャリキンとホッピー
酒場でもおなじみ「シャリキン」
ーここ数年で「キンミヤが好き」という人が増えたように思うのですが…。

塩見 キンミヤが広まったのは、いくつかの要素が重なっていると思います。なかでもホッピーの普及は大きな要因でしょうね。一部の人が好んで飲んでいたホッピーが幅広い世代に飲まれるようになったことでキンミヤを知った人も多いのでは。ホッピーとの相性がいい焼酎として活躍の場が増えたのは間違いないでしょう。そして、キンミヤを冷凍してシャーベット状にした「シャリキン」も、キンミヤ人気を加速させたと思います。凍った焼酎を炭酸で割る飲み方がツウっぽいと口コミで広まり、酒場でも扱うところが増えました。発祥は諸説ありますが、池袋の居酒屋「男体山」だと言われています。

ー「シャリキン」を自宅で楽しめるパウチの開発には、塩見さんも関わったそうですね。

塩見 宮崎本店さんもシャリキンという飲み方があることは知っていたけど、それほど人気なら…と商品化したのが2013年のこと。当時はまだ「シャリキン」を知っている人はごく一部でしたが、パウチを発売したあたりキンミヤの知名度が上がってきたと感じています。

ーラベルのデザインも特徴的ですよね。

塩見 レトロでかわいいのも女性層には評価されていますね。おしゃれなお店にあっても浮かないし、ボトルを頼んでテーブルに置いてもいい感じ。私はティファニーブルーならぬ「キンミヤブルー」と呼んでいます(笑)。ボトルキープでこの瓶が並んでいると目を引きますから、知らない人は何だろう?と注目しますし、一度見たら忘れないデザインですよね。
キンミヤ
お店ではおなじみのキンミヤの750mのボトル。ブルーが目を引きます
ー塩見さんが分析するように時代のニーズにぴったりと合ったキンミヤ。凄腕プランナーが仕掛けた戦略のように見えますが…。

塩見 まったくの偶然だそうです。私も取材でおうかがいしたときにいろいろ聞いたのですが、マーケティング的な戦略ではなく流れに身を任せていたらこうなったんだとか。 これだけ人気ならさぞかし…と思いますが 宮崎本店さんの商品の中ではキンミヤの売り上げは1割程度。主力は「宮の雪」という日本酒で、会社ではそちらに力を入れているそうです。キンミヤは消費者がおいしいと喜んでくれているから、それにこたえるためにがんばっているというスタンス。野心を持って仕掛けていないからこそ、ほのぼのとしている“愛されキャラ”が確立したのかもしれませんね。

ほのかな甘みとマイルドな口当たり。そのまま飲んでもおいしいお酒

ロックで飲んでも美味しいキンミヤ焼酎
ロックで飲んでも美味しいキンミヤ焼酎
ーキンミヤの味わいの魅力はどんなところだと思いますか?

塩見
 甲類焼酎に味の違いはない…と思われるかもしれませんが、 実は結構違いがあります。私は、ブラインドテイスティングでキンミヤを当てられる自信がありますよ(笑)。キンミヤを割らずに飲んだことがある人は少ないと思いますが、ぜひ一度そのまま飲んでみてほしいですね。雑味がなく、ほのかな甘みとまろやかさを感じると思います。

ーその甘さのヒミツは何でしょう? 

塩見 原材料は他の甲類焼酎と同じ糖蜜なので、軟水といわれる鈴鹿山系の伏流水を使っているのが要因ではないかと思います。宮崎本店さんによれば、鈴鹿川を源流にした地下水を独自にひいて使っているそうです。そして、製造法にもポイントがありました。焼酎を水で割ってアルコール度数を調整した後、しばらく置いてなじませる「前割り」をしてから出荷しているとか。前割りすることによってまろやかさと甘味がでて、ほかの甲類焼酎とは違う味わいになっているようです。違いはない…と言われていた甲類焼酎ですが、仕込みの水や製法によって差が出ているんですね。みなさんもぜひ一度、ストレートで飲んでみてください。キンミヤの新たな魅力を感じられるかもしれません。
キンミヤのタンク
蒸留、加水のあと、敷地内の巨大なタンクで寝かされているそう

キンミヤは「語りたくなる酒」。ストーリーを感じて飲むのも楽しい

明日の活力になる酒場でのひとときには「キンミヤ」がよく似合います
明日の活力になる酒場でのひとときには「キンミヤ」がよく似合います
ー大人気のキンミヤですが、売り上げの8割は首都圏で、東海地方では扱っているお店はほとんどないとか。三重で作られたお酒がなぜ東京の下町のお酒として広まったのでしょうか?

