いまメキシコが熱い! テキーラ輸入の先駆者にメキシコの食文化の魅力について聞いてきた。

巷でブームと言われるメキシコ料理、そんなメキシコの食文化の魅力について、テキーラを輸入する食品インポーター、リードオフジャパンの渡邊社長にお話いただきました。

ライター:青田俊一青田俊一
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INTERVIEW
リードオフジャパン代表取締役社長

渡邊弘之さん

 

密かなブームになりつつあると言われるメキシコ料理。オレンダインなどのテキーラを輸入するリードオフジャパンの渡邊社長にメキシコの食文化とテキーラの関係についてお話を伺いました。
 

Profile
渡邊 弘之(わたなべ・ひろゆき):リードオフジャパン代表取締役社長。1985年に同社を設立。オレンダインを筆頭に数多くのテキーラやメキシコビール、中南米食品の輸入から始まり、現在はワインや世界各国の酒類、食品、飲料を取り扱う一方、オリジナル商品の開発まで手がけています。飲食事業にも積極的に取り組み、六本木にテキーラ専門バー「AGAVE」とカジュアルフレンチ「ブラッセリー・ヴァトゥ」を展開しています。

メキシコ文化との出会い

リードオフジャパン渡邊社長


—— 渡邊社長がテキーラを輸入することになった経緯をお聞かせください。

渡邊 大学のときにメキシコのグアダラハラに留学したのがきっかけです。おじが移住して事業をしていた関係でグアダラハラに留学することにしたんです。当時おじはマグダレーナというところの宝石の鉱山の採掘権を持っていて、勉強の合間にその仕事を手伝っていました。マグダレーナはグアダラハラから50kmくらいのところにあるんですが、その中間に位置する場所にあったのがテキーラ自治区だったんです。それで仕事の帰りにエリアにあるバーに立ち寄って飲んでいたので、いろんなテキーラメーカーのオーナーと話す機会がありました。そのうちの何人かがいつかテキーラを日本に輸出したいと話してるのを聞いたのがひとつのきっかけになったと思います。

あとはメキシコの文化そのものにも興味をもちましたね。日本では人生のプライオリティの1番は仕事で、2番目は家族、3番目は趣味みたいなのがわりと当たり前ですが、彼らは違う。メキシコではプライオリティの1番が仕事という人はそんなにいなくて、家族だったり趣味だったり人それぞれで、自分の好きなことを人生のプライオリティの1番にしています。そして周りもそれを認めている。そういう考え方の違いが面白いなと思ったことも、メキシコに関わるきっかけになったんではないでしょうか。

日本でのテキーラのイメージを変えたい

—— その当時はもう日本ではテキーラは一般的でしたか。

渡邊 当時はクエルボ、サウザ、オルメカはもう輸入されていました。でも輸入されていたのは蒸留所の数は全部で10もなかったと思います。そして罰ゲームのお酒のイメージが強かった。悪酔いして頭が痛くなる印象も。あれはたぶん100%アガベのテキーラがまだそんなに入ってきてなかったからだと思います。今でこそ100%アガベが増えましたが、昔はそうではないものが多かったので。


—— 当時はどうやって飲まれてましたか。

渡邊 基本的にはショット。マルガリータとかカクテルもありましたけど、みんなショットでした。メキシコで飲んでいたときは次の日に頭が痛くなることはなかったのに、日本に帰ってきてショットで飲むと悪酔いする。度数が高いのかと思いきや、どれも40度で標準的※。でもテキーラ自治区で飲んだものは全く別物、本当に美味しかった。その違いのひとつは、先ほどの100%アガベのテキーラかどうかということだったんですね。そんな思いもあって20年前にオープンしたのがテキーラ専門バーAGAVEです。テキーラのイメージを変えたくて、100%アガベのテキーラ以外は扱わないお店にしました。だけどそのためには自分たちで輸入するしかなかったんです。現在AGAVEにはテキーラ400種に、メスカルが150種あります。これだけ輸入するにはまず書類手続きが大変、1種類ごとに書類が必要ですから。弊社の場合は幸運なことに私のおじがメキシコにいたので、書類を取り寄せることができたからその手続きも何とかおこなえて、今ではアジア最大級のテキーラバーになりました。ちょっと前までは世界最大級と言えたんですけど、アメリカにも同じくらいの規模のバーが何軒かあるらしいので。最初の2年ちょっとはお客さんが来なくて苦労しましたが、今ではありがたい事に日本中からバーテンダーが集まる、テキーラの聖地なんて呼んでいただくようになりました。

※輸出用は40度が主流ですがメキシコ国内用は38度が一般的だそうです。世界的なトレンドとしても度数は下がる傾向にあるとか。


—— AGAVEではどのように提供しているのですか。

渡邊 もちろんショットです。あとはもちろんカクテルでも。マルガリータに関してはオリジナルのレシピもあります。ブランコとレポサドを混ぜることでテキーラ本来の甘さを活かし、その分オレンジキュラソーとかを減らすことで、テキーラそのものの美味しさを残したマルガリータです。参考にしてくださっているバーテンダーさんもたくさんいます。

