2018.05.08
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モン・サン・ミッシェル好きならシードルを

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

フランスのシードル産地はブルターニュとノルマンディ

フランス旅行の人気スポットのひとつ世界遺産モン・サン・ミッシェルはフランス北部、海を挟んでイギリスと向き合うブルターニュ地方にあります。パリからはカマンベールチーズが特産のノルマンディー(あの上陸作戦のノルマンディーです)地方を抜けて高速バスで約4時間の行程です。
この2つの地域は緯度が高く気温が低いためブドウ栽培には不向きです。かわりに発達したのがリンゴ栽培で、リンゴでつくるスパークリングワイン「シードル」が長く飲まれて来ました。モン・サン・ミッシェルに行かれたことがある方は、周辺の道路沿いに「シードル」や「カルヴァドス(リンゴのワインを蒸溜したブランデー)」の看板がいくつもあったのを覚えている方もいらっしゃると思います。シードルはアルコール度数が5%前後と低く、お値段もリーズナブルなので、カジュアルな食堂ではランチを食べながらシードルを飲む人を見かけます。

街道沿いにシードリーが点在

ノルマンディー地方にはシードルをつくる農家が集中するエリアがあり、そこを抜ける道はシードル街道と呼ばれ、人気の観光コースになっています。

フランスの美しい村に登録されている「Beuvron-en-Auge」村もシードル街道沿いにありました。

こんな小さな町にも数軒のシードリー(シードル生産農家)があります。
生産者のほとんどは小規模なリンゴ農家です。ほとんどが家族経営で、よく似たつくりの横長がの母屋に、ショップと製造所を備えていました。建物の裏は果樹園が広がっており、たいてい馬や牛を飼っています。

リンゴだけでなくサクランボや洋ナシも栽培しているようで、売店にはシードルだけでなくジュースやジャムなど自家製の食品類が並びます。また、どこもカルヴァドスも製造しており、農家が農産物を自ら加工販売するのが当たり前になっています。

昔はこんなシンプルな蒸溜器で、リンゴを発酵させたワインを蒸留してカルヴァドス(リンゴのブランデー)をつくりました。

さらに近年は、フランス政府が国をあげてワインツーリズムを推進するのを受けて、小規模ながらゲストハウスを設けるなど観光客の受け入れにも積極的に取り組んでいます。

こちらは美しい港町として人気のオンフルール。
この近くの高台にあるマノワール・アプルヴァル社は比較的規模が大きく、すてきなゲストハウスを持っていました。

中はショップと試飲カウンター、そして小学校の教室ほどの広さのセミナールームがあります。
シードルやカルヴァドスを使った料理教室やBBQパーティなど、いろいろな用途に使われています。

アプルヴァルの果樹園の先にはオンフルールの海が見渡せます。
写真では海がうまくとれませんでしたが、空の半分は海という眺めです。

醸造所の前には蒸溜器。これがなんとタイヤが付いた移動式でした。
蒸溜器のレンタル会社があり、必要な時にシードリーに牽引してくるのだそう。

ゲストハウスの裏はカルヴァドスの樽貯蔵庫でした。

アプルヴァルのシードルとカルヴァドスです。シードルの写真の右端は洋梨でつくったもの。
どれも日本に輸入されています。

先日、オーナーご夫妻が来日した機会に、テイスティング会に参加しました。一緒に撮ったのがこのショットです。

アルコール度数5%前後 リンゴの発泡性ワイン

ところでシードルとはどんな酒なのでしょうか。ブドウでつくる一般的なスパークリングワインのアルコール度数は10%~12%です。シードルは5%~7%くらいのものが多いので、ほぼ半分だと思えばいいでしょう。辛口にするにはリンゴの糖分をしっかりアルコール発酵させるので、アルコール度数は高めになり、甘口は発酵を途中で止めて甘さを残すためアルコールは低めになります。
味わいは甘辛のほか、澱をきれいに取り除いたクリアータイプと少量の澱を残したクラウディタイプ(ボディを強調する狙いで澱を残すケースが多い)、ガス圧の強いものと弱いもの、ブルーベリーやブラックベリーなど他の果実を加えたものなどバラエティが豊富です。また、洋ナシでつくった「ペリー」もシードルと同じ柄製法でつくられ、香りの違いはあるもののよく似たスタイルです。
主な産地はフランス北部のノルマンディー地方やブルターニュ地方、イングランド南部(英国では「サイダー」と呼ばれる)です。スペインでは「シドラ」、ドイツでは「アプフェルヴァイン」と呼ばれ製造されているほか、ロシアや北米にもあります。

こちらはアメリカはオレゴン州ポートランドのシードル「2TOWNS」。創業者は趣味でビールづくりをしていたそうで、友人の結婚式にビールを提供したのが縁で、一緒にシードルをつくるメーカーを立ち上げたそう。オレゴン特産のフルーツを加えて、おいしくまとめていました。

シードルは長く果樹園(リンゴ農家)がつくる素朴な酒として、安価でカジュアルに楽しまれて来ましたが、近年は製法や素材にこだわったプレミアムクラスの商品が多く登場しています。
こうした動きは英国で先行して始まり、刺激されたフランスの産地も開発に乗り出して、プレミアムクラスが広まったと言われます。
またアメリカではクラフトビールのブルワリーが、ビールの醸造設備を利用して、独自性を追求したシードルを発売する例が目立ちます。アメリカでは「シードル」ではなく「ハードサイダー」と呼ばれることが多いようです。

日本でもワイナリー&ブルワリーが注目

日本の国内市場は大手ビールメーカーがつくる、品質が安定していてスッキリ飲みやすく、値段も手ごろな『ニッカシードル』や『キリンハードシードル』がリードしていくことでしょう。裾野の拡大には面展開できる体力と供給量が必要だからです。
一方で個性的なシードルが増え、バラエティは豊富になります。推進役は零細なワイナリーです。醸造所の稼働率を上げるためにも、ブドウより長い期間醸造できるシードルに注目しています。オリジナル商品を開発したいリンゴ農家からの委託醸造にも積極的で、同様に料飲店や酒販店が委託醸造するケースも散見されます。

さらに独自に酒造免許を取得するリンゴ農家も、青森、長野、北海道などで増えています。

これからは北米の動きに倣ってブルワリーにもシードルの開発も広がることでしょう。発泡酒製造免許でつくれるシードル風のものが多く誕生するのではないでしょうか。ちょっと楽しみです。

 

※記事の情報は2018年5月8日時点のものです。

さけ通信編集長

山田聡昭(酒文化研究所*『さけ通信』編集長)

ビール、清酒、焼酎、ワイン、ウイスキー、スピリッツ、リキュール、もちろんチューハイと、お酒ならなんでも来い。国内47都道府県をすべて訪ね、海外では25カ国以上で、飲んだり、食べたり、酒蔵を訪ねたりした経験をもとに、家飲みをおもしろくする知恵を絞ります。1963年、埼玉県生まれ。男性・既婚

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