塩見 下町のお酒として、以前から親しまれていたようですが、きっかけは関東大震災だったと聞いています。関東大震災で食料難になっていた東京に水や日用品などの支援物資を船に積んで運んだそうです。このときの恩義を返したいと東京の酒屋さんがキンミヤをこぞって取り扱うようになり、定着したそうです。 遠く離れた三重のお酒が人情によって結ばれて、東京の下町で根付いた。酒場で人に話したくなるような話ですよね。 キンミヤは大正時代から明治、昭和と…東京の復興や成長とともに歩んできたお酒。みなさん、ホッピーや梅割りを飲んで明日の活力にして働いてきたんでしょうね。こちらの「カブト」も創業1948年(昭和23年)と歴史の古いお店。新宿の街の移り変わりに思いをはせつつ、キンミヤを飲むのも素敵だと思います。キンミヤは飲んでいると人に話したくなるウンチクがある、美味しいねと会話したくなる、そんな広がりのあるお酒。ぜひ、お酒の持つストーリーも楽しみながら飲んでみてください。

家飲みで楽しむキンミヤはこれ!

梅シロップを入れたキンミヤ
下町の割り材「天羽の梅」。ほのかに甘い味でうなぎのかば焼きとよく合います
ーおすすめの飲み方はありますか?

塩見 酒場で飲むなら、今回お伺いしたカブトさんでも飲める「梅割り」がおすすめです。キンミヤのストレートに「天羽の梅」という割り材を入れて飲みます。 梅の果汁は入っていないそうですが、ほんのり甘く、ついつい飲みすぎてしまうのでご注意を。

ー家飲みではいかがでしょう?

塩見 私は酒場巡りが仕事ですが、家飲みも大好き。ゆるゆるとリラックスできる家飲みは、酒場とはまた違った楽しみがありますよね。自宅にはいろいろなお酒が常備されていますが、 甲類焼酎はもちろんキンミヤです。 キンミヤの1.8lの紙パックを冷凍させて「シャリキン」を作っています。 パウチも便利ですがお酒飲みにはこちらのほうが断然コスパがいいので(笑)。 パックの上の部分をカットして、スプーンですくってグラスに入れ、炭酸を注いでいただくのがお気に入りです。シンプルな飲み方でキンミヤの美味しさを感じたいので甘さは加えません。

ー今晩やってみます!(笑) 他におすすめはありますか?

塩見 キンミヤはレモンサワーにもよく合いますね。私と同じように甘いのが苦手…という人は炭酸、レモン果汁、キンミヤのみで作るシンプルなレモンサワーはぜひ試してほしいです。ほかにも「緑茶割り」やコーヒー豆を漬けた「コーヒー焼酎」もキンミヤの 自然な甘さが引き立つのでおすすめです。クセがなく、どんな割材とも相性がいいので、皆さんもオリジナルの飲み方を開発してみてください。
お酒は味の美味しさはもちろんですが、誰とどんな場所で飲むかも大切。下町の酒場で受け継がれてきたキンミヤは、酒場の楽しみを感じさせてくれるお酒だからこそ、多くの人に愛されるのかもしれませんね。

この方にお聞きしました

塩見なゆ

酒場案内人。フリーの飲食のコンサルタント、ライター。東京都杉並区・荻窪生まれ。新宿ゴールデン街に 通った作家の両親を持つ。飲料メーカーで広報・宣伝などの職を経て独立。全国津々浦々の酒場をめぐり、年間2,000軒を梯子している酒場紹介のサイト「syupo」を運営。 https://syupo.com/

塩見なゆ
※記事の情報は2019年5月21日時点のものです。
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