仏産と伊産のスパークリングワインをともに美味しく楽しむ秘訣は、グラスの選び方にあり

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが在住していたヴェネツィアをはじめイタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、国によって違う、スパークリングワインのグラスの選び方をご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:仏産と伊産のスパークリングワインをともに美味しく楽しむ秘訣は、グラスの選び方にあり

シャンパン・グラスに秘められた泡を楽しむ仕掛け

シャンパン用フルート型グラスの、ある「仕掛け」を教えてくれたのは、ヴェネツィア大学時代のルネサンス文学の教授、アンジェラ・カラッチョロ先生だった。ある懇親会の席でのこと。

「ごらんなさい。このワインが入る部分の底に、削ったような傷があるでしょう。これは最初から、わざと付けられたものなのよ」

細身のグラスの底に目を凝らすと、確かに薄く円形の傷があるのがわかった。

「なぜだかわかる?」

と教室で文学史についての質問をするときのような口調で私に聞いたが、すぐに答えは出せなかった。フフッと、困り顔の私を笑いながら、

「見ればわかるわ」

おもむろに、グラスにシャンパンを注ぐと、グラスの底からはきめ細かな泡が、まるで金色のキャンバスに白線を描くように、幾筋も、幾筋も、まっすぐに立ち上った。きれいだ。無口になる私に、

「この泡を作るためなの。この傷が、美しい泡が生み出すのよ」

これが芸術よといわんばかりの口調だ。さて、こうなるのは簡単に言えば、次のような原理だ。傷をつけることでわずかな隙間が生まれ、そこに空気がたまる。その微量の空気とワインに溶けた炭酸(炭酸は二酸化炭素CO2である)が触れ合うと、泡の勢いが強くなり、急上昇することになる。そして、その美しい泡の軌跡を存分に楽しむためにも、グラスは長く、細身でければならない。例えば、イタリアでは”クーペ(coupe)”と呼ばれる、結婚の披露宴などでシャンパン・タワーに使われる底の浅いグラスは、泡を愛でる意味では不十分な形状であるとも教えてもらった。
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