ジャパニーズウイスキー「KANOSUKE」本格始動

「メローコヅル」や「さつま小鶴」を造る小正醸造(鹿児島県)がウイスキー製造に乗り出してから7年。今春、念願のだった自社の焼酎蔵で製造したグレーンウイスキーを使った、独自性の高いブレンデッドウイスキーを発売しました。商品をはじめ小正醸造の新しい取り組みもご紹介します。

メインビジュアル:ジャパニーズウイスキー「KANOSUKE」本格始動

3基の蒸留釜から生れたシングルモルト

日本初の樽熟成焼酎「メローコヅル」で知られる小正醸造が、嘉之助蒸溜所(鹿児島県)を建設しウイスキーの製造に乗り出したのは2017年です。本格焼酎造りの知見と設備を生かして独自のウイスキーを造り、世界で知られる存在になることを狙ったチャレンジでした。
近代的ですっきりした外観の嘉之助蒸溜所エントランス
近代的ですっきりした外観の嘉之助蒸溜所エントランス

通常のモルトウイスキー(原料にモルトと呼ばれる発芽大麦だけを使ったウイスキー)の蒸留所では、初留釜と再留釜が1基ずつで一対となっています。サントリーやニッカのような大規模な蒸留所では形の異なる蒸留器をいくつか用意して、バラエティに富んだモルトウイスキーを造りますが、クラフトウイスキー蒸留所では普通は一対しかありません。ところが嘉之助蒸溜所では蒸留器が3基(形状の異なる再留釜が2基)という珍しい組み合わせになっています。
3つのポットスチルが並ぶ嘉之助蒸溜所
3つのポットスチルが並ぶ嘉之助蒸溜所。このスタイルはアイルランドでよく見られる

さらに蒸留器のネックの形状や上部アームの長さや角度を変えており、香味の異なる多彩な蒸留液が得られます。それをさまざまな樽で熟成することで原酒の香味の幅は大きく広がります。これは小正醸造が焼酎造りで7基の異なる蒸留器を駆使して、多彩な焼酎を造ってきた経験と技術に裏打ちされたものです。
蒸留器はどれもネックやアームの長さや角度が異なり、多彩な味わいを生む
蒸留器はどれもネックやアームの長さや角度が異なり、多彩な味わいを生む

このモルト原酒を使ってリリースされたのが「SINGLE MALT KANOSUKE(シングルモルト嘉之助)」です。温暖な鹿児島ではエンゼルシェア(樽での熟成中に蒸発する分)が年間6~8%と寒冷地より多いのですが、一方で熟成速度は速いと考えられています。また、熟成に使う樽は一部に「メローコヅル」の熟成に使った樽をリチャー(使用済みの樽の内側を再度焼き焦がす作業)したものもあるそうです。

焼酎蔵でもウイスキー製造を開始

近年、各地でクラフトウイスキー蒸留所が続々と誕生していますが、嘉之助蒸溜所は独自の試みを進めました。本格焼酎を造っている小正醸造の日置蒸留蔵でも2020年からウイスキーの製造を始めたのです。ここでは焼酎の単式減圧蒸留器(蒸留器の中の気圧を下げ低温で気化させる単式蒸留器)でグレーンウイスキー(モルトと未発芽大麦を原料にしたウイスキー)を造ります。
さつま小鶴の看板
小正醸造の主銘柄は「さつま小鶴」。この中の日置蒸留蔵でウイスキーを造る

一般にグレーンウイスキーは連続式蒸留器を使用し、香味成分が控え目になるのでサイレントウイスキーと呼ばれます。モルトウイスキーにこれをブレンドしたブレンデッドウイスキーでは、モルトウイスキーの特性を引き立てる役割を果たします。

けれども単式減圧蒸留器を使う日置蒸留蔵のグレーンウイスキーは、香味成分を多く取り込みきれいで華やかに香ります。 こうして今春、新たに誕生したのがシングルグレーンウイスキー「KANOSUKE HIOKI POT STILL(嘉之助日置ポットスチル)」です。
「SINGLE MALT KANOSUKE(シングルモルト嘉之助)」と「KANOSUKE HIOKI POT STILL(嘉之助日置ポットステチル)」
左から「SINGLE MALT KANOSUKE」と「KANOSUKE HIOKI POT STILL」

