最新!家飲みクラフトビール図鑑⑤スタウト編

スタウトはアイルランド生まれの真っ黒なビール。ビターチョコや深煎りコーヒーを連想させる焦げのような風味と苦みは、ローストした麦由来のもの。キレがあってスイスイ飲めてしまうものから、どっしり重厚なものまで様々です。焦げたような風味は醤油を使った煮込み料理や、食後のスイーツとも好相性。知れば知るほどおいしくなる、スタウトの世界。いつもの家飲みにワンランク上の楽しみをプラスしましょう。

ライター:コウゴアヤココウゴアヤコ
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スタウトとは税金対策が生み出した真っ黒なビール

スタウトは、アイルランド生まれの上面発酵の黒色ビール(日本の酒税法では下面発酵でもスタウトと名乗れる)。黒くなるまでしっかりと焙煎した大麦を原料の一部に使用しているため、見た目が真っ黒。ビターチョコやコーヒー、ナッツを連想させる香ばしい風味と、焦げのような苦み、ほのかな甘みと酸味が特徴です。適温は12~15度。喉越しを楽しむというよりも、ゆっくりと味わって飲みたいビールです。

スタウトを代表する銘柄といえば、アイルランドの「ギネス・スタウト」。1759年に創業したギネス社で、アーサー・ギネスが当時英国で流行していたポーターというスタイルのビールをアイルランドでも製造しようと試みたのが始まりです。ところが、当時は原材料の“麦芽”に税が課せられていたため、税負担を軽減するために、麦芽にしていない“大麦”をそのまま焙煎して原材料に使用したのです。予想外の香ばしさとドライな口当たりは、たちまち人気に。誕生時は「スタウト・ポーター」と呼ばれていましたが、次第に「スタウト」と呼ばれるようになりました。

税金対策として大麦をそのまま焙煎するというアイディアが生み出したスタウトは、今や世界中で愛されるビールに。ピンチをチャンスに変えたビールです。
ギネス・スタウト

黒さの秘密、それは麦の焦げ具合

ビールの外観は黄金色から茶色、黒色まで様々。この色を決定づけているのは、原材料の麦芽の色です。麦芽は通常、数種類を組み合わせて使用します。つまり淡い色の麦芽を多く使用すると黄金色のビールに、濃い色の麦芽を使えば茶色や黒色のビールができます。色以外にも、焙煎の香ばしさや苦みをビールにもたらします。

麦芽とは、発芽させた大麦を高温で乾燥、焙煎させたもの。その温度や時間が大きいほど麦芽の色は濃くなり、焦げのような香ばしさが増します。しかし、高温で焙煎すると麦汁の糖化に必要な酵素が失活してしまうので、濃い色の麦芽だけではビールを造ることはできません。黒色ビールを造るときは、淡い色の麦芽をベースに、濃い色の麦芽を少量加えて、色と風味をつけています。
麦芽の色比較

スタウトの兄貴分、ポーターは荷運び人のビール?

スタウトの前身になったポーターは、焙煎麦芽によるマイルドな苦みと甘みが特徴の濃色ビールです。ポーターの誕生にはユニークなエピソードが。

18世紀初頭、ロンドンでは「スリースレッド(3本のより糸)」というビールが流行していました。褐色ビール(ブラウンエール)の若いものと時間がたって酸味が出たもの、さらにペールエールの3種類を混ぜ合わせたブレンドビールです。しかし注文の度に3種類のビールを混ぜるのは面倒。そこで、パブを経営していたラルフ・ハーウッドが、ブレンドせずにスリースレッドの味わいを樽詰めした「エンタイア(全部の、まるごとの)」というビールを販売するようになりました。

エンタイアはパブで人気になりましたが、その名は定着せず、「ポーター」と呼ばれています。それは、このビールを好んで飲んだのがポーター(荷運び人)であったことから名付けられたという説や、ポーターがビア樽を運んできた際に「ポーター!」と叫んだから、という説があります。日本なら「宅配便でーす!」という名のビールになりますね。

ポーターは、後輩のスタウト人気に押されて一時は衰退してしまいしたが、近年のクラフトビールの隆盛と共に再び飲まれるようになりました。

スタウトが海を渡った理由

アイルランド生まれのスタウトが世界各国で飲まれるようになった理由。それは大英帝国の世界進出と、アイルランドの悲しい歴史に由来します。

当時のアイルランドは、政治的にも社会的にも一部の英国人系の支配層によって牛耳られ、半植民地状態。大量生産を可能にした産業革命と、大英帝国の海外進出に伴い、ギネスは大量に製造され国外に輸出されるようになります。

一方で、19世紀半ばに再三アイルランドを襲った飢饉は低所得者たちの主食であったジャガイモを破滅させます。貧しい農民たちは故郷を去り、オーストラリアやアメリカに移住するよりありませんでした。もちろん船にはギネスを乗せて。新天地では、アイルランド系移民たちの集まる場所としてアイリッシュパブがオープンし、慣れ親しんだスタウトが飲まれました。

毎年3月17日前後の日曜に、世界中で開催されている「セント・パトリックス・デイ」はアイルランドの聖人を偲ぶお祭り。アイルランド移民を先祖に持つ人がいかに多いかを感じさせられます。もちろん飲まれているのはスタウトです。

続々誕生スタウトファミリー

英国の世界進出と、アイルランド移民とともに世界中に広まったスタウトですが、それぞれの国で進化をします。近年ではクラフトビールの流行により、個性的なスタウトも続々とリリースされています。

ドライ・スタウト
香ばしい苦みとドライな後口

ミルク・スタウト/スィート・スタウト/クリーム・スタウト
乳糖を加え、甘くまろやかな味わいに

オイスター・スタウト
牡蠣の身と殻を煮だしたもの。深みのある味わい

オートミール・スタウト
原料の一部にオート麦を使用。滑らかな舌触り

フォーリン・スタウト
それぞれの国でその好みに合わせて造られている

インペリアル・スタウト
アルコール度数を7~12%に上げており、味や香りも強い。木樽で熟成されているものもある

デザートにスタウトはいかが?

