牧野伊三夫『かぼちゃを塩で煮る』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊳》

多方面で活躍されている画家・牧野伊三夫先生による食エッセイ『かぼちゃを塩で煮る』から、家で調理することは意外と少ない砂肝を使った前菜三種を再現! 三種三様の個性を持った前菜と一緒に、晩酌を楽しんでみました。家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:牧野伊三夫『かぼちゃを塩で煮る』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊳》

お酒と料理を愛する画家が暮らしの中で大切に育てた味を綴ります。

◾こんな本です

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牧野伊三夫先生は小説『かもめ食堂』(群ようこ/幻冬舎)の挿絵をはじめ、書籍や広告など多方面で活躍されている画家。画業に加えて装丁や美術同人誌の編集も手がけられています。

私が初めて牧野先生を知ったのは、鴨井岳さんとの共著『今宵も酒場部 飲んで描いたおとなの部活動報告』(集英社)がきっかけでした。タイトルにも、ぱらりとめくってみた時に目に入った個性的な挿絵にもグッと引き込まれて即買い。

お二人(とゲスト)の飲み歩きルポという仕立てで、挿絵はほぼその場で描き上げたとのこと。力強いタッチで酒場の風景を切り取った鉛筆画がなんとも魅力的で「描いた人はよほど酒場と相思相愛なんだろうなぁ」と感銘を受けました。

それから何年か経った頃、食いしん坊な知人が教えてくれた食エッセイ『かぼちゃを塩で煮る』の作者が、あの酒場上手な画家さんだったのです。『今宵も〜』の飄々とした文章からちょっと酒っけを抜いたような、おうちでの食がメインのお話が57話(文庫版)。

表題の「かぼちゃを塩で煮る」にはじまり、マダガスカルでハマったという鶏肉と生姜のスープ、まずいまぐろのうまい食べ方、三分おつまみ帳(なんと21品!)、カレーライスで酒を飲む、風呂に入ってから飲む、散歩と献立会議などなど、どこから読んでも楽しめるテーマが並びます。

なかには、ちょっと前にご紹介した玉置標本さんの『出張ビジホ料理録』の先駆けともいえる「ビジネスホテルでの調理研究」なんてお話も。奥様と二人、ビジネスホテルに連泊して徐々に豪華になっていく部屋ごはんを楽しまれている流れが最高でした。

「はじめに」では、いかにして食いしん坊で酒仙な画家が誕生したかの謎が解き明かされています。北九州で生まれ育った幼少期からすでに、工事現場の焚き火前で弁当を食べる大人に憧れて弁当を自作し自宅の屋上で味わい、小学校の授業で読んだモンゴル民話に出てくる「焼いた肉。乳のスープ。」に心を奪われ、商いで忙しい両親に代わっておかずやおやつを作るという立派な芽生えをみせていた牧野少年。

美術学校進学のため上京すると自炊に工夫を凝らし、広告制作会社に就職したのちは国内外での外食で舌が肥えてさらにパワーアップ。20代後半で退社して画家となってからは、ヨーロッパの画家と同じものを食べたいと料理本を手本に想像力と代用食品をフル活用して遠い異国の料理を再現。長じて、自宅で友人たちにコース料理を振る舞うまでになったのだそうです。

これらの時を経て、牧野先生が「なかなかおいしくて、何度も作って食べているものばかり」を集めたというのですから、家飲み派の我々にはとてもありがたい内容といえましょう。

牧野伊三夫 /幻冬舎文庫『かぼちゃを塩で煮る』より
巻頭には牧野家の家飲み写真もたくさん収められていて喉が鳴ります。

料理や手順のわかりやすい説明はありますが、細かい分量の記載はなし。それはきっと牧野先生のこんな思いからではないかと推察します。
多少失敗してもくじけずに翌年もまた漬けて、少しずつ自分の好みの味になるようにすればいい。年をとるごとに少しずつ上達するのを楽しめばいいと思う。

牧野伊三夫 /幻冬舎文庫『かぼちゃを塩で煮る』[干す 沢庵]より
沢庵漬けを作る牧野先生が、塩加減や干し具合、漬け方を試行錯誤されたときのお話から。漬物に限らず、自分の手で失敗を重ねて何度も作ったものは、味だけじゃないものが心を満たしてくれるということではないでしょうか。

