【ビールの原料を知る①】麦芽編~ビールの色は麦芽で決まる~

知ればもっとビールが美味しくなるビールの基礎知識。今回は代表的なビールの原料「麦芽」について解説します。

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎
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麦芽をお湯で煮てつくった麦汁(ばくじゅう)を、ホップを加えつつ煮沸し、さらにそれを冷やしたものに酵母を加えて発酵させる――。ビールのつくり方をものすごく簡単に説明すればこうなる。そしてすべては麦芽から始まっていて、その後、水、ホップという原料も使われていることが分かる。だから今回は、ビールづくりの第一歩である麦芽について説明しよう。

ビールの原料=麦の最古の記録は?

麦芽の原料はもちろん、麦だ。ただ面白いことに、日本語で「麦」と言えば大麦や小麦などの総称のことだが、例えば英語には総称としての麦に相当する言葉はなく、barley(大麦)、wheat(小麦)、rye(ライ麦)など、個別の種類の名前があるだけだ。そして実際、ビールの原料となる麦の基本は大麦でありつつも、小麦やライ麦、オーツ麦、ソバなども使われることがある。

大麦は1万年ほど前に西アジアで栽培化されたと言われている。数千年前にはパンの原料の一つに使われ始めた。ビール醸造に麦が使われたことを示す最古の記録は、紀元前3000年ごろのメソポタミアのシュメール人たちがくさび形文字を刻んだ粘土板だ。

そこには、麦を発芽させて麦芽にしてから粉にし、それを使って焼いたパンに水を加えて固形物を取り除き、残った液に野生酵母が付いて自然発酵してビールが出来上がる、という趣旨が書かれている。

ビールの原料としての酵母は?

ビールの原料に関する法令として有名なのが、1516年にバイエルン公国のヴィルヘルム4世が定めた「ビール純粋令」で、そこでは「大麦、ホップ、水のみを原料とすべし」とされた。ちなみに酵母は、後に存在が確認されてから、1551年に「使うものの一つ」として純粋令に加えられることになる。

「原料には酵母も入ると聞いたことがある」という人もいるかもしれない。しかし酵母は、一部のスタイル(醸造様式)を除いて、製品として詰められる前に何らかの方法で除去されることが多い。加工されて最終的な製品に含まれる「原料」というより、生物ではあるが発酵という、酒を酒たらしめる極めて重要な働きをする、「装置」の方が近い。

ヴァイツェンなど、酵母を取り除かずに味わいの一つとして生かしているスタイルでは酵母そのものを摂取するわけだから、酵母を原料と言っても良さそうだ。しかし現在、世界でつくられているビールの大半では最終的に酵母を除去するので、基本としては原料としない方がいいだろう。

ビールの原料・大麦は二条と六条に大別される

麦畑
収穫を控えた二条大麦(提供:ろまんちっく村)
現在、大麦は世界各地で栽培されていて、ビールだけでなくウイスキーや焼酎、麦飯、麦茶、味噌、飼料に使われている、身近な穀物だ。日本では、ビール用の大麦は北海道、栃木県、埼玉県、岡山県、佐賀県などで生産されている。

一方、輸入は麦芽として運ばれてくるのが一般的で、その量は国内生産量の10倍以上。輸入元の内訳は多い順にEU(欧州連合)、カナダ、オーストラリアで、この3地域で輸入量のほとんどを占めている。

大麦は二条大麦と六条大麦に大別することができる。後者は麦茶の商品名として聞いたことがある人がいるかもしれない。二条か六条かの違いは、その名の通り、穀粒が2列に並ぶか6列に並んで実るかの違いだ。六条大麦の実の列のうち4列が退化して2列だけ残ったのが二条大麦だ。 そしてビール醸造でよく使われるのはこの二条の方だ。

二条大麦と比べると六条大麦の実は小さく、デンプンは少なく、タンパク質と雑味は多い。発酵に使う糖の元となるデンプンが豊富な二条大麦がビール醸造で用いられるのは自然な選択だ。しかし六条大麦が全く使われないかというとそうではなく、米国などでボディーが軽くて適度な雑味を加えたいビールにはよく使われている。

麦を麦芽にするには?

