今年も開催、秩父ウイスキー祭り

ウイスキーの人気が高まるとともに参加者が増え、近年は大盛況のイベントになった「秩父ウイスキー祭」は、今年は2月17日に開催されます。今回は昨年の様子をご紹介します。参加される方は予習のつもりでお読みください。

メインビジュアル:今年も開催、秩父ウイスキー祭り

秩父の町が盛り上がる

秩父ウイスキー祭が開催される埼玉県秩父市は、埼玉県のもっとも西に位置し、群馬県、長野県、山梨県、東京都と接しています。秩父山地の山々に囲まれた盆地で、稲作に向かないため早くから養蚕業が発達しました。大正・昭和初期にかけては、庶民的なお洒落着として「秩父銘仙」が人気となり繊維業で大いに栄えます。また、毎年12月はじめには日本三大曳山祭りのひとつ、秩父夜祭が行われ大勢の観光客でにぎわいます。東京からは60~80km、特急列車で池袋から80分という、都心から比較的アクセスしやすい所です。
西武池袋駅から約1時間半、東武伊勢崎線の羽生駅やJR熊谷駅から秩父鉄道でもアクセスできる
西武池袋駅から約1時間半、東武伊勢崎線の羽生駅やJR熊谷駅から秩父鉄道でもアクセスできる

ここでウイスキー祭が開催されるようになったのは4年前の2014年でした。埼玉からウイスキーを発信しようと、地元埼玉のバーテンダーや洋酒専門店の有志が実行委員会を結成して、秩父市の中心部にある秩父神社を会場に始めました。初回の参加者は700~800人でしたが、口コミで広がり2年目には1300人、3年目には3000人を超えます。ここまで利用者が増えると、鉄道会社は東京から秩父まで特別列車を走らせるようになり、商店街など地元に応援の輪が広がり、地域をあげての催しという色彩が強くなっていきます。参加者が急増したことでオペレーションが混乱した年もありましたが、受付や会場への誘導を明確に指示するようにし、参加者を複数の会場に分散させるなど円滑な運営に工夫を凝らしています。
秩父駅までは町の職員がお出迎え
秩父駅までは町の職員がお出迎え

開催時期はまだまだ冷え込みの厳しい2月下旬の日曜日です。現在、秩父市の人口は約64,000人ですが、秩父夜祭のような大きな催し時以外は町を歩く人の姿はまばらです。山や川での遊びが盛んな夏場はともかく、冬の秩父は閑散としていました。ウイスキー祭が開かれるようになって様子が変わり、地元の商店の方は「2月にこんなに人が来るなんて信じられません」と口を揃えます。

神社の境内や周辺の広場にはさまざまな模擬店が出ていました。ウイスキーに合う食事やおつまみを販売する店の多くは地元の料飲店です。前日から秩父にやってきて宿泊する方も多く、前夜祭からにぎやかです。
会場周辺の小さな広場に模擬店
会場周辺の小さな広場に模擬店
海のない秩父でなぜか海の幸。ちょうど離島フェアが開催され長崎県五島市が出店
海のない秩父でなぜか海の幸。ちょうど離島フェアが開催され長崎県五島市が出店
地元の高校生が開発したイノシカバーガー
地元の高校生が開発したイノシカバーガー
イノシカバーガーは想定外のうまさでした
イノシカバーガーは想定外のうまさでした
メイン会場の秩父神社の境内はほぼ縁日状態。たくさんの飲食店がフードを販売
メイン会場の秩父神社の境内はほぼ縁日状態。たくさんの飲食店がフードを販売

イチローズモルトと秩父

秩父とウイスキーの縁は、『イチローズモルト』で知られるベンチャーウイスキー(代表 肥土伊知郎)が2004年に秩父市で創業し、2007年に蒸溜所をつくったことから深まりました。山間の盆地にある秩父は、一日の気温の寒暖差が大きく、豊富な水と豊かな自然に恵まれています。この条件を活かしたウイスキーづくりを目指す同社は、独立の新しいウイスキー蒸溜所として注目を集めたほか、海外のコンテストで同社のウイスキーが高く評価され、ウイスキーが好きなバーテンダーや一般愛好家が秩父に足を運ぶようになります。そうしたなかでウイスキーのイベントを開催する動きが出てきたのでした。
11時のスタートはどのブースも長蛇の列。13時ごろにはかなり空きます。レアものを狙わないならゆっくり参加するのもあり
11時のスタートはどのブースも長蛇の列。13時ごろにはかなり空きます。レアものを狙わないならゆっくり参加するのもあり

