シャンパン革命で誕生した「テルモン」のサスティナブルな取り組みとは

スパークリングワインの代名詞とも言えるシャンパン。あなたは「ドンペリ」の他にどんな銘柄をご存じですか? 「クリュッグ」「マム」「テタンジェ」などのメジャーブランドに加え、覚えておきたいサスティナブルなシャンパン「テルモン」を紹介します。

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シャンパン「テルモン」の誕生

テルモンが創業したのは1912年。前年にはシャンパンメゾン(シャンパン製造者)とブドウ栽培農家の衝突がありました。

当時、シャンパンはどの地域まで“シャンパン”と名乗れるかの線引きで揉めていたうえ、待遇を巡ってブドウ栽培農家とメゾンが対立、さらにブドウの不作が続くなかでシャンパンメゾンに他の地域からブドウを調達しようとする動きが表面化して混乱していました。地域間の対立と栽培農家とメーカーの対立が複雑に絡み合った混沌とした状態が続き、1911年に暴動にまで発展したのでした。その後しばらくしてシャンパンの原産地呼称地域が見直され現在の地域に固まりますが、この暴動はシャンパン革命と呼ばれることもあります。

テルモンの創業者アンリ・ロピタル氏はシャンパン製造の中心地マルヌ地区でブドウを栽培する農家でしたが、この暴動のあと自らシャンパンの製造に乗り出します。ワインはブドウ栽培からと言われます。欧州ではワイナリーがブドウを栽培しワインを醸すのが伝統的な生産形態で、ブルゴーニュやボルドーの名だたるワイナリーも自社のブドウ畑を所有しています。しかし、シャンパンメゾンはブドウを農家から買い取る形態が一般的でした。粗悪なブドウを地域外から調達するような不正もあったようで、テルモンはブドウ栽培から関わり高品質なシャンパンを生み出す、ドメーヌ型のメゾンにチャレンジしたのでした。
テルモンを引き継いだ3代目のベルトラン・ロピタル氏(右)とCEOのルドヴィック・ドゥ・プレシ氏(左)
テルモンを引き継いだ3代目のベルトラン・ロピタル氏(右)とCEOのルドヴィック・ドゥ・プレシ氏(左)

シャンパーニュながら自社畑の9割が有機認証

現在のテルモンの自社畑は25haほど、そのおよそ9割弱は有機栽培の認証を受けています。55haある契約栽培農家の畑もすでに半分は有機認証を得て、さらに増やしているそう。シャンパーニュ地方全体で有機認証を受けているのはわずか4%ですから、テルモンがいかに有機栽培に熱心に取り組んでいるかがわかります。

有機栽培は殺虫剤・殺菌剤・化学肥料を使用しないため、病虫害のリスクが高くなりブドウの収穫量も減りますが、畑の土壌に棲む微生物を含む生き物の多様性が保たれます。テルモンは持続的なシャンパン造りのために、有機的に結びついた自然のシステムを壊さないことを優先すると言います。
テルモンのテロワール解説
テルモンの自社畑の86%、契約畑の51%が有機認証済み。シャンパーニュ地方では稀有だ

シャンパンボトルの軽量化でCO2削減

テルモンはCO2の削減にも積極的に取り組んでいます。製品や資材の空輸を止め、使用する電力はすべて再生可能エネルギーに切り替えました。

パッケージを改善して環境負荷を減らす活動を進めています。ご存じのとおりシャンパンの瓶は高いガス圧に耐えるため分厚く、一般的なもので重量は835g、特殊瓶は900g前後あります。瓶の製造段階で排出される二酸化炭素に加え、重い分輸送による排出量も多くなります。そこでテルモンは製便業者と共同で瓶の軽量化に着手し、35gを軽量化800gに軽量化したボトルを開発しました。
テルモンの主要ラインナップ
テルモンの主要ラインナップ。ロゼは2021年製造分からグリーン瓶に、長熟ブラン・ド・ブランも特殊瓶から一般瓶に変わる
さらに新瓶が使われる透明瓶や重い特殊瓶の使用を止めて、リサイクル率の高いグリーン瓶に統一するよう決定しました。透明瓶や重い特殊瓶の使用を止めることを決定、リサイクル率の高いグリーン瓶に統一する決定をしました。簡単なようですがピンクの色を見せたいロゼは透明瓶でなければ映えませんし、長期熟成の最上級品は高級感のある瓶に入れたくなるものです。こうしたメリット以上に環境負荷の軽減を優先する決断は、なかなかできないのではないでしょうか。当然ですがギフトパッケージもすべて廃止したそうです。

ちなみにテルモンにオスカー俳優のレオナルド・ディカプリオ氏が出資を決めたのは、こうしたサスティナブルなシャンパンに取り組む姿勢に共感したからだそうです。
シャンパンも日本酒のように透明に近いものからゴールドまで様々な表情を見せる
シャンパンも日本酒のように透明に近いものからゴールドまで様々な表情を見せる
テルモンのスタンダード商品「レゼルブ・ブリュト」
テルモンのスタンダード商品「レゼルブ・ブリュト」。フレッシュながら複雑かつクリーンな味わい

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シャンパンを飲み比べする贅沢

先日開催された試飲セミナーでは、テルモンのスタンダード商品「レゼルブ・ブリュト」から、ロゼ、ブラン・ド・ノワール、2006年瓶詰めの長熟ブラン・ド・ブラン、亜硫酸無添加のサン・スフル、シャンパンで初めて有機認証を受けたレゼルブ・ド・ラ・テールの6点が提供されました。醸造責任者兼セラーマスターで当主のベルトランさんのリードで順に試していきます。
セラーマスターのベルトラン・ロピタル氏のリードでテイスティング
セラーマスターのベルトラン・ロピタル氏のリードでテイスティング。栽培から醸造まで見ているシャンパンづくりの専門家は多くない
ここでひとつひとつ味の感想を述べるのも野暮でしょう。どれも素晴らしくおいしいのですから。それ以上に興味深かったのは、それぞれ香味の違いが明確でシャンパンの幅の広さを体感できたことです。高価なシャンパンを何種類も比較試飲する機会はなかなかありません。

数年前に訪れたシャンパンの主産地エペルネーのブドウ畑を思い出しながら、グラスから立ち上る香りをいっぱいに吸い込む至福のひと時。今またシャンパンのサスティナブル革命を起こそうとするテルモンをぜひ覚えておいてください。
シャンパンの製造地として知られるエペルネー
シャンパンの製造地として知られるエペルネー。町の入り口にはシャンパンコルクのオブジェがあった
エペルネーのブドウ畑
エペルネーのブドウ畑。パリ発の日帰りシャンパン見学ツアーなら気軽に参加できる
※記事の情報は2023年5月18日時点のものです。

  

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