石田千『箸もてば』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㉙》

やわらかな文体が魅力の石田千先生のエッセイ『箸もてば』から、豆づくしのおつまみが登場。「大豆はおさけの親友」という石田先生の言葉のとおり、家飲みが捗ること請け合いです。家飲み大好きな筆者が、「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:石田千『箸もてば』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㉙》

やさしい文体がほろ酔い気分をいざなう、珠玉の食べ物エッセイ


※2022年3月2日現在絶版

◾こんな本です
作家・エッセイストの石田千先生が綴った、36編の食にまつわるエッセイ。「おべんとさげて」「空豆紀行」「レバニラ、たそがれ」「日曜の若菜」など、本編を読む前に目次だけでも妄想の飲み食いがはかどる、腹ペコ垂涎の一冊です。

澄んだ声で優しく読み上げてくれるような、すっと心に入ってくるやわらかな文体が石田先生の魅力。淡々としているようで、対象への愛ともいえる温かさが感じられる過不足のない描写がとても素敵なんです。

「やおやさん」「おさけ」「しろめし」「氷ざとう」といったふうにひらがな使いが絶妙なところもたまりません。

春にはやおやさんの奥さんに習った方法で筍をゆでて筍づくしを堪能し、夏は「暑さでよごれがゆるむから」と大掃除に励んで、シャワーの後にタジン鍋でありあわせの野菜をトマト煮に。「月見て一杯、夜はゆったり長くなる」秋には、生まれ故郷である東北ゆかりの菊花とからどりのごま酢あえを味わって、お正月は食いしんぼうなご両親のいる実家に帰り、芋や大根をストーブでくつくつ煮る。

そのつどひき肉を作ってくれるよいお肉やさんを目指して坂をのぼり、「この世でいちばんのお気に入りはダイヤモンドよりもマスタードのちいさなあきびん」だと25年来のあきびん愛用パターンを披露し、商店街で少しずつ材料を揃えたサンドイッチを明日のお楽しみにして寝る。

ああ、なんて素敵な日々なんでしょう。暮らし上手の食べ上手、楽しみ上手とはこのことか。

この本を読み返していると、己の粗雑な暮らしをほんの少しでも正したくなります。

まずはお料理を再現して、小さな一歩で石田先生に近づいてみましょうか。

ここを再現

「ハナハトマメマス」と題された、豆づくしの一編からの再現です。

いろんな豆をあきびん(例のマスタードの?)にならべているという石田先生。京都の錦市場にある豆やさんがお気に入りで、店主夫妻をお豆の先生と仰ぎ、もどしかたや煮かたを教えてもらっているのだそう。
豆は、いまでも枡売りで、いちどに買うのは二合まで。
ぱらりぽろりとびんに入れながら、ハナ、ハト、マメ、マス。母が習ったという国語の教科書の、おまじないのようなリズムを思い出す。

石田千 /『箸もてば』<ハナハトマメマス>(新講社)より
豆は一合ずつもどして茹で、使いきれなければ冷凍するのが石田先生の豆スタイル。

そうか、冷凍ができるんですね。豆料理ってとても手間や時間がかかるものだと思い込んでいた私に、豆色の光が差した気がします!

「大豆はおさけの親友なので、のみすけになってから欠かしたことがない」という一文に続くのが、美味しそうな大豆おつまみの数々。
 しろい大豆をゆでたら、きざんだねぎ、青のり、辛子しょうゆであえる。ねばねばしない納豆のようで、お燗によくあう。浅草のお店で覚えた。
 青大豆は、かためにゆでて塩をふると、さやからはずしてもらった枝豆の状態となるので、つまみだすととまらない。
 炊きたてのごはんにまぜたり、もどした切干大根といっしょに、みりんをいれた酢じょうゆにひと晩つける。にんじんや昆布、ぜいたくに数の子をいれれば、りっぱなハリハリ漬け。ゆでたてを、きざんだ野沢菜漬けであえても、冬らしい。大豆といえば、イソフラボン。中年女性の標語もとなえてつまむ。

石田千 /『箸もてば』<ハナハトマメマス>(新講社)より
あー、どれも美味しそう!