「ビールにデザートを合わせる」と言ったら、嫌な顔をされる方も多いのでは?

スタウトにはビターチョコや深煎りコーヒーを連想させる焦げのような風味と苦みがあります。ローストした麦芽由来の焦げのような苦みは、甘みとリンク。苦いコーヒーにスイーツが合うのと同じく、スタウトにスイーツは好相性なのです。

バニラアイスやチョコレート、バスクチーズケーキ、マシュマロなどの洋菓子はもちろんのこと、最中や羊羹などアンコを使った和菓子全般にも合いますよ。
スタウトとチョコレート

デザートスタウトは「大人の愉しみ」

クラフトビールには、スタウト自体をスイーツにしてしまったものも。スイーツとはいっても甘ったるさはなく、ほろ苦さの中に副原料の豊かな香りと味わいが感じられ、満足感の高い一杯です。

神奈川県にあるサンクトガーレン醸造所では、マダガスカル産の高級バニラを使った「スイートバニラスタウト」や、バレンタイン期間限定で「ダブルミントチョコレートスタウト」、「オレンジチョコレートスタウト」などを販売。

鹿児島県の城山ブルワリーでは奄美大島の特産品を使った「黒糖スタウト」、長野県のヤッホーブルーイングでは桜餅を使った輸出用「SORRY SAKURA MOCHI STOUT」など各社工夫を凝らしています。

スイーツ大好きな人にも、そうでない人にも是非味わってみてもらいたい、大人だけの愉しみ「飲むデザート」です。

スタウトのおすすめ銘柄はこれ!

\ギネスオリジナルの味を引き継ぐ本場の味わい/
ギネス・エクストラスタウト
クリーミーで豊かな泡。コーヒーのような焦げた苦みの奥に、ホップの爽やかな苦みも見え隠れ。重厚ながらもキレのある軽快な飲み口で、奥行きを感じさせます。缶で販売されている「ドラフト・ギネス」よりもボディは高め。

ギネス社は創業者のアーサー・ギネスが、1759年12月31日に休眠状態だったアイルランド、ダブリンのセント・ジェームズ・ゲート醸造所を9000年という途方もない期間契約で借りたことが始まり。伝統を守りつつ技術革新を進め、世界指折りの巨大醸造所に。醸造所内にある博物館「ギネス・ストアハウス」はダブリンで人気の観光地。

メーカー名:ディアジオ
生産地:アイルランド
原材料:麦芽、ホップ、大麦
アルコール度数:5.0%



\ほのかな甘みとスムースな飲み心地/
常陸野ネスト スイートスタウト
焙煎麦芽の香ばしさを存分に感じつつもすっきりと軽快な印象。エスプレッソコーヒーのような苦みの中に乳糖の甘みが感じられます。軽快に喉を滑り落ちていった後に舌に残るじんわりとした苦みが心地よいビールです。

江戸時代から常陸の国那珂郡鴻巣村で、酒造りの歴史を持つ木内酒造が、日本酒の醸造技術を生かし、木内酒造でしか造れない日本の味を追求しています。国内外のビールコンペティションでも数々の賞を受賞。フクロウラベルのネストビールは世界各国に輸出されており、世界に羽ばたく日本の名醸造所です。

メーカー名:木内酒造
生産地:茨城県
原材料:麦芽、ホップ、乳糖
アルコール度数:4.0%

おすすめスタウトに合うおつまみは?

ギネス・エクストラスタウト × 焼き鳥レバーのタレ
味の輪郭がしっかりとしたスタウトには味が濃いもの、色が濃いものに合わせやすく、味噌や醤油を使って甘辛く仕上げた和の料理にもよく合います。

焼き鳥レバーのタレが持つ、醤油の甘辛さや焼き目のほろ苦さは、スタウトの豊かなロースト感にぴったりマッチします。スタウトのこうばしい焦げの風味で、肉の甘みや旨味が増幅。ほのかな酸味はレバー特有の臭みをすっきりと流してくれます。
焼き鳥レバータレ

常陸野ネスト スイートスタウト × スモーク牡蠣のオイル漬け
スタウトと相性が良い食材のひとつが牡蠣。製造工程で牡蠣とその殻を漬け込んだ「オイスター・スタウト」があるように、牡蠣とスタウトは仲良しコンビです。

「スモーク牡蠣のオイル漬け」は、牡蠣がまとった燻製香と、スタウトの焙煎の香りが調和し鼻腔をくすぐります。噛みしめる度に牡蠣の凝縮された旨味がいっぱいに広がり、スタウトのほろ苦さと甘みがそれを増幅させます。飲み込んだ後も口の中に心地よい余韻。またすぐに次の牡蠣を口に入れたくなります。
スモーク牡蠣のオイル漬け
※記事の情報は2020年6月15日時点のものです。

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