きくち正太『あたりまえのぜひたく。』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑱》

「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲んでみたい」 家飲み派の筆者がささやかな夢を叶える連載、今回は実用性たっぷりのグルメ漫画『あたりまえのぜひたく。』からの再現です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:きくち正太『あたりまえのぜひたく。』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑱》

料理上手な漫画家の直伝レシピで、本格派エスニックな豚足料理を


◼こんな本です
漫画家・きくち正太先生の『あたりまえのぜひたく。』はweb漫画サイト「comicブースト」にて連載中の食漫画で、コミックスは6冊発売されています(2021年3月現在)。

きくち先生は老舗料亭を舞台にした食&人情漫画『おせん』の作者でもあり、食に対する造詣の深さはなみなみならぬものがあるお方。

『あたりまえのぜひたく。』は、先生と奥様の手によるきくち家の料理の数々を食いしん坊な担当編集者がいちゃもんをつけつつめっちゃ堪能するという実録的な内容で、1話完結スタイルゆえどこから読んでも楽しめるのが魅力。タイトルの通り、豪華絢爛ではなくても身の回りにある普段使いの食材で充分に“ぜひたく”を味わえるのだいうことを見事に証明されています。

きくち先生は1冊目の単行本発売を記念した吉本ばなな先生との対談でこのようにおっしゃっていました。

「この『あたりまえのぜひたく。』で描いたのは、“ぜひたく”であって“ぜいたく”ではないんですよね。イメージとしては、戦後の何もなかった時代の“ぜひたく”。何もなくても、ぜいたくはできるということ。今はグルメ本やレシピ本が山ほど出版されているし、インターネットでも素人の料理紹介などがすごいけれど、そんな中で、めしを土鍋で炊いて、このタイミングこうすれば、慌てるでもなく、電化製品に頼るでもなしにこの時間でこれができるという……。「私はこうしていますよ」ということを描きたかった。料理は何でもよかったんです。」

あたりまえのことをおろそかにせず然るべき時間をかければ、段違いの口福に出合えるのだと、きくち夫妻の地に足ついた食生活(とクセ者編集さんとの掛け合い)を通して知ることができます。

丁寧に研いだ包丁で新鮮なアジをさばき、干物にして七輪で炙りビールをとくとくとく……。葉付きの大根を皮は漬物、葉は油揚げと炒め物に、本体はがんもと一緒にじっくり煮含めてちろりで熱燗一献。ネギで香りづけするのがユニークな自家製めんつゆで炒めたコンニャク、大きな中華鍋にこれまた大きな蒸籠をのっけて大鉢で作る中華風茶碗蒸しなどなど、「これは真似してみたい! できそう!」と思える品々がずらり。

そうそう、以前の記事でもこの漫画(単行本1冊目)に登場する料理を真似したことがありました。
本家よりだいぶスケールの小さめな「豚肩ロースの塊肉焼き」でしたが、とても美味しかったんですよ〜。

なので、どれを再現しても間違いないとは思っていたのですが、なにせどれも食べてみたすぎて1つに絞れない……。めちゃくちゃ悩んだあげく、ようやく決めたのがこちらでした。

◼ここを再現

きくち正太 幻冬舎『あたりまえのぜひたく。─きくち家 渾身の料理は……。─』第三十八話「夏のパワー、ニンニク、豚舌 そして豚足!!」より
お疲れ気味な担当編集の高松さんからのリクエストならぬお題は、「夏バテ対策 ニンニク スタミナ」。時期的には少し早いかもしれませんが、夏を前に冷え冷えのビールが美味しくなる料理を覚えておいて損はありませんよね。

で、きくち家の出した答えは「んじゃあ 明日は画材仕入れに吉祥寺出るし」「駅ビルのお肉屋さん寄ってーーー」……肉っ! 

肉は肉でも、メインとなるのは意外や豚足でした。

きくち正太 幻冬舎『あたりまえのぜひたく。─きくち家 渾身の料理は……。─』第三十八話「夏のパワー、ニンニク、豚舌 そして豚足!!」より
「台湾式煮込み豚足」!

響きからして本格的で、これが“あたりまえ”に作れるのかちょっと心配っ。

豚食文化が盛んな沖縄で育った私にとって豚足は身近な食材ですが、煮込みや汁物、沖縄そばの具でしか食べたことがありませんでした。豚足も台湾料理もそれぞれに好きなので、合体したらどんなに美味しくなるのか楽しみでなりません。

『あたりまえのぜひたく。』再現レシピ
台湾式煮込み豚足の作り方

まずは材料を見てみましょう。

きくち正太 幻冬舎『あたりまえのぜひたく。─きくち家 渾身の料理は……。─』第三十八話「夏のパワー、ニンニク、豚舌 そして豚足!!」より
あらっ、豚足と豚舌以外は近所のスーパーでも手に入るものばかりじゃないですか。

私の場合、ボイル豚足を常備している精肉店を知っていたのでそれはひとまずキープ。豚舌は近隣の精肉店に電話で問い合わせをして、2軒目で見つけました。入荷するタイミングが限られているといわれたので、作られる場合は早めに算段をつけておくのがおすすめです。

本編では詳しい分量や手順が描かれているため(ありがたい!)、今回はそれを抜き出してみました。

<材料> ※基本は本編に登場する量。【 】内は私が作った時の量です。
・豚足…4頭分【1/2頭(豚足2本)分】
・豚舌…3本【250gほどのサイズを2本】
・茹で玉子(殻を剥いておく)…15個【5個】

