高峰秀子『台所のオーケストラ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑨》

「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲んでみたい」 家飲み派の筆者がささやかな夢を叶える連載、今回は昭和の名女優・高峰秀子さんの書き記した食エッセイ『台所のオーケストラ』からの再現です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:高峰秀子『台所のオーケストラ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑨》

名女優が家族のために作ってきた130のレシピ


◾あらすじ
日本映画史に名を刻む大女優にして、名エッセイストとしても知られた高峰秀子さん。この一冊には、「和食」48、「中華」23、「洋風」36、「その他」23と、合計130の素材(食材)をテーマにしたショートエッセイとレシピが収められています。

例えば、「和食」の「鯵」の頁を一部引用するとーー。
わが家の夫・ドッコイは好き嫌いがはげしく、漬けもの類はいっさいダメ、アレもいや、これもキライ、とややこしい。
 大好物は鯵の二杯酢で、これさえ出しておけば一年中ニコニコしている猫男だ。「かけ汁」は、だし汁に塩と酒、少量の酢を加えて煮立たせたものを常時、冷蔵庫に待機させてある。

『台所のオーケストラ』<鯵>高峰秀子 新潮文庫より
わが家の夫・ドッコイとは、映画監督の松山善三氏のこと。本書のあちこちにドッコイ氏のエピソードが登場するので、お二人の微笑ましい暮らしぶりをちらりと覗いているような気分になれます。

最後には「小あじの唐揚」のレシピが添えられているのですが、これがまた簡潔なこと!
ごく小さいあじ
片栗粉
ししとう
ぎんなん
サラダオイル
しょうが醤油

 新鮮な小あじのおなかを出し、ゼイゴを取りのぞいてよく洗い、ふきんで水気をとります。あじの両面にサッと片栗粉をまぶしてサラダオイルで揚げるだけ。

(中略)

 しょうが醤油が一番合いますが、冷めた唐揚げは、赤唐辛子を散らした二杯酢につけておくと、つぎの日の夕食の前菜になります。

『台所のオーケストラ』<鯵>高峰秀子 新潮文庫より
多忙を極める身でありながら、地に足のついた食生活をしている方だったということが伺える文章です。

家族の好物をすぐ作れるように調味料を常備し、食べ余したお惣菜を次の日にも楽しめるような工夫を凝らす。なんでもないようで続けるのは決して楽ではない家事をこんな風に綴れるほど、日々の食事を大切にしていた高峰さん。その原動力となったのは、家族(夫)への深い愛情だったようです。

養女である斎藤明美さん(編集者・エッセイスト)が記したあと書きにはこんな一文がありました。

「とうちゃんがいなかったら、私は料理なんかしてないと思うよ。自分ひとりなら、毎日、紙のお皿とコップでその辺のもの食べてたと思う。」

それでいて、専門家顔負けの質&量を誇るレシピを残してくれた高峰さんって本当にすごい方ですね。
 

◾お品書き

  • 白身魚の昆布あえ
  • あさりの昆布焼き
  • 昆布卵
再現レシピ全景
今回は、「和食」の項から昆布を使った3品を再現しました。先に言っておきますが、どれも最高のおつまみですよ!

【再現レシピ①】白身魚の昆布あえ

【再現レシピ①】白身魚の昆布あえ
なんてったって、かんてったって、鯛は魚の王様、海の王者である。

(中略)

まンず、頭は丸のまま骨蒸しにするか、たて半分に割って、イヤッてほどサンショを振り、醤油を塗った「山椒焼き」にするか、もしくはアッサリとした「潮汁」ね。三枚におろした身は、もちろん刺身が最高で、特に「砂ずり」といわれるお腹のところがとてつもなく美味しく、ここンところは残った中骨と一緒にパラッと粗塩を振って「塩焼き」にしてかぶりつく。

『台所のオーケストラ』<鯛>高峰秀子 新潮文庫より
あああ、めちゃくちゃ美味しそう! 思わず叫びたくなるような鯛礼賛の後のレシピはこちら。

<材料>
白身の魚(鯛を使いました)
糸切り昆布
わさび
ポン酢
清酒
醤油
 
白身を、細く糸作りにして、これを細く切った昆布とサッと混ぜ合わせて、小鉢に盛るだけ。
 つけ汁は、酒とポン酢に醤油をひと垂らし。わさびをそえれば、立派な一品というわけです。

『台所のオーケストラ』<鯛>高峰秀子 新潮文庫より
糸切り昆布は、切昆布の名でも売られているものです。昆布が長ければキッチンばさみで食べやすいサイズにカットしてください。