日置蒸留蔵には焼酎製造で使ってきた蒸留器が、木製のものも含み7種類あります。おそらくこれほど多様な蒸留器でグレーンウイスキーを造ることができる蒸留所は他にないでしょう。また、スコットランドをはじめ海外の蒸留所には減圧蒸留器を持つところはほとんどありません。減圧蒸留器とそれを使った蒸留酒造りは、本格焼酎造りで発展してきました。これがウイスキー造りに応用されるようになると、将来ジャパニーズウイスキーの特徴のひとつになるかもしれません。
日置蒸留蔵の7つの蒸留器のひとつ
日置蒸留蔵の7つの蒸留器のひとつ。横型の蒸留器は九州では珍しい
嘉之助蒸溜所の熟成庫
嘉之助蒸溜所の熟成庫。日置蒸留蔵で造られた原酒もここで貯蔵する

加えて重要なことは、自社でグレーンウイスキーとモルトウイスキーの両方の製造体制が整い、すべて自社製のブレンデッドウイスキーを造れるようになったことでしょう。それが本年4月に発売となった「KANOSUKE DOUBLE DISTILLERY(嘉之助ダブルディスティラリー)」です。
「KANOSUKE DOUBLE DISTILLERY(嘉之助ダブルディスティラリー)」
すべてのウイスキー原酒を自社で製造したブレンデッドウイスキー「KANOSUKE DOUBLE DISTILLERY」
嘉之助蒸溜所の小正芳嗣社長(左)と小正醸造の小正倫久社長(右)
嘉之助蒸溜所の小正芳嗣社長(左)と小正醸造の小正倫久社長(右)。兄弟2人で連携してウイスキーを造る

ご紹介した3つの商品、「SINGLE MALT KANOSUKE(48%)」「KANOSUKE HIOKI POT STILL(51%)」「KANOSUKE DOUBLE DISTILLERY(53%)」はすべてアルコール度数が異なります。滓(かす)を取り除いて飲みやすくしたり、旨味を味わうためアルコール度数を高めて滓が出ないようにしたりするなど、それぞれに狙いをもって蒸留方法を設定されているようです。

目指すは「MELLOW LAND,MELLOW WHISKY」

嘉之助蒸溜所は日本三大砂丘(他は鳥取砂丘・遠州灘砂丘)に数えられる吹上浜を後背地に持つ9000m2の敷地に建っています。蒸留所の見学ツアーも準備されており、一週間前に予約すればどなたでも参加できます(開催日時は要確認)。

蒸留所の見学の後は2階にある「THE MELLOW BAR」で試飲がおすすめです(要予約)。11mの一枚板のカウンターをからは東シナ海を臨みながらテイスティングができます。息を飲むような美しい景色は、特に夕日が格別なのだとか。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、商品ラベルにはこのカウンター越しの東シナ海の夕日がデザインされています。

1階のミュージアムショップでは蒸留所ウイスキーをはじめ、さまざまなオリジナルグッズが取り揃えられています。
MELLOWバーの目の前に東シナ海が広がる
MELLOWバーの目の前に東シナ海が広がる
嘉之助蒸溜所から直接浜に出られる。ウイスキーファンにはアイラ島を連想する方も多そうだ
嘉之助蒸溜所から直接浜に出られる。ウイスキーファンにはアイラ島を連想する方も多そうだ

熟成庫の増設も進められており、さらに質量ともに充実したウイスキーの登場が期待される嘉之助蒸溜所。目指すのは「MELLOW LAND,MELLOW WHISKY」。メロー(MELLOW)とは豊かで美しく、ゆっくりくつろぐという意味です。

ゆっくり沈む夕日を眺めながら、くつろいで楽しむ味わい深いウイスキーというイメージでしょうか。ぜひ、一度お試しください。

嘉之助蒸溜所公式HP

※記事の情報は2024年5月16日時点のものです。

   

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