☆ネギ…適宜
☆ニンニク(肉叩きなどで軽くたたいておく)…適宜
☆生姜(肉叩きなどで軽くたたいておく)…適宜
※☆は下準備、本煮込みと2回分必要です。

・紹興酒…カップ2
・みりん…カップ1
・醤油…カップ2
・ザラメ…大さじ3
・八角…2個
※調味料は本編の分量の2/3程度にしました。


(タレ)
・生ニンニク(包丁の背などで潰す)
・醤油

<作り方>
① 大鍋に湯を沸かし、ニンニク、生姜、ネギ、豚舌を加え5分茹でる。
② 5分経ったら豚足を加え、さらに5分茹でてザルにあける。
③ 豚足、豚舌ともに流水で汚れを掃除する(豚舌のぶつぶつが気になる場合は削ぎ落とす)。
④ 大鍋に豚足、豚舌、新たなニンニク、生姜、ネギを入れてひたひたの水を足して火にかける。沸騰したら弱火にして30分煮る。
⑤ 紹興酒、みりん、醤油、ザラメ、八角の順で加えて味付けをし、落し蓋をのせて1時間30分煮る。
※⑤の鍋が30分経った頃、別の鍋に⑤から煮汁を取り分け、茹で玉子を加えて1時間煮る。
 

きくち正太 幻冬舎『あたりまえのぜひたく。─きくち家 渾身の料理は……。─』第三十八話「夏のパワー、ニンニク、豚舌 そして豚足!!」より
そうそう、煮込んでいる間の香りが台湾の食堂っぽくて気分が盛り上がるんですよ〜。

⑥煮込み終えたら火を止めて、常温まで冷ませば完成。豚足と玉子は食べやすくカットし、豚舌はスライスする。タレは生ニンニクに醤油を加えたものを用意。
 

きくち正太 幻冬舎『あたりまえのぜひたく。─きくち家 渾身の料理は……。─』第三十八話「夏のパワー、ニンニク、豚舌 そして豚足!!」より
材料さえ揃えればあとは順に煮ていくだけでほぼ手間いらず! 思った以上に簡単に出来上がりました〜。
台湾式煮込み豚足、豚舌、玉子
台湾式煮込み豚足、豚舌、玉子です。本編ではセロリが添えられていましたが、ちょうど元気なパクチーを買ったばかりだったのでそちらを採用。

見渡す限り旨そうな茶色、茶色、茶色! そして八角のエスニックな香りが「早よ食え、早よ飲め」と急かしてきます。
 
豚足
まずは豚足。常温なので、きくち先生ご指南の通り手で持っていただきます。

おおう……これはナイスぷるっぷる〜〜〜。
 

きくち正太 幻冬舎『あたりまえのぜひたく。─きくち家 渾身の料理は……。─』第三十八話「夏のパワー、ニンニク、豚舌 そして豚足!!」より
弾むような皮と、ねっとりこっくりした内側の身、骨周りのコラーゲンっぽい何かまでしっかりと味が付いていて「ザ・台湾のお店の味」っぽい!

味付け自体は見た目ほど濃すぎないので、パンチのあるニンニク醤油をちらっとつけるとちょうどいい感じです。これは間違いなくスタミナつきますわぁ。手づかみで食べるワイルドさも楽しいな。

そして、テカテカになった口にビールを注ぎ込むのが、んもー、快感っっっ!
 
豚舌
続いて豚舌。牛と違って豚舌の皮は柔らかいのでそのまま調理しています。しっとりと柔らかく、臭みもありません。噛み締めると肉の繊維質の間まで台湾の香りがしっかりと染み込んでいて、ものすごく手間のかかった料理みたい。
 
豚舌
これまたニンニク醤油が合うこと!
 
煮卵
そして大好きな玉子。見た目は普通の味玉のようなのに、ひと口で異国に連れていってくれるじゃないの……。やるなぁ。

台湾のコンビニ店頭で売っている「茶葉蛋」(お茶っ葉やスパイスを使った煮玉子)が好きなのですが再現するのはけっこう難しそうで諦めていました。が、これなら方向性が遠からぬものが簡単に作れる! 嬉しい発見でした。
 
厚揚げ
玉子を煮る鍋にスペースがあったので、ついでに厚揚げも投入。しみっしみのふるっふる〜。焼き豆腐やお揚げでもよさそうです。
 
土鍋で厚揚げと卵を煮る
翌日は玉子や厚揚げも一緒に煮返しておかわり。ちなみにこの土鍋は10号(5〜6人前)サイズ。口径約30cmと大きめの鍋でこの状態です。本編通りの分量で作りたい方は、この倍くらいの大きな鍋が必要になるかと。
 
なんちゃってアジア麺
沖縄そばの乾麺を茹で、煮汁ごとぶっかけたなんちゃってアジア麺。朝ごはんにしちゃったけど、これもビール必須の味でしたわ。

具を食べきった後も旨みたっぷりな煮汁が残ったので、ちゃっかり冷凍しておきました。 これで次は豚肩ロースの塊を煮るつもり!

***

きくち夫妻曰く、この料理はおふたりが30年以上通っている台湾料理店のメニューをお手本にしているのだそう。本場の味を誰でも真似しやすい家庭の“あたりまえ”に落とし込んでいるのがさすがです。おかげで豚足の新たな扉が開けました。気軽に帰省ができるようになったら、ぜひ故郷・沖縄の家族や親戚にもこの豚料理を振舞ってあげたいです。

※記事の情報は2021年4月12日時点のものです。
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