二条大麦にせよ六条大麦にせよ、はたまた小麦にせよ、収穫したままの麦粒の状態では醸造に使えない。麦芽にする必要がある。麦粒を麦芽にすることは「製麦」と言い、麦粒を水に浸して発芽させてつくる。

目的は、麦粒に含まれているデンプンとタンパク質を、それぞれ糖とアミノ酸に分解させる酵素を生成させることだ。糖は後の工程で発酵、つまり酵母がアルコールと二酸化炭素に分解するために使われ、アミノ酸は酵母の栄養源となる。

ちなみに、麦粒から白くて長いひげのようなものが出ているのを見たことがある人がいるかもしれないが、あれは芽ではなく根で、醸造に使われる前に取り除かれる。

なお、単に麦芽(malt)と言う場合は、ビールの場合は大麦からつくられた麦芽を指すことが多いが、厳密には何の麦からつくられたものかは限定しておらず、使い分けが必要な場合は大麦麦芽(barley malt)や小麦麦芽(wheat malt)といった具合に「何の麦芽か」を明確にして表現する。

一方、製麦しない麦を使うこともある。例えばベルギー発祥のベルジャンホワイトには生(製麦しない)の小麦を入れ、デンプンとタンパク質が分解されていないことによる独特の舌触りなどが特徴の一部になっている。

現在、少なくとも日本においては製麦の設備を持っているビール醸造所はごくわずか。ビール醸造所は、海外または国内の製麦を専門とする会社がつくった麦芽を仕入れることがほとんどだ。

ビールの色は基本的に麦芽の焙煎で決まる

ビールの色の違い
麦芽はその後、乾燥させ、さらに必要に応じて焙煎する。この焙煎を強くかければ、麦芽の色が茶色や黒色となり、出来上がりのビールの色や、色にふさわしい焦げ香ばしさに反映される。

さらに、湿ったままの麦粒を焙煎して糖を結晶化させる「カラメル麦芽」や、いぶしてつくる「燻製麦芽」という種類もある。こうした焙煎具合によって麦芽の種類が分けられ、特に濃色のビールでは複数の麦芽が使われる。 

自らが「ろ過材」にもなる麦芽

出来上がった麦芽は、まず粉砕機にかけて細かくし、温水で煮る。すると、製麦して生成させた酵素が働き、タンパク質をアミノ酸に、デンプンを糖に分解してくれる。こうしてできたどろどろの「おかゆ」状のものは「マッシュ」、そこから固形物を取り除いたものは「麦汁」と呼ばれる。

麦汁を取り出す方法はろ過で、ここでも麦芽は重要な役割を果たす。中身が溶けて残った麦芽の殻、つまり麦芽かすは、マッシュをつくる容器の底に沈んでそれ自体がろ過材となって、ろ過工程を補助してくれる。ドリップ式のコーヒーをいれるときを想像してみよう。

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まとめれば、麦芽は大麦を主とする麦からつくられる加工品であり、ビールづくりの第一歩となる。特にクラフトビール人気となってからホップが注目されるようになってきたが、次にビールを飲むときは麦芽のことも思い出してもいいかもしれない。方法は実に簡単。飲もうとしているビールの色は、麦芽からもたらされているのだから。
 
【参考文献】
一般社団法人日本ビール文化研究会監修『日本ビール検定公式テキスト』2018年4月改訂版
Garrett Oliver編『THE OXFORD COMPANION TO BEER』
リチャード・テイラー、ジェームズ・ワット、マーティン・ディッキー著『クラフトビールフォアザピープル ブリュードッグ流あたらしいビールの教科書』(日本語版監修・翻訳 長谷川小二郎)
キリンビール大学「ビール純粋令と下面発酵」 
マイスターのドイツビール案内「小麦ビールと、小麦麦芽ビール」 
同「薄めたビール、米語で、セッションビールと言うそうな」 


※記事の情報は2019年8月17日時点のものです。
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