ナチュラルワインの祭典「RAW WINE TOKYO 2025」レポート

5月に東京で開催されたこの催しはオーガニックやビオデナミなどナチュラルワインの試飲会で、昨年に続いて2回目の開催です。世界15ヶ国から100近くのワイン生産者に加えて、今回は日本酒の酒蔵も出展しました。

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成長著しいナチュラルワイン

日本でも、有機栽培や無農薬栽培でオーガニックの認証を受けたワインや日本酒を目にするようになりました。スーパーの酒売場でもオーガニック認証シールの貼ってある商品が並んでいたり、コーナー化したりしています。

また、ビオデナミワインという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは「ブドウ畑を地球の一部と捉え、宇宙の力や自然のリズム(月の満ち欠けなど)に合わせて、特別な調合剤を用いてブドウを育てる農法(ビオデナミ農法)で造られたワイン」のことで、ナチュラルワインのひとつです。

オーガニックもビオデナミも明確な定義がないので市場規模を掴みにくいのですが、ナチュラルワインの先進地ヨーロッパではワイン全体の2~3%を占め、この割合は毎年伸びているというレポートもあります。日本でも市場はまだ小さいですが、原料のブドウや米の栽培から取り組む小規模な酒造メーカーには、こうした酒造りを行うところが増えています。

ナチュラルワインを牽引してきた「RAW WINE(ロー・ワイン)」

「RAW WINE」は直訳すると「生ワイン」です。主宰者でフランス人女性初のマスター・オブ・ワイン(ワインの最難関資格のひとつ)の称号を持つイザベル・レジュロンさんらによる造語で、ナチュラルワインを表現しています。

「RAW WINE」が始まったのは2012年のロンドンでした。レジュロンさんがワインの生産者や輸入業者に「ナチュラルワインをもっと広げよう」と呼び掛けて始まったそうです。小さな規模でのスタートでしたが、ロンドンからベルリン、ロサンゼルス、ニューヨーク、モントリオール、トロント、マイアミ、ウィーン、コペンハーゲン、パリなど、次々に見本市の開催地が拡大し、これまでに参加したワイナリーはのべ1,300を超えています。ちなみに見本市や公式サイトでは、ワインの加工プロセスのほか一般にはあまり知られていない、ワインの製造途中で使われる亜硫酸塩などの添加物の含有率を開示しています。

日本で2回目の開催となった今回は、日本のナチュラルワインやオーガニックに取り組んでいる酒蔵も出展するバラエティ豊かな内容となりました。
イザベル・レジュロンさん(左)福光屋(金沢市)のスタッフ(右)
発起人でマスター・オブ・ワインのイザベル・レジュロンさん(左)。福光屋(金沢市)のスタッフと

ナチュラルワインの一大産地イタリア

ではイタリアワインコーナーから回ってみましょう。イタリアはヨーロッパでも特にオーガニック栽培のブドウ畑のシェアが高く、2021年には19%で世界一というデータがあります。オーガニック認証を受けたブドウを使用するという点で、自然派ワインの基盤が非常に大きいことを示しています。

イタリアの自然派ワイン生産者たちの間では、自然派ワインは「新しいもの」というより、むしろ「ワインが大規模に工業化される以前の、伝統的なワイン造りへの回帰」という考え方が根付いています。もともとイタリアには「地域性」や「土着品種」を重んじる風土が強く、個性的なワイン造りをする小規模な生産者が多い傾向にありました。この土壌が、添加物を極力使わず、ブドウ本来の力を引き出す自然派ワイン造りと親和性が高かったといわれます。伝統的な食文化を守り伝えるスローフード運動もイタリアが発祥ですから、イタリアにこうした風土があるのは確かでしょう。

会場ではどのブースもにこやかに試飲をすすめてくれました。
Eugenio Bocchino(エウジェニオ・ボッキーノ)のランゲ地区のネッビオーロ種のワイン
北イタリアのピエモンテ州のEugenio Bocchino(エイジェニオ・ボッキーノ)のランゲ地区のネッビオーロ種のワインをアピール

Granja Farm(グランハ・ファーム)の「ヴィエン メイク! 2023」
ピエモンテ州でも西の端、フランス国境に近い山の中にあるGranja Farm(グランハ・ファーム)の「ヴィエン メイク! 2023」。出色のオレンジワインと評判

Tenuta di Valgiano(テヌータ・ディ・ヴァルジャーノ)
キャンティ・クラシコやモンタルチーノ、ボルゲリなどの銘醸地を抱えるトスカーナ州。Tenuta di Valgiano(テヌータ・ディ・ヴァルジャーノ)はフィレンツェから西へ約100㎞のルッカの丘の上にある

Poggio Cagnano(ポッジョ・カグナーノ)
トスカーナ州の最南端、ラッツィオ州境に近いマンチャ―のPoggio Cagnano(ポッジョ・カグナーノ)は宿泊施設もある自然派ワイナリー
Signora Ginni(シグノラ・ジンニ)
Signora Ginni(シグノラ・ジンニ)のあるコルトーナは、トスカーナ州アレッツォ県にある人口約2,100人の町。映画「ライフ・イズ・ビューティフル」や「トスカーナの休日」の舞台としても知られている