新興の蒸溜所が多数出展

近年、ウイスキーの蒸溜所を新設する動きは世界中に広がっています。日本でも、厚岸蒸溜所(北海道厚岸町:堅展実業)、安積蒸溜所(福島県郡山市:笹の川酒造)、静岡蒸溜所(静岡県静岡市:ガイアフロー)、三郎丸蒸留所(富山県砺波市:若鶴酒造)、長濱蒸溜所(滋賀県長浜市: 長濱浪漫ビール)、江井ヶ嶋酒造ウイスキー蒸溜所(兵庫県明石市: 江井ヶ嶋酒造)、マルス津貫蒸溜所(鹿児島県南さつま市:本坊酒造)など、続々と誕生しています。条件が整えば秩父ウイスキー祭と同じようなスタイルで、地元と連携したウイスキーイベントをやりたいと考えている者も少なくありません。近い将来、彼らが拠点となって、あちこちにウイスキーイベントが誕生するのではないでしょうか。 秩父ウイスキー祭にはこうした蒸溜所が多数参加し、各々に商品や蒸溜所をアピールしていました。創業したばかりで、ウイスキーとして販売できるものを持たない蒸溜所は、蒸溜したての透明なニューポットや、短期間樽で熟成したニューメイクを試飲させ、やがてウイスキーになるはずの酒を手に夢を語ります。来場者はまだ若く荒々しい酒を試しながら、彼らの話に耳を傾け、どんなウイスキーになってリリースされるのか、期待に胸を膨らませるのでした。
北海道から厚岸蒸溜所も出店。酒づくりを担当する立崎さん
北海道から厚岸蒸溜所も出店。酒づくりを担当する立崎さん
安積蒸溜所(郡山市)の母体は清酒メーカーの笹の川酒造
安積蒸溜所(郡山市)の母体は清酒メーカーの笹の川酒造
酒問屋の福島県南酒販(郡山市)は地元の安積蒸溜所と共同開発したオリジナル商品で参加。「963」は本社の郵便番号だそう
酒問屋の福島県南酒販(郡山市)は地元の安積蒸溜所と共同開発したオリジナル商品で参加。「963」は本社の郵便番号だそう
マルスウイスキーの母体は本格焼酎の有力メーカー本坊酒造(鹿児島)。創業地の津貫と駒ケ根(長野)に本格的なウイスキー蒸溜所を持つ
マルスウイスキーの母体は本格焼酎の有力メーカー本坊酒造(鹿児島)。創業地の津貫と駒ケ根(長野)に本格的なウイスキー蒸溜所を持つ
ガイアフロー静岡蒸溜所も出店。オール静岡のウイスキーづくりに挑戦中
ガイアフロー静岡蒸溜所も出店。オール静岡のウイスキーづくりに挑戦中

飲み比べてわかるウイスキーづくりの蓄積

新興のウイスキー蒸溜所とともに地方に広がり始めたウイスキーイベントですが、サントリーなど大手メーカーも参加しています。ウイスキーの製造をスタートさせたばかりの蒸溜所のブースが並ぶ中で、上質かつバラエティに富むウイスキー原酒を持つ大手メーカーの商品は、安定感と深い味わいが際立ちます。一杯のウイスキーを試飲するだけで、そこに長きにわたって積み上げた豊富な知見があることを感じられるのです。これが無ければ来場者は、時間をかけて熟成させ、多彩な原酒をブレンドすることで価値を高めるという、ウイスキーの本質を見落としてしまうでしょう。

また、ハイボールのようにウイスキーをおいしく飲ませるレシピを開発し、ユーザーの裾野を広げる仕事は大手メーカーならではのものです。イベントでも需要開発でも、ウイスキーの発展には彼らが果たす役割が極めて大きいのです。そんな見方で大手メーカーのウイスキーを楽しんでみるのもよいのではないでしょうか。

最後にこのイベントでは試飲したウイスキーを吐き出すための器はありません。すべて飲むことになるので、飲みすぎにはご注意ください。試飲しながらたくさん水を飲む、多いと思ったら飲み干さないで大きなプラコップにまとめて後で流す、ゆっくり時間をかけて試飲するなど、上手に楽しまれますよう。
ジャパニーズウイスキーを名実ともにけん引してきたサントリー。昨年は「メーカーズマーク」のクラフトハイボールをアピール
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ニッカウヰスキーは余市・宮城峡のモルトを提供。さすがの安定感
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ストレートでの試飲がほとんどなので、ハイボールに出会うとホッとする
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無料の公開セミナーは必見
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『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

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※記事の情報は2019年2月10日時点のものです。
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