西村まどかの目指せ!唎酒師④ 日本酒に詳しいだけじゃダメなんです!

こんにちは、日本酒が大好きな西村まどかです。いま、日本酒のソムリエ「唎酒師」の合格を目指して猛勉強中です。ときどき進み具合をアップするので応援してください!

ライター:西村まどか西村まどか
メインビジュアル:西村まどかの目指せ!唎酒師④ 日本酒に詳しいだけじゃダメなんです!

日本酒を通じて文化を学ぶ唎酒師

今回は唎酒師の公式セミナー「1日通学コース」の参加レポートです。朝の9時から18時まで丸1日、みっちりお勉強してきました。朝から座学なんてかなり久しぶりで、学生時代を思い出しました。でも当時と違って私は25歳、このセミナーではお酒のテイスティングがありましたが、成人しているのでもちろん大丈夫。学生時代ではあり得ない光景です。大人になるって楽しいですね!(笑)
唎酒師の試験突破を目指す、一日の猛特訓コースです
唎酒師の試験突破を目指す、一日の猛特訓コースです
学生時代以来の久しぶりの座学。密にならないようしっかり距離をとって着席
学生時代以来の久しぶりの座学。密にならないようしっかり距離をとって着席
これから歳を重ねて、いろいろ学び、経験して、もっともっと自分を豊かにしていきたいと思っています。唎酒師の資格取得は、そのための第一歩になってくれそう。これまで酒文化研究所の山田聡昭先生から、お酒は何からつくるのか、日本酒の特徴は何か、どんな種類があるのか、料理とどのように組み合わせるのかなどを教えてもらいました。

最初に思っていたよりも学びの幅が広く、深いことに驚いています。そして、大好きな日本酒から、化学、生物、農業、地理、栄養、歴史、芸能・芸術、経済、法律など本当に多くを学べることがわかってきました。唎酒師へのチャレンジは人生に豊かにしてくれる、とても有意義な機会になると実感しています。
「久斯之神(くすのかみ)」を祀る出雲佐香神社を分祀した神社がありました
唎酒師を運営するFBOアカデミー東京校には、酒の神様の祖とされる出雲佐香神社「久斯之神(くすのかみ)」を祀る(豪勢な?大きな?)神棚がありました。もちろんしっかりお参りしました

まどかの学び① サービスや売り方も学ぶ唎酒師

このセミナーのカリキュラムはこんな感じで超ハードです。いいですか、よく見てください。「お昼休み」も「3時のおやつ休憩」もありません。それは「自主トレーニング」の時間で、ランチだったりお菓子だったりはご自由にというスパルタ教育なのでした。

1時間目(90分):真のプロフェッショナルが行うべき「もてなし」
2時間目(125分):日本酒の基礎知識(講義) 自主トレーニング(70分)(香材、水溶液など教材で味覚の把握、比較)&休憩
3時間目(115分):日本酒の基礎知識(テイスティング)
自主トレーニング(15分):サンプルの温度違い比較&休憩
4時間目(65分):日本酒サービスの基礎知識
5時間目(40分):日本酒のセールスプロモーション企画

唎酒師はおいしく日本酒を楽しんでもらうために、おもてなしのプロとしての知識や技術が求められるのです。このセミナーを受講するまで、日本酒に詳しくなれば唎酒師になれると思っていましたが、それではまったく足りません。カリキュラムも3分の1はサービスを学ぶ時間なのです。
唎酒師の基本テキストは「日本酒の基」と「もてなしの基」
唎酒師の基本テキストは「日本酒の基」と「もてなしの基」
酒の知識やサービスの技術を競う唎酒師の国際コンテスト
酒の知識やサービスの技術を競う唎酒師の国際コンテスト。壇上で実際にお客さんとやり取りし、サービスの適切さや優雅な身のこなしを競う(写真提供:FBO)
認定証と認定バッヂ
試験に合格すると認定証と認定バッヂがもらえる
こんなふうに書くと、唎酒師になるのはとても難しいように見えるかもしれませんね。でも、授業を受けてみると、ひとつひとつ徐々に積み上げていくので、まったく怖がる必要はありません。むしろ私は勉強が進むにつれて詳しくなっていくことを実感できて、1日があっという間に過ぎていきました。終わった後は心地よい疲労感で、日本酒がめちゃくちゃ飲みたくなりました。

まどかの学び② 生酛と山廃がわかりました!