Porta Del Vento (ポルタ・デル・ベント)
Porta Del Vento (ポルタ・デル・ベント)はシシリー島のパレルモに近いカンポレアーレの山上にある自然派ワイナリー。土着のカタラット種やグリッロ種を使った微発泡オレンジワイン

ナチュラルワインと言えばジョージア

そしてナチュールワインと言えばジョージアは外せません。ワインの起源があるともいわれるジョージアは、クヴェヴリという素焼きの大甕を埋め、ブドウを放り込んで発酵させる伝統製法で知られ、この文化はユネスコの文化遺産に登録されています。
ワインを発酵させる甕クヴェヴリ
ワインを発酵させる甕クヴェヴリ。大きいものは数メートルある

土中に埋められたクヴェヴリの展示(世界最古のワイン ジョージアワイン展2019より)
土中に埋められたクヴェヴリの展示(世界最古のワイン ジョージアワイン展2019より)

Artana Wines(アルタナワインズ)のアルタナ・サペラヴィ
ジョージア・カヘティ地区にあるArtana Wines(アルタナワインズ)のアルタナ・サペラヴィ。サペラヴィ種はジョージアを代表する赤ワイン用のブドウ。ビオデナミ栽培のブドウをクヴェヴリで発酵、熟成させたもの

Iora - Winery and Distillery(イオラ・ワイナリー&ディスティラリー)
同じくカヘティ地区のIora - Winery and Distillery(イオラ・ワイナリー&ディスティラリー)は首都トビリシから東へ50㎞ほど。2019年からオーガニックワインに取り組み始めた。名前のとおり蒸留酒も造っている

ナチュラルワインが日本酒の味を拡げる

11時からはセミナールームで日本酒の酒蔵によるトークショー「自然派日本酒の可能性について」が開催されました。パネラーは仁井田本家(福島県郡山市)の仁井田穏彦社長、寺田本家(千葉県香取郡)の寺田優社長、宮島酒店(長野県伊那市)の宮嶋敏社長、そして一般社団法人オーガニックビレッジジャパンで「ビオサケ・プロジェクト」を進める種藤潤事務局長です。

それぞれに自然派日本酒に取り組み始めた経緯と手応えを報告しましたが、近年はナチュラルワインの影響を受けて「こんな味もありだよね」という声が増えているという点は共通していました。
右から種藤さん、宮島さん、仁井田さん、寺田さん
右から種藤さん、宮島さん、仁井田さん、寺田さん。自己紹介が終わるとパネラーが酒を参加者に注いで回るという異例の展開だった

宮島酒店 『新九郎』
宮島酒店は磨かない酒を造って30年。米作りを委託している熱心な米農家の、農家の本音は米を磨かないでぜんぶ使って欲しいという声に応えて始めた。精米歩合91%で協会10号酵母で仕込む

寺田本家 『醍醐のしずく』
寺田本家は化学肥料無しの米で酵母を添加せずに酒を造る。振舞った『醍醐のしずく』は水酛仕込みで酸味と旨味の強い独特の味わい

仁井田本家
仁井田本家は「日本の田を守る酒蔵になる。水を守る、山を守る」が信条。祖父が植えた杉で作った木桶で酒を仕込む

ビオサケ・プロジェクト
ビオサケ・プロジェクトは自然派日本酒に取り組む酒蔵に製造を委託し、独自ブランドで商品を販売する

福光屋(石川県金沢市) 『禱と稔(いのりとみのり)』
日本を代表する純米蔵として知られる福光屋(石川県金沢市)は日本、アメリカ、EUの有機認証『禱と稔(いのりとみのり)』を紹介

バラエティ豊かな日本のナチュラルワイン

日本でもワイナリーが続々と誕生していますが、独立系のスタートアップワイナリーにはナチュラルワインに取り組む方が少なくありません。今回は11軒が参加していましたが、その一部をご紹介します。
香月ワインズ(宮崎県綾町)の香月克公と『綾トピア』
香月ワインズ(宮崎県綾町)の香月克公さんは、ニュージーランドとドイツで10年間ワイン醸造を学んだ本格派。地元宮崎県でワイン用ブドウ品種を栽培し、2013年から化学肥料、殺虫剤、除草剤を一切使わないブドウ栽培に移行。『綾トピア』は巨峰種、ナイアガラ種、ポートランド種の3品種を使用

葡萄酒醸造所(徳島県三好市) 『Cheeky』
『Cheeky』をおすすめするNantan葡萄酒醸造所(徳島県三好市)。このワインは長野県産ブドウを使い酸化防止剤無添加の微発泡(要冷蔵)。市内の環境の異なる6か所のブドウ畑で複数の品種に挑戦中

島之内フジマル醸造所(大阪府)の『OSAKA RED CUVE PAPILLES(大阪レッド・キュベ・パピーユ)』(右)『CUVE PAPILLES DELAWARE』(左)
島之内フジマル醸造所(大阪府)の『キュベパピーユ大阪RED』(右)は同社の自社畑のメルロー種とマスカット・ベーリーA種を使ったナチュラルワイン。左はデラウェア種で作った『CUVE PAPILLES DELAWARE』

※記事の情報は2025年6月20日時点のものです。

  

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