おいしいものを食べたいと思いつつ、家飲みで適当なアテばっかり作っている私はぜひとも肝に銘じておきたい言葉だと思いました。

牧野伊三夫 /幻冬舎文庫『かぼちゃを塩で煮る』より
このシンプルな線でおいしそうに見せるのが本当にすごい。

『かぼちゃを塩で煮る』ここを再現

今回再現したのは「砂肝の前菜三種」。

牧野先生も作中で書いておられますが、焼き鳥屋ではよく食べるけれど家で調理することは意外と少ない砂肝。この機会にしかと向き合い、家飲みの友に加えたいと思ったのでした。

砂肝シロウトに嬉しかったのが、切り方のイラストがついていたこと。「蝶蝶切り」というお店みたいな切り方を覚えることができました。

今回再現した3品のうち、2品はこの蝶蝶切りにした砂肝を使います。

牧野伊三夫 /幻冬舎文庫『かぼちゃを塩で煮る』より

◾お品書き

  • 砂肝パクチー
  • 砂肝のくるみあえ
  • 砂肝の酢醤油

【『かぼちゃを塩で煮る』再現レシピ①】砂肝パクチー

砂肝パクチー
<材料>
・砂肝(蝶蝶切り)
・パクチー(刻む)
・セロリの葉
・ローリエ
・セロリ茎(みじん切り)
・ニンニク(みじん切り)
▼(A)
・オリーブオイル
・塩
・黒コショウ
・酢
・レモン汁

<作り方> 
① 鍋にセロリの葉とローリエを入れた湯を沸かし、蝶蝶切りにした砂肝を茹でる。
② 茹で上がったらザルで水気を取り、ボウルでみじん切りのセロリ&ニンニクと混ぜる。
③ ②に(A)の調味料を加え、皿に盛って刻んだパクチーをのせる。

◾食べてみました
砂肝の茹で時間に自信がなくて沸騰状態で5分、そのまま粗熱が取れるまで茹で汁に浸しておきました。そのおかげか、香草の下味がしっかりつきました。

…でも正直に申しますと、セロリは使っておりません。使えませんでした。今回の再現は沖縄の石垣島という離島にある実家で行ったのですが、島内の主要なスーパー6軒と産直市場を巡りましたがどこにもなくて。流通の端っこにいる離島住民の悲哀を痛感した次第です。

代用にはパセリの茎を採用。牧野先生も若き日々は代用食材で西洋料理を作っておられたし、失敗しながら自分の味にとおっしゃってくださった。ということを自分に言い聞かせつつなんとか完成させました。

元々砂肝もパクチーも大好きなのでこれはもう間違いのない味! ブリッと弾力のある砂肝に、ニンニクの効いた味付けが合うし、蝶蝶切りにすることで味のなじみもいい感じです。セロリがあったら清涼感もプラスされて最高だろうな〜。次は絶対入れよう。 お酒は軽い飲み口のオリオンビールを合わせたらバッチリでした。

【『かぼちゃを塩で煮る』再現レシピ②】砂肝のくるみあえ

砂肝のくるみあえ
<材料>
・砂肝(蝶蝶切り)
・味噌
▼(A)
・くるみ(みじん切り)
・ネギ(みじん切り)
・ニンニク(みじん切り)
・ショウガ(みじん切り)
・ごま

<作り方> 
① 味噌に(A)の材料を混ぜ、アルミホイルやクッキングシートに広げて弱火で炙る。
※作中では「しゃもじにぬって弱火で炙る」とありますが、木のしゃもじがなかったためクッキングシートで代用。
クッキングシートに広げて弱火で炙る
この味噌だけでいいおつまみになります! 

② 沸騰した湯で砂肝を茹で、軽く水気を切って①の味噌とあえる。

◾食べてみました
硬めのペースト状になった味噌と砂肝が馴染んでくれるのか心配でしたが、無理やり指でこすりつけるようにしてなんとか出来ました。正解がわからないものを作るのも楽しいな〜。

砂肝とくるみが異なる食感でそれぞれ主張し、その間に香ばしい味噌がふわり。なんともオツな肴であります。ちびちび派にたまらないやつですね。コタツに入って燗酒をくいっと干すシーンが似合う、そんな逸品でした。

しかしこの不思議な組み合わせ、どうやって思い付かれたんでしょうね?