今までに三回この連載を書いてきて、日本酒の基礎は少しできてきたかなと思います。酒文化研究所の山田先生からは、勉強したことを書いたり人に説明したりすると、知識が定着するからどんどんアウトプットしなさいと言われています。ツイッターやインスタグラムでコメントするだけでも、本当にそうだと実感しています。

さて、この日のセミナーでようやくわかったことのひとつは「生酛」と「山廃」です。商品のラベルでもよく見かけるのですけれど、説明を聞いても何が違うのかよくわからなくて難問でした。たぶんこれまでに酵母や麹の働きを一から勉強してきたので、セミナーを聞いてわかったのだと思います。

日本酒では発酵をスムーズに進めるために、元気な酵母(お米をお酒にしてくれる微生物たち)がたくさん必要です。それで最初に酵母をどんどん繁殖させる「酒母」をつくるのですが、その時に乳酸菌が活躍します。ヨーグルトに入っている、腸内環境を整えるとか、免疫力を高めるとかいう、あれです。

米麹がつくる糖分はごちそうです。いろいろな微生物が飛び込んで来て、どんどん腐らせようとします。ところがこうした菌のほとんどは乳酸が苦手で、乳酸菌が元気だと繁殖できません。一方、酒づくりの主役で、アルコールや吟醸香をつくり出す酵母は乳酸があってもぜんぜん平気なのです。そう、乳酸菌が頑張ってくれると、酵母は悪い菌に邪魔されることなく元気に育つのです。

だから、酒母づくりのポイントは乳酸菌と酵母が活躍する環境をつくってあげられるかどうかなのです。昔の酒づくり職人たちは経験から、蒸した米と米麹を擂り潰すと(乳酸菌が活動して乳酸を出し)酵母が元気になることを探り出し、「生酛」という酒母のつくり方にたどり着きます。

ですが、桶に山のように盛り上げられた米と米麹を櫂棒で擂り潰す「山卸(やまおろし)」という作業は、重労働で、夜中にも作業しなければならず職人たちは大変でした。(ふぅ~、ようやく説明できた。みんなにわかるように書くことは最強の復習と実感しました)
生酛では蒸米と米麹を櫂棒で擂り潰す山卸という作業が欠かせない
生酛では蒸米と米麹を櫂棒で擂り潰す山卸という作業が欠かせない
その後、山卸をしなくとも米や米麹は溶けて乳酸菌が活発に活動することがわかってきて、山卸を廃止した生酛づくりは「山卸廃止酛」、それを略して「山廃(酛)」と呼ばれるようになりました。省力化したのですが、どちらも乳酸菌が自然に乳酸をつくるのを待つので仕上がるまでに約一か月かかります。現在の酒母づくりは速醸酛が主流です。あらかじめ用意した乳酸を添加する手法で、酒母をつくる時間は生酛や山廃酛の半分の2週間ほどだそうです。

「山廃」の廃が「廃止」の廃だなんてびっくりですよね。手間暇をかけた製法のようにラベルに書いてあるのに省力化って。でも、ただでさえ時間のかかる日本酒づくりで、生酛や山廃の酒は特に手間暇をかけていることは確かです。少々高いのは当たり前、しっかり味わって大切に飲みたいと思いました。

まどかの学び③ 日本酒は旨味がとってもすごい

ここまででようやく午前中の講義まで書けました。次は自主トレーニング(ランチタイムですけれど)の時間です。

テーブルにテイスティング用の試飲サンプルが5つ用意されていました。甘味、酸味、苦味、旨味、アルコールです。甘味、酸味、苦味、アルコールは皆さんもイメージできると思いますが、旨味単体の味サンプルは想像しにくいですよね。この正体はアミノ酸とグルタミン酸の水溶液です。わかりやすく言うと旨味調味料を水で溶いたものなのですが、これがとても参考になりました。

料理のコクは旨味、出汁がポイントです。日本酒は旨味が豊富で、だからいろいろな料理と合わせやすく、料理にも隠し味で使われるのだと思います。ちなみに日本酒には基本の五味(甘味・酸味・塩味・苦味・旨味)のうち塩味だけないそうです。そう聞いて、だからこそ塩辛いアテ達があんなに合うんだなぁと納得しました!
自主トレーニング用の試飲サンプル。写真は苦味・旨味・アルコール
自主トレーニング用の試飲サンプル。写真は苦味・旨味・アルコール

まどかの学び④ 料理と酒の相性は「みんな違ってみんないい」なのだ!

