好きになったら止まらないアイラモルト

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

メインビジュアル:好きになったら止まらないアイラモルト
さけ通信

安芸の宮島で牡蠣にボウモア

しばらく前のことですが広島の厳島神社の参道で、焼き牡蠣の匂いに惹かれて立ち寄りました。焼き牡蠣とフライ、燻製のオイル漬けを注文してドリンクを見ると、なんとそこには『ボウモア』がオンメニュー! そう、アイラモルトの女王と言われる燻香と甘みのあるボディが特徴のウイスキーです。
▲宮島の牡蠣屋。軒先で殻付きの牡蠣を炙っている牡蠣の専門店
▲宮島の牡蠣屋。軒先で殻付きの牡蠣を炙っている牡蠣の専門店
▲ドリンクメニューにしっかり『ボウモア』
▲ドリンクメニューにしっかり『ボウモア』
▲オイル漬けは『ボウモア』ハイボール、カキフライはビールがうまい
▲オイル漬けは『ボウモア』ハイボール、カキフライはビールがうまい

浜辺に建つボウモア蒸溜所

ボウモア蒸溜所を訪ねたのはサッカーワールドカップ日韓共催大会の年ですから、もう16年も前になります。牡蠣の店で『ボウモア』を見て、蒸溜所を見学した後、すぐ傍のレストラン「ハーバーイン」で名物のオイスターのボウモアがけに舌鼓を打ったことを思い出しました。牡蠣にウイスキーをかけるなんて想像できませんでしたが、これがすこぶるおいしい。友達に紹介したいと思い、帰国してから仲間と試してみると何か違います。旅先ではあんなにおいしかったのにと思うことはよくありますが、気分だけではなく、アイラ島のオイスターは日本のよりもねっとりと濃厚で、品種も違えば育った海も違うからなのでしょう。いろいろ試してみて一番近いと思ったのは岩牡蠣、ボウモアの煙香がミルキーな味わいに溶け込んでなかなかのものでした。もうひとつおいしかったのは、三陸名産の生ほやの刺身です。『ボウモア』の力強い味わいは、磯の風味が強くコクのあるものとの相性がいいのだと思います。
▲ボウモア蒸溜所はアイラ島の中心部に位置する
▲ボウモア蒸溜所はアイラ島の中心部に位置する
▲ボウモア蒸溜所はアイラ島の中心部に位置する
アイラ島は淡路島と同じくらいの広さで8つのウイスキー蒸溜所があります。グラスゴーから小型飛行機で向かいましたが、着陸前に上空から見えた点在する白い蒸溜所の美しさを鮮明に記憶しています。
ボウモア蒸溜所は海岸に面しており、スコットランド最古のウイスキー貯蔵庫には波が打ち寄せ、常にしぶきがかっていました。アイラ島の蒸溜所の中ではもっとも古く1779年の創業、以来およそ240年にわたって伝統的な手法でウイスキーをつくり続けてきました。

褐色の水とフロア・モルティング

昔から変わっていないのは麦汁づくりに使う褐色のピーティウォーターです。アイラ島だけでなくスコットランドでは、降り注いだ雨がピート(泥炭)の層を抜けて透明な褐色になり、ほとんどの川の水は薄い紅茶のような色をしています。
▲ボウモア蒸溜所の傍を流れる川の水。この水から『ボウモア』が誕生する
▲ボウモア蒸溜所の傍を流れる川の水。この水から『ボウモア』が誕生する
そしてフロア・モルティングも昔ながらの手法です。水を吸わせた大麦を床に敷きつめて発芽させる作業です。定期的にスコップで天地返しをしたり、フォークのような鋤(すき)を引いて根切りをしたり、かなりの重労働です。この手法には広いスペースが必要なこと、約1週間かかりきりになる労働集約的であることなどから、1950年代以降、次々に外部の専門業者に委託されるようになりました。今も行っているのはボウモア蒸溜所のほかに数えるほどしかありません。
▲2002年当時のマクファーソン蒸溜所長がみずからフロアモルティングの作業をやって見せてくれた。彼もアイラ島の出身だ
▲2002年当時のマクファーソン蒸溜所長がみずからフロアモルティングの作業をやって見せてくれた。彼もアイラ島の出身だ
▲2002年当時のマクファーソン蒸溜所長がみずからフロアモルティングの作業をやって見せてくれた。彼もアイラ島の出身だ