豆づくしの再現をするべく、まずは仕入れから。ふつうの大豆と青大豆はすんなり行きつけの八百屋で買えたものの、“しろい大豆”が数軒のスーパーや食材店をはしごしても見つかりません。って、私は京都に住んでいるんだから、石田先生の師がおられる豆やさんに行けばいいんだと気づいて向かうも、目星をつけたお店は臨時休業で…。結局ネットで取り寄せました。とほほ。

で、ようやく手にした“しろい大豆”がこちら。茹でる前のものと茹でた後をのせています。
白大豆
農産サイトによると、「黄大豆(一般的な大豆)よりも白に近い色で、へその部分も白いのが特徴」なのだそう。

で、私が買った一般的な大豆はこんな感じ。
一般的な大豆
ち、違いがわかりません!

オーガニック系の八百屋さんでちょっと奮発したからか、こちらも真っ白できれいな豆です。味はほぼ同じでした。強いていえば、こちらの方が豆の風味が濃厚だったかなぁ。
 
青大豆
あきらかに違いがわかって安心(?)な青大豆。大豆って丸っこいのに茹でたら細長くなるのが不思議でかわいらしいですね。

■お品書き

  • しろい大豆 ねぎ、青のり、辛子しょうゆあえ
  • 青大豆 かためにゆでて塩
  • 大豆 きざみ野沢菜あえ
しろい大豆 ねぎ、・青のり、辛子しょうゆあえ ・青大豆 かためにゆでて塩 ・大豆 きざみ野沢菜あえ
材料、作り方は先ほどの引用部分をご参照ください。

【箸もてば再現レシピ①】しろい大豆 ねぎ、青のり、辛子しょうゆあえ

しろい大豆 ねぎ、青のり、辛子しょうゆあえ
■食べてみました
和えているときから、うわー、これ好きぃ!とコーフンしてしまいました。大豆のほっくりとした甘さを辛子しょうゆがピッと引き締め、青のりがふわんと香る。そしてねぎのシャキシャキ感が控えめに主張。見事なバランスです。関西住みの私は青ねぎで作りましたが、浅草のお店で出されたものならきっと白ねぎを使っていたのでしょうね。今度はそのバージョンでもやってみたいです。いやほんと、燗酒にぴったりすぎました。

【箸もてば再現レシピ②】青大豆 かためにゆでて塩

青大豆 かためにゆでて塩
■食べてみました
余計な水気のない枝豆という感じで風味くっきり。おいしーなーーー。かために茹でるのがキモですね。かる〜くコリッとする食感がなんともオツ。あえて塩をランダムに振ったので、豆だけの味のところと塩で甘みが際立つところがあってこれまた楽し。この量の枝豆を自分でさやから出すことを思うと気が遠くなるので、青大豆サマサマですわ。感謝感謝。

【箸もてば再現レシピ③】大豆 きざみ野沢菜あえ

大豆 きざみ野沢菜あえ
■食べてみました
主語がなかったためどの大豆を使うのかしらと迷ったのですが、いわゆる普通の大豆でやってみました。野沢菜あえ、私の経験では初めての組み合わせです。刻んで用意しておいたものに、茹でたての豆をざっくりと混ぜました。すぐに食べたので豆に野沢菜の味がしみるほどでもなく、漬物の塩気が豆の優しい味わいを引き立ててくれました。シャキッとした野沢菜とほくほくお豆の食感の対比もいいですね〜。ほかの漬物でも面白いのではないかと興味が湧きました。今度やってみよう。

***

3品とも、豆さえ茹でればあっという間にできてしまう簡単さでした。しかもどれも酒飲みのツボをびしっと押さえたものばかり。さすがです。

箸でひと粒ずつつまめば早食いや食べすぎの抑制にもなるし、いいことづくしですね豆晩酌。食べきれなかった分はしっかり冷凍したので、また近いうちに楽しむことができそうです。

※記事の情報は2022年3月2日時点のものです。
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