もうひとつおもしろかったのは、日本酒と羊羹の相性を試した時に受講生の回答がバラバラになったことです。セミナーでは料理との相性を4タイプの日本酒(薫酒、爽酒、醇酒、熟酒)と、まったく違う食材との組み合わせを比べました。食材ごとに先生が「どのお酒と合うと思いますか?」と質問します。甘辛く味付けした豚肉やリンゴなどは、受講生の答えはほぼ同じだったのですが、羊羹だけは見事にバラバラでビックリでした! 他の食材は合うと感じた理由も説明があり、なるほどと納得できたのですが、羊羹だけはうまくいきません。先生によると羊羹は毎回バラバラに意見が分かれるのだそうです。

香り高い薫酒(くんしゅ)は羊羹の甘さと寄り添ってくれます。フレッシュな爽酒(そうしゅ)は甘さをスッキリとさせます。滑らかな味わいの醇酒(じゅんしゅ)は甘味とコクのある同系のマリアージュ。熟成して濃厚な味わいの熟酒は羊羹と同じくらいどっしりとしている。何を重視するかで評価が変わるのです。まさに、みんな違ってみんないい。どれが正解とかではなくて、自分の好きを探すのが本当に楽しいなと思いました!

日本酒は辛口ですと出されたものが自分には甘く感じるなんていうこともよくあります。これから人におすすめする立場になったときには、そういうことも理解しておもてなししたいと思います。
薫酒、爽酒、醇酒、熟酒と4つのタイプの酒をテイスティングしました
薫酒、爽酒、醇酒、熟酒と4つのタイプの酒をテイスティングしました
4タイプをさまざまなフードと組み合わせて相性を体験
4タイプをさまざまなフードと組み合わせて相性を体験

まどかの学び⑤ 日本酒を体験したくなるおもてなし

この日の授業の最後の2コマは「日本酒を提供するプロ」としての学びの時間でした。なかでも響いたのは「大切なことは、日本酒に関心のない方に手を伸ばしてもらえるようにする工夫です」という先生の言葉でした。私は日本酒が大好きだから、もっともっと知りたいと思って学んでいますが、一般的には私や読者の方、日本酒愛好家の皆さまは"少数派"になのだという気づきです。

ビギナー層にも興味を持ってもらえる、"最初の一歩"を踏み出すきっかけをつくることが何よりも大切。そのとおりです。私の友達には、日本酒は味の違いがわからない、そもそも注文の仕方からわからない、という子がとっても多いのですから。

だから「日本酒の4タイプ(薫酒、爽酒、醇酒、熟酒)」の表はとてもいいと思います。日本酒の品揃えが豊富な居酒屋さんには、よく4タイプのチャートがありますよね。
日本酒のポジショニングマップの詳細版もあります
日本酒のポジショニングマップの詳細版もあります
せっかく唎酒師を目指すのですから、同世代の方やもっと若い方に、日本酒をよりわかりやすく、選びやすく提案をできるよう、頑張っていきたいです!

また、講義にあったように、季節や行事ごとに楽しめるのは日本酒ならではだと思いました。お正月、お花見、父の日、納涼祭り、秋の行楽、お歳暮、忘年会など、年中行事が豊富な日本。食材にも旬があるように、夏には冷酒、冬には燗酒と飲み方もさまざまに楽しめます。季節商品も豊富でボトルの色も季節に合わせたものを見かけます。
冷酒徳利と杯
夏には夏らしく日本酒を楽しむ。秋には秋らしく、冬も、春も
今までそんな風に考えたことはありませんでしたが、言われてみるとどれも納得、知らず知らずに意識していたことに気づかされました。そのお酒が自分と巡り合うまでにどれだけの時間と人とが関わってきているのかということもそうです。日本酒をつくってくれる方、運んでくれる方、そのお酒を選んでくれた方、提供してくれる方などなど。

一期一会。

日本酒に限らず言えることですけれど……。

そんなことを考えながら、飲んだり食べたりすると、今まで以上に楽しく、おいしく味わえそうな予感がします。日本酒の魅力をまたひとつ体感し、充実した一日になりました。

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※記事の情報は2020年7月27日時点のものです。
 
▼参考サイト
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