浜辺に建つボウモア蒸溜所

発芽した大麦は熱風で乾燥させて活性を止めモルトにします。この時にピートを焚いてどのくらい燻すかによって、ウイスキーのスモーキーさの程度が変わってきます。また、ピートの採掘地によってスモーキーさの質が違ってきます。アイラ島のウイスキーはどれもスモーキーですが、それぞれタイプが異なるのはスモーキーさの質と量が違うからです。
▲発芽した大麦を熱風で乾燥させてモルトが出来上がる
▲発芽した大麦を熱風で乾燥させてモルトが出来上がる
▲泥炭地からピートを切り出して、天日で干す。ピートを焚いてその煙で発芽した大麦に煙香をつける
▲泥炭地からピートを切り出して、天日で干す。ピートを焚いてその煙で発芽した大麦に煙香をつける
▲泥炭地からピートを切り出して、天日で干す。ピートを焚いてその煙で発芽した大麦に煙香をつける
▲泥炭地からピートを切り出して、天日で干す。ピートを焚いてその煙で発芽した大麦に煙香をつける

木桶で発酵させる複雑系の味わい

ボウモア蒸溜所の発酵槽は木桶です。洗浄しやすく衛生管理が容易なステンレスのタンクが主流になった今も木桶にこだわるのは、重厚な味わいの蒸留液を求めるからでしょう。木桶にはさまざまな乳酸菌が棲みついており、複雑な味わいになります。
発酵液は酸味が強くこの段階では飲みにくいものが多いのですが、ボウモアの発酵液はこの段階からおいしくて驚きました。
▲木桶で発酵させて複雑で厚みのある味わいを狙うという。発酵液はこの段階でもおいしく飲めた
▲木桶で発酵させて複雑で厚みのある味わいを狙うという。発酵液はこの段階でもおいしく飲めた
▲木桶で発酵させて複雑で厚みのある味わいを狙うという。発酵液はこの段階でもおいしく飲めた

スコットランド最古のウイスキー貯蔵庫

そしてスコットランドでもっとも古いウイスキー貯蔵庫には、ウイスキーファン垂涎の熟成原酒が眠っています。熟成年数の違うものを樽からそのまま汲みだして飲み比べます。ピーティーで若々しく力強い味わいは、熟成年数が長くなるとともに穏やかになり、ピーティーさが薄れていきます。味わいは深まりさまざまな味が折り重なっていくのはウイスキーの醍醐味です。
▲サントリーの故佐治敬三氏の樽もあった。ボウモア蒸溜所はサントリーが1989年に資本参加し1994年に完全子会社化して経営を立て直した
▲サントリーの故佐治敬三氏の樽もあった。ボウモア蒸溜所はサントリーが1989年に資本参加し1994年に完全子会社化して経営を立て直した
▲サントリーの故佐治敬三氏の樽もあった。ボウモア蒸溜所はサントリーが1989年に資本参加し1994年に完全子会社化して経営を立て直した
▲サントリーの故佐治敬三氏の樽もあった。ボウモア蒸溜所はサントリーが1989年に資本参加し1994年に完全子会社化して経営を立て直した

アイラモルトの入門酒『ボウモア ナンバーワン』誕生

こんなザ・アイラモルトともいうべきボウモア蒸溜所から、今春、新製品が誕生しました。『ボウモア ナンバーワン』はバーボン樽熟成原酒だけを使い、味わいはボウモアとしてはライト、薫香も控えめです。ウイスキーハイボールでウイスキーに親しみはじめた方には、個性の強いアイラモルトは少々ハードルが高いものです。そんな方とアイラモルトの橋渡し役として投入されました。熟成年数を表示しないノンエイジにすることで使える原酒の幅を広くし、3500円と価格も抑えています。
▲アイラモルトの入門酒として発売された『ボウモア ナンバーワン』はファーストフィルバーボン樽(バーボンウイスキーの熟成に一度使用した樽)で熟成した軽快な味わい
▲アイラモルトの入門酒として発売された『ボウモア ナンバーワン』はファーストフィルバーボン樽(バーボンウイスキーの熟成に一度使用した樽)で熟成した軽快な味わい
新製品発表会ではデイビッド・ターナー蒸溜所長が来日してセミナーを開催、フロア・モルティングとピートによる乾燥、世界最古の貯酒庫、エリザベス女王の訪問など、アイラ最古の蒸溜所のウイスキーづくりをたっぷり語りました。
▲デイビッド・ターナー蒸溜所長もアイラ島の出身
▲デイビッド・ターナー蒸溜所長もアイラ島の出身


※記事の情報は2018年7月11日時点のものです。
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