【ビールの原料を知る②】ホップ編~使うことがほとんどだが、使わないつくり方もある~

知ればもっとビールが美味しくなるビールの基礎知識。今回は「ホップ」について解説します。

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎
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【ビールの原料を知る①】麦芽編~ビールの色は麦芽で決まる~でも触れたように、ビールのつくり方は「麦芽をお湯で煮てつくった麦汁を、ホップを加えつつ煮沸し、さらにそれを冷やしたものに酵母を加えて発酵させる」だ。酵母が食べて二酸化炭素とアルコールに変換する糖分は、麦芽からもたらされる。だから、ビールを「大麦などの穀物でつくった醸造酒」と定義するならば、原料としては麦芽と水を用いるだけで、ビールをつくることはできる。  

実際、世の中では後述する「グルート」など、ホップを使わないでつくるビールは存在するが、流通量は極めて限られている。製造量で言えば100%に限りなく近い量のビールに、ホップは使われている。今回はこの「基本的には使われる」ホップの解説をしよう。

ホップがよくつくられる場所「ホップベルト」とは?

ホップ畑
ホップはアサ科カラハナソウ属のつる性の多年生植物で、10~20年生きる。15mくらいまで伸びる能力を持っているが、ビールに使うために栽培する場合は4~9mにしていることが多い。つるは時計回りに巻かれていき、人間の身長をはるかに超えて、軸となる何かに巻きついて上へ上へと伸びていく。

冷涼な気候を好み、高温や多湿は苦手だ。だから世界的に栽培されている地域は35~55度(ホップベルトとも言う)の中緯度に集中しており、日本ではほとんどすべてが東北以北で生産されている。例えば北海道では5月初めに芽が出て、夏に収穫される。

なお、国内のビール製造に用いられるホップの多くは国内生産では賄えず、ドイツ、米国、チェコなどからの輸入に頼っている。
毬花(きゅうか)
毬花(きゅうか)
ペレット
ペレット(提供:ON TAP 江戸東京ビール)
雌株と雄株が存在する雌雄異株(雌花と雄花が別々の株に咲く)で、ビールづくりに使われるのは雌株の「毬花(きゅうか)」だ。毬花は「球花」「毬果」という表記もあり、収穫して乾燥させた後、そのままの姿かペレット(毬花を乾燥後に粉砕して固めたもの)状に圧縮された状態で使われる。成分を抽出したペースト状の「ホップエキス」もある。

毬花は品種にもよるが、概ね2~3.5cmの大きさ。松かさのようなずんぐりとして「かわいい」と言われるようなものもあれば、ムカデのように多くの節が長く連なっているように見えるものもある。ビールを十分に飲める年齢になっていて、虫と戯れていた子供のころが遠くになった大人のなかには、気持ち悪くなる人もいるかもしれない。しかしこの虫を忌避する感覚は大事である。ホップ栽培において、害虫駆除は極めて重要な問題だからだ。

この毬花の中で最も重要な物質がルプリンで、1枚1枚の苞(花の根元に付く小形の葉)の付け根にある黄色い粒のことだ。このルプリンに含まれる精油や樹脂が、ビールに香りや苦味をもたらしてくれる。

ホップはビールに多くの利点をもたらす

ビールづくりにホップを用いる利点は以下のように多くある。

●ホップは殺菌作用を持っているので、製造中や出荷後に雑菌が繁殖するのを抑えてくれる。

●泡立ちと泡持ちが向上する。ビールの泡は二酸化炭素を麦芽由来のタンパク質とホップ由来の樹脂がコーティングしてできているので、割れづらい。

●ホップ由来のポリフェノールが麦芽由来のタンパク質と結合して沈殿し、ビールが清澄になり、輝き、照りが出てくる。

●さまざまな果物、香辛料、花、草のような香りを付けられる。

●爽やかな苦味が付き、麦芽由来の甘味とのバランスを取ることができる。  


いずれも美味しさに貢献する素晴らしい利点だ。

ホップは最初から使われていたわけではない

古代エジプトの壁画
古代エジプトやメソポタミアでつくられていたビールですが…
このようにビールの美味しさに貢献しているホップだが、ビールの歴史の最初から用いられていたわけではない。

古代のビールづくりはメソポタミアやエジプトでされていて、エジプトではホップはハーブとして知られていたが、ビールに使われていたという証拠はない。

それからだいぶ後になって、ビールづくりの中心はヨーロッパに移ったが、ビールに配合するハーブ類は「グルート」と呼ばれていた。グルートにはヤチヤナギ、アニス、フェンネル、コリアンダー、セイヨウノコギリソウなどが含まれるとされるが、文献がほとんど残っていないため、配合などはよく分かっていない。

ホップ園ができたのはドイツで8世紀から、さらにビールにホップが使われるようになったのは12世紀からであり、ホップがグルートに代わって主流になったのは15世紀からと考えられている。

5000年と言われるビールづくりの歴史の中で見ると、ホップの使用が主流となったのはどちらかと言えば最近なのである。

ホップの分類とそれに応じたビールへの入れ方

美味しさという観点からすれば、ホップの大きな役割は苦味付けと香り付けの二つになる。だが、すべてのホップの品種が両方の役割を十分に担っているわけではなく、以下のように分類できる。

●ビターホップ:苦味成分の含有量が多く、苦味付けに使われる。

●アロマホップ:香りが強く、香り付けに使われる。

●ファインアロマホップ:香りはアロマやビターに比べて穏やかで上品。ビールになってからの苦味も穏やか。

●フレーバーホップ:はっきりした香りも苦み成分も多く含む。「デュアルパーパス(二つの目的に使える)ホップ」という言い方もある。


では、ホップは実際にどうやって、ビールに入れられるのだろうか。麦芽をお湯で煮てつくった麦汁は、発酵させる前にさまざまな理由のために煮沸する。この煮沸の間にホップを投入する。苦味を付けるためのホップは、煮沸時間の初期に入れる。逆に香り付けのホップは、煮沸時間の終わりごろに入れる。ホップ中の油分(精油)が香りの素であり、煮沸によって揮発してしまうためである。さらに、発酵以降の工程で漬け込んで鮮烈な香りを付ける「ドライホッピング」という手法もある。   
さまざまなビール

ホップの品種は実にさまざまあって、いろいろ飲み進めていくうちに自分の好みが分かっていけばいい。それでも、「これぞホップの香り」と分かりやすく香りが出ていて、かつ入手しやすい銘柄を二つ挙げる。

一つは、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」で、あの青っぽい爽やかな香りはザーツというチェコで生まれたホップ品種ならではの特徴だ。もう一つはヤッホーブルーイング「よなよなエール」で、カスケードという品種由来のグレープフルーツやレモンのような香りが感じられる。そしていずれの銘柄とも、はっきりとした苦味が感じられるので、ホップの特徴を味わうのに向いている。こうして鼻と舌を意識した飲み方をしてみると、多様なビールの魅力を感じ取りやすくなる。

【参考文献】
一般社団法人日本ビール文化研究会監修『日本ビール検定公式テキスト』2018年4月改訂版
Garrett Oliver編『THE OXFORD COMPANION TO BEER』
リチャード・テイラー、ジェームズ・ワット、マーティン・ディッキー著『クラフトビールフォアザピープル ブリュードッグ流あたらしいビールの教科書』(日本語版監修・翻訳 長谷川小二郎)


※記事の情報は2020年2月5日時点のものです。

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