オレンダイン

メキシコ料理ブーム

—— いま都内ではメキシカン業態が増えていると聞いていますが。

渡邊 メキシコはブームになっていますね。そのひとつの要因に直行便が飛ぶようになったこともあります。遺跡も多いし、大きな国ですから文化も多種多様で見所の多い魅力的な国。日本では全く知られていませんがメキシコ料理は和食よりも早く2010年に世界無形文化遺産に登録されているんですよ。これはフランス料理と同じタイミング。なぜメキシコ料理がすごいか、ひとつの理由は、メキシコ原産の食材がヨーロッパに渡って、ヨーロッパの食文化に大きな影響を与えたことです。トマトや唐辛子ももともとはメキシコが原産。トマトがないなんて今のイタリア料理では考えられない話ですよね。そういうことも含めて世界無形文化遺産に登録されたんじゃないでしょうか。でもオリジナルのメキシコ料理を日本で食べられるところはごくわずかです。いまの日本で食べられているもののほとんどは、アメリカのテキサスやロサンゼルスで変化したメキシコ料理。ファヒータとかフラワートルティーヤのブリトー、硬いタコスみたいなのはメキシコにはなくて、食べやすいように変化したもの。日本の寿司が海外に行ったら現地の味覚に合わせて変化しているのと同じですよね。メキシコにもハラペーニョの乗った寿司とかありますしね。本当はオーセンティックなメキシコ料理を食べてもらえればいいんですけど、食材の都合やなんかで日本ではなかなか難しい。だから食べやすくアレンジされたテキサスやロサンゼルスのメキシコ料理でも、楽しんでもらえることはいいことだと思います。都内では有名なチェーン店もできてきているし、タコス協会みたいな団体もできている。いまあげたような料理は調理が簡単で、野菜も豊富に使うから女性に喜ばれるし、そういった意味ではまだまだこれから流行ると思いますよ。

—— その波にテキーラは乗っていますか。

渡邊
 テキーラはもちろんメキシコ料理に合いますよ。ただ、日本で食事に合わせてテキーラを飲むという習慣が根付くまでには至っていませんから、今のメキシコ料理のブームの勢いに比べたら多少はおとなしいかもしれません。それから、あまり知られていませんがメキシコではワインもよく飲まれているんです。大航海時代にスペインからブドウの苗木が渡ってきて、南北アメリカ大陸で最初にメキシコに根付いて、そこからアメリカにも大きく広がっていきました。今日のナパヴァレーとかのカリフォルニアワインです。そんなわけでテキーラがアメリカでブームになる前はワインのほうが知られていたようです。テキーラはもともと“ビノ(スペイン語で「ワイン」)・デ・メスカル”と呼ばれていたくらいですから。

メキシコのお酒事情

—— ワインのお話が出ましたが、メキシコではお酒はどう楽しまれていますか。

渡邊 メキシコは水道の水が飲めないから別の飲料から水分を摂ることも多いです。ビールを筆頭に、テキーラ、メスカル※も飲まれています。その中でいま特にメスカルがブーム。メスカルは大規模な生産者がまだそれほどいないので、基本はクラフトと言えます。さらに近年は蒸留技術の発達で美味しくなってきています。飲むほうにとっては、独特のスモーキーフレーバーが癖になるみたい。あとはアガベの種類が52種類あり、大きさ、形、味の特徴も様々。なので生産者ごとの個性が出しやすいのも面白いところです。人工栽培できない野生のアガベを使ったり、育つのに何十年もかかる希少なアガベを使ったり、個性的なメスカルがいろいろと造られています。その分テキーラと比べると値段の高いものも多いんですけどね。

※メスカルとはアガベを主原料とする、テキーラ同様メキシコ原産の原産地呼称の蒸留酒。ブルーアガベのみを原料とするテキーラに対し、メスカルは52種類のアガベを原料とするなど、規定も異なる。

テキーラの可能性

—— テキーラは今後どうなっていくと思われますか。

渡邊 テキーラの蒸留技術は以前と比べ、格段に上がってきています。3回蒸留のものはもちろん、蒸留工程以外にも様々な技術を駆使して飲みやすく仕上げているものが多いです。レポサドやアニェホのような色のついたテキーラをフィルタリングで透明にしたクリスタリーノというのも出てきたり。味わいは熟成してるのに見た目はクリア、これ本当に美味しいですよ。こういう新しい形のテキーラがどんどん生まれてきているので、ぜひトライしてもらいたいですね。

クリスタリーノ
フィルタリングで透明にしたクリスタリーノ


記事の情報は2019年3月4日現在のものです。

 
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