◾食べてみた
ねっとり柔らかな鯛と、コリッとした糸昆布の食感のコントラストが楽しい。噛むほどに昆布の旨味が出てくるのも素敵です。

魚の昆布締めもとても美味しいものですが、いかんせん完成まで時間がかかるのが難といえば難。糸昆布あえは、味はライトになりますが昆布締めの簡易版になり得るかと。

【再現レシピ②】あさりの昆布焼き

【再現レシピ②】あさりの昆布焼き
<材料>
・あさりのむき身
・昆布
・コンロ
 
ある寒い日、久し振りに、食いしんぼうで有名な映画評論家の荻昌弘さんに出会った。
「こんにちは、荻さん」
「どうも、どうも」
「いま、なにか一品、おすすめ品は?」
「いまねえ、あのねえ、小ちゃいコンロに金網を置いてね、大きめの昆布をしめらせて敷くのよ。その上でアサリをね、じゅじゅッて焼くの、これ、美味いんだァ」
 荻さんは大きく息を吸って、さも美味しそうに目を見張った。

『台所のオーケストラ』<昆布>高峰秀子 新潮文庫より
上記の引用部分がレシピに該当しているので、そのままチャレンジしました。

むき身が手に入らなかったので、活けのアサリを買って来て酒蒸しにしてちまちまと身を取り出すのが面倒くさかったです……。みなさま方が再現される時は、どうかお近くでむき身が買えますように。

私は、野良飲みの際に缶詰などを温めるのに重宝しているミニコンロ(ポケットストーブ)を使用しました。
ミニコンロ
◾食べてみた
昆布の旨味を吸ったアサリ、小さいながらも味わい濃厚なご馳走です。江戸っ子が好きそう〜。粋〜〜〜。

それぞれに塩気があるので、味付けなしでつまめるのもいいですね。よくこんなこと思いついたなぁ。アサリは先に加熱してあるので、煮詰め過ぎないようご注意ください。

せっかくこのセットを用意するなら、ついでに水切りした豆腐やイカなんかを同じように「じゅじゅッて焼く」のもよさそうです(次は絶対やるぞ!)。

【再現レシピ③】昆布卵

【再現レシピ③】昆布卵
<材料>
・鶏卵
・昆布
・塩
・醤油
 
小さな土鍋かほうろくに塩を一センチほど入れます。(できれば粗塩のほうがいいです)
 なるべく幅の広い昆布を水にひたし、シナッとなったら布巾で水を押さえて、容器なりに敷きます。スキ間があると卵の形が悪くなりますのでなるべくピッタリと敷きつめてください。そして、その中へ卵をおとしますが、わが家では白身は一個分にして黄身を二個入れます。でも小さな容器に一個だけというのも可愛いものです。蓋をして、トロ火にかけるか、オーブン・トースターに入れ、半熟くらいになったらスプーンをそえて食卓へ。卵に昆布の味がうつって、アリャと思うほど美味しく、醤油をチラッとかけるのも、私は好きです。

『台所のオーケストラ』<塩>高峰秀子 新潮文庫より

ちょっと思い切りのいる量の塩が必要です。
昆布卵準備1

昆布のサイズが足りずに2枚を重ねる形になりました。
昆布卵準備2
蓋をせず(忘れていた)、トースターで5分ほど焼いたのが上の完成品です。

◾食べてみた
やー、これは卵好きにはたまらない佳肴です! こんな短時間で塩の味が移るのかしらと心配でしたが、しっかりとしみます。昆布ごしにしみます。

白身の底部分は全体的に、黄身には下部だけうっすらとうま塩味がついていて、交互に食べるとちょうどいい感じでした。たった1つの卵でかなーり飲ませてくれますよー。

パリッと焼けた昆布も端っこを割っておつまみにしましょう(底はとても塩辛いのでやめた方がいいです。体験者より)。

あまりに美味しくて、食べ終わった後にもう1個追い卵をして焼いたのですが、残念ながら昆布の旨味がほぼ移りませんでした。なので、たくさん食べたい場合は最初から卵2個で作るのがおすすめです。


***

高峰さんレシピ、どれも大当たりでした。鍋シーズンが終わって端っこが残ってしまいがちな昆布を、こんな素敵なおつまみにしてあげられたら最高ですね。

今回の3品、再現される場合はお供の日本酒のご用意をゆめゆめお忘れなく! ここだけの話、撮影後の実食で4合瓶が空になってさらに予備のカップ酒に手を出してしまいましたからね、私めは。


※記事の情報は2020年4月22日時点のものです。
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