【『かぼちゃを塩で煮る』再現レシピ③】砂肝の酢醤油

砂肝の酢醤油
<材料>
・砂肝(白いスジの部分をとり、薄切りに)
▼(A)
・ネギ(みじん切り)
・ショウガ(みじん切り)
・酢
・レモン汁
・醤油
・ごま油

<作り方>
① 沸騰した湯で砂肝を茹でる。
② 砂肝をボウルに入れ、(A)の薬味、調味料とあえる。

◾食べてみました
中華風と和風がミックスされた、酸味が快い一品です。薄切りにしてもコリコリッとした砂肝の食感はしっかりと残りますね。

出来立てのフレッシュな感じも良かったのですが、半日ほど置いて味がなじんだものもよかったです。試される方はぜひ多めに。

焼酎のオン・ザ・ロックやソーダ割り、ハイボールのお供にいかがでしょうか。

【おまけ】

砂肝の前菜三種はそれぞれに個性があってどれもおいしくいただきました。

そこで調子に乗って、作中からさらに2品を再現しちゃいましたよ。

まずはタイトルにもなった「かぼちゃを塩で煮る」。

牧野先生同様、かぼちゃにさほど興味をもたずに生きてきた私ですが、この「塩だけで煮る」は目から鱗の調理法でした。

えっ、ほんとに塩で煮るだけでこんな深い味になるんですか? とびっくり。

調理も味付けもごくごくシンプルなのですが、最後にちょっとだけコツがあるのです。 気になる方はぜひ本作をお読みくださいね。
塩だけで煮たかぼちゃ
実家の家族にも大好評でした! かぼちゃが苦手な父が大絶賛してくれて嬉しかった。

そしてもう一品は「アメリカの弁当箱」。

名前だけでそそられちゃいますよね?
我が家ではしばしば、プロセスチーズを使った手軽な前菜で酒を飲みはじめる。そのひとつが「アメリカの弁当箱」と呼ぶものである。ただ皿にプロセスチーズとハムとりんごとパンを切って並べただけだが、四つの組み合わせは実にすぐれていると思う。もうずいぶん昔、学生時代にアメリカから帰国した友人に、向こうの学校では弁当にこの四つをハンカチで包んで持っていくのだと聞き、スケッチの折などに真似て持っていった。なかなかおいしいので酒の肴にもして、いつしか「アメリカの弁当箱」と呼ぶようになった。皿からつまんで一口ずつ順番にかじっていくと、口のなかで混ざり合い、絶妙なハーモニーが生まれる。

牧野伊三夫 /幻冬舎文庫『かぼちゃを塩で煮る』[プロセスチーズとハムとリンゴとパン アメリカの弁当箱]より
家にありがちな食材ばかりなのに、こう盛り合わせるだけでちょっとしたピクニックのような、ホームパーティのような趣になるのがなんともゴキゲンです。
プロセスチーズとハムとリンゴとパン
チーズとリンゴを重ねてつまんだり、順番にパンに重ねてミニオープンサンドにしたりと自由自在に楽しめるひと皿。友人たちの集まりに出して、それぞれの食べ方を見てみるのもよさそうです。個性が出るだろうなぁ。

そして今度こそラストの一品。

「蝶蝶切り」でたっぷりと出た切り落とし部分を、ショウガと共に甘辛く煮付けたものです。端っこもうまいうまい。
砂肝の切り落としをショウガと共に甘辛く煮付けたもの
今回の再現を経て、砂肝とかなり親しめた気がします。ありがたやありがたや。

砂肝の次に真似してみたいのが、牧野先生の七輪ライフ。あかあかと炭を熾し、食べ物を炙り、酒を温めるという動作が日常にある暮らし。憧れます。

その気持ちを加速させたのが、稲垣えみ子さんによる文庫版の解説です。

実際に牧野家で七輪のおもてなしを受けた日の描写がたまらなくて…。

今冬は、賃貸マンションで使える頃合いな七輪を真剣に探してみようと思います。

【最後に】

今回のイラストは図々しくも思い切って牧野先生の鉛筆画を真似させていただきました。…というのも申し訳ないほど完成度は遥かはるか及ばないものですが、どうしてもやってみたかったのです。た、楽しいっ、濃い鉛筆で描くの、楽しい〜〜〜!

今後、沖縄や京都の酒場でこっそり鉛筆を動かしている中年女性がいたら、それは私かもしれません。へへっ。

※記事の情報は2022年12月6日時点のものです。
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