歩いて楽しむ酒⑫ 酒田の銘酒「初孫」

日本海を北前船が行き交い、蝦夷・東北・北陸・山陰の物産が盛んに京都に運ばれたころ、酒田は米や紅花など山形の内陸部、最上川流域の物産の集積地となりました。最上川が県南の米沢あたりから北上して県内の主要都市を結び、日本海に達する河港が酒田でした。大いににぎわい、京の香りを運んでくる進取の町として発展します。そこで生まれたのが銘酒「初孫」です。

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往時を伝える山居倉庫

酒田の中心部から海のほうに少し進むと山居倉庫(さんきょそうこ)があります。最上川を船で運ばれた米は、一時、この倉庫に納まりました。何棟も並ぶ大きな倉庫が米でいっぱいになったと言います。今は一部が地元の物産を揃えた商業施設となっており、商都酒田を思わせる代表的な観光スポットになっています。
山居倉庫
大欅の並木が美しい山居倉庫
山居倉庫と運河
山居倉庫は運河に面した落ち着いた佇まい
「初孫」を醸す東北銘醸は山居倉庫から南に向かってしばらく進んだ工業団地の一画にありました。元々は市内の中心部にありましたが、四半世紀前に最新鋭の酒造装置に一新し、広い敷地で近隣に迷惑をかけることなく操業できるこの場所に移転してきたのです。酒づくりに欠かせない良質な水も豊富なこの地区は、冬の間蔵人となる杜氏集団が多く暮らしており、「初孫」も彼らが仕込んでいたそうです。
 

「初孫」はすべて生酛づくり

初孫では「酒造資料館 蔵探訪館」が来訪者を迎えてくれます。初孫の歴史や酒づくりの基礎知識が紹介された展示ゾーンと、試飲ができるショップの2つパートで構成されています。

展示ゾーンでは華やかな受賞歴に目を奪われますが、ここでしっかり見ておきたいのは「生酛づくり」です。これは江戸期に確立した発酵スターターづくりの技法で、日本固有のものです。安全に酒をつくるには発酵の最初の段階で、乳酸と元気な酵母菌を大量に投入する必要があります。そうしないと酵母よりも先に雑菌が繁殖し、おかしな味になったり、最悪の場合は腐ってしまったりするからです。生酛づくりは水と米麹と蒸米を使い、擂り潰したり温度をコントロールしたりするだけで乳酸発酵に導き、酵母が繁殖しやすい条件を整えて大量の酵母を培養します。一般には乳酸を加えて二週間ほどで酵母の増殖を終える手法を用いるのですが、近年は約一か月の時間を要し手間もかかる生酛づくりをあえて採用し、個性的な味わいにチャレンジする酒蔵が増えています。そして「初孫」は四半世紀前の工場の移転を機に、すべての酒を生酛づくりに切り替えました。全量生酛づくりの蔵は全国でも数えるほどしかありません。
IWC2018の表彰状
蔵探訪館のエントランスにはIWC2018の表彰状
「Sake Brewer of the year」のたて
IWC2018ではもっともすぐれた酒蔵に贈られる「Sake Brewer of the year」を受賞
将棋の駒の記念トロフィー
天童市からは将棋の駒を象った本醸造部門の最高賞トロフィー受賞の記念品が贈れた

 

常時試飲できる酒はおよそ10点

展示コーナーを抜けたところが試飲コーナーです。テーブルに常時10点ほどの試飲酒が用意されています。一般的な商品から高価な純米大吟醸まで、「初孫」の基幹商品をひと通り試せるのはうれしいことです。どれも生酛づくりの酒ですが、飲み比べるとそのバラエティの豊富さに驚くことでしょう。共通するのはきめ細かく滑らかな舌触りです。
試飲コーナー
試飲酒ひとつひとつが丁寧に説明されている
試飲コーナー
試飲テーブルに適温に冷やされ酒が並ぶ。自由に試飲できる

 

手作業と機械化をバランスよく

今回は特別に蔵の中を見せていただきました。4月上旬だったのでほとんどの工程が今期の作業を終え片づけに入っていました。拝見して感じるのは手作業で技術を伝える部分と、機械化して安定して量をこなす部分とを上手にバランスさせていることです。 例えば麹づくりは自動製麹機と蓋麹を使った手作業を並行しておこなっています。すでに自動製麹機は高品質な工事を均質にたくさんつくることができます。こうした技術開発があったからこそ、手ごろな価格でおいしい酒を提供できるようになりました。けれどもすべて機械に任せてしまうと、麹づくりの技術が伝承されません。あえて手作業の部分を残しているのはそれも理由のひとつです。
精米機と蒸米をほぐす機械
大きな浸漬タンクが10個並んでいた。奥に見えるのは蒸した米を冷ましてほぐす機械
蓋麹の室
蓋麹を使った麹づくりを残す
発酵タンク
温度コントロールのできる発酵タンクが並ぶさまは圧巻

 

特急いなほでカップ酒

取材を終えての帰り道、酒田駅の売店には庄内の酒が並んでいました。選んだのはもちろん「初孫」です。なんとなく大福も買ってしまって、やわらぎ水代わりの緑茶を追加しました。新潟までの2時間、車窓を眺めながらちびちび一人飲みです。あっ、もちろんカップ酒は1個では足りません。車内販売はないと聞いていたので、少し多めにゲット。何個買ったかはご想像にお任せします。
カップ酒、大福、お茶
「初孫」純米酒カップは安定の味わい。毎日の晩酌にぴったり

※記事の情報は、2019年6月6日時点のものです。
 

  

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