立原正秋『美食の道』の再現レシピ《肴は本を飛び出して③》

「小説や漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲んでみたい」 家飲み派の筆者がささやかな夢を叶える連載、今回は美食家・立原正秋の食エッセイからの再現レシピです。読んだら真似せずにはいられない3品をご紹介します。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:立原正秋『美食の道』の再現レシピ《肴は本を飛び出して③》

美食家・立原正秋の「食」を集めたエッセイ集『美食の道』



◾あらすじ
生涯を通して「美」を追求し続けた直木賞作家・立原正秋。食に対しても独自の世界観を持ち、玄人はだしの包丁さばきを見せたといいます。

『美食の道』では食にまつわる数々の思い出とレシピが綴られ、第1章「食べ物の話」は「鯵のたたき」に始まり、「蕎麦の味」「茸の秋」「仙台の海鞘」「河豚の白子」「鱈子の食べ方」などなどと喉がごくりと鳴るようなタイトルがずらり。

続く「あさめし」の章では、目を覚ますとまず中瓶のビールを1本飲み、散歩がてらに新鮮な鯵やらアワビ(!)などを仕入れて帰宅。それらを肴に日本酒を3合、のちにめしと味噌汁という素晴らしい食生活を披露されています。

ちなみに魚がない日はビフテキだそうで……。呑兵衛の憧れを絵にしたような「あさめし」を堪能されていた立原さん、実に羨ましい限りですね。

お酒は格段に強かったようで、「二十年来の酒」という一編にこんな記述がありました。
私の酒はお茶と同じだから、日本酒に換算して四升から五升までなら、常と渝(かわ)らない。五升を越したらすこし酔ってくる。

立原正秋 『美食の道』(角川春樹事務所)より
すごすぎ&強すぎぃぃぃ!

そんな立原先生お墨付きのおつまみ、はりきって再現させていただきましょう!
再現した3品

◾お品書き

  • 海苔の塩焼き
  • レバー生姜煮のうす切り
  • 塩とタバスコで食べるステーキ

【再現レシピ①】海苔の塩焼き

海苔の塩焼き
 海苔の塩焼き。上質の奉書用紙を三枚重ね、その上に、干海苔を五枚かさねる。海苔の上にサラダオイルまたは米の油、綿の油をふりかけ、その上に食塩をぱらぱらとふり、人さし指、中指で塩と油をのばす。のばした海苔はとりあえず下に入れて重ねる。こうして五枚の海苔に油をひいたら、これを一枚あて火にあぶる。
(中略)
 強火で一枚々々さっと表裏をあぶり、先刻の和紙の上にもどす。あぶりぐあいが肝要である。冷めると硬くなる。硬くなったのを、重ねて六つに切る。
(中略)
どんな良質な海苔でも生ぐささが残っているものだが、こうして調理すると、生ぐささが消え、海苔の生命であるこうばしさが引き出せる。

立原正秋 『美食の道』<包丁の使い方その二・野菜その他>(角川春樹事務所)より
上質の奉書用紙はご縁がないので、コピー用紙にて代用(落差ありすぎ!)。

海苔にサラダオイルをたらりとするとすぐに染み込むので、焦って2本の指どころか手のひらまで使って伸ばし塩をぱらりを繰り返して1枚ずつ炙ります。 油分があるので引火しないかとドキドキ。この工程、注意が必要です。

炙り終えたら、重なった海苔をコピー用紙2枚ずつではさむようにして余分な油をとりました。

◾食べてみた
おおお、これはたしかに雑味が消えて海苔の風味が濃くなります! ほんのり塩気もいい感じ。韓国海苔ほど味の主張が強くないのでいろんなお酒に合いそうです。

大量にできたので、湿気らないように保存して大好きな海苔&チーズに使おうっと!

【再現レシピ②】レバー生姜煮のうす切り

レバー生姜煮のうす切り
 レバーをかたまりのまま買ってきたまえ。そして生姜醤油に一日つけておく。これをさらに生姜をすりおろした水で煮る。煮あげたら、うすく切って食してみたまえ。垂(たれ)はなんでもよい。

立原正秋 『美食の道』<レバー料理>(角川春樹事務所)より
本編では豚レバーについて書かれていましたが、今回は入手しやすい鶏レバーを使いました。生姜をすりおろした水で煮るっていうのがちょっと珍しいですよね。レバーは塊のまま使うため中の血抜きができないので、臭み対策で少し日本酒も加えました。

◾食べてみた
作っている途中「これってもしかしてよくあるレバーの生姜煮なんじゃ?」と心配になったのですが、出来上がったらちゃーんと別物でした!

醤油と生姜だけ、そしてそれが水で薄まっているので味付けが濃くなりすぎずレバーの風味がいい感じに残っています。薄切りにすることでねっとり感もほどよく楽しめるのがいいですね〜。

タレはなんでも、とのことですので(なんかヒント欲しかったよ立原先生)、酢&黒胡椒、塩&ごま油の2種類を合わせました。酢&黒胡椒だとさっぱりした後に胡椒のパンチが来て良き、塩&ごま油は懐かしのレバ刺しを思い出してこれまた良き良き、でありました〜。

こりゃビールよりも焼酎や日本酒の方が合いますなっ。

【再現レシピ③】塩とタバスコで食べるステーキ

塩とタバスコで食べるステーキ
 正午に起きたら疲れがとれている。サーロインのステーキに玉葱の輪切りを焼いたのを添え、そこに塩とタバスコをふり、ビール。

立原正秋 『美食の道』<酒中日記>(角川春樹事務所)より
これまたなかなか見ない組み合わせですね〜。 サーロインではなくミスジの美味しそうなのがあったのでえいっと奮発して焼きました。 室温に戻し、軽く塩をしてスキレットで両面を3分くらいずつ焼き、アルミホイルに包んで10分ほど置きます。その間に同じ鍋で玉ネギを焼くという流れで。

◾食べてみた

飲みながら食べるならいちいちナイフフォークでカットするのは面倒かなと思い、あらかじめカットしちゃいました。 これなら箸でひょいぱくっとつまめます。

胡椒をガリガリ挽きたいところをぐっとこらえ、塩とタバスコだけで食べてみました。

うん、これもアリ!

牛肉の乳っぽい甘みを塩がグッと引き立ててそこにタバスコが辛いんだけど辛すぎないアクセントをつけてくれます。肉の味に奥行きが出る感じ。唐辛子の辛さはあまり得意でない私にとってもこれはいい塩梅。

で、今調べて初めて知ったのですがタバスコは唐辛子、塩、酢でできているのですね。唐辛子と塩だけで発酵させて造るのだそうで、通りで辛いだけでなく味に深みがあるのか〜。添え物の玉ネギも塩タバスコと相性よしでした。

立原先生の慧眼、おそるべし!!

しかし私は朝からこれを食べて飲んだとしたら、仕事したくなくなる度MAXですわ。

・・・・・・

はしょったり代用したりの再現でしたが、知っている食材の知られざる美味しさに気づくことができ、大いに実りありました。

これからも隙あらば立原節の効いたおつまみを真似して家飲みを充実させたい所存です!

※記事の情報は2019年10月2日時